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アヴィラ
30
洞窟の中にはなんの形跡も残っていない。

目の前にはレイスの美貌。

だが、長年の付き合いで笑っていても怒っているのは手に取るようにわかった。

やはりロイ様を連れ出してしまった私にレイスは怒りを感じているのかもしれない。

周りにはロイ様とヴィクトリア様が陛下に抱きあげられている幸せな王族の方の光景。

ヴィクトリア様がご無事で本当に良かったと思えたし、またカナメも生贄にならずにすんで良かったと思った。

これで何も思い残す事はない。

レイスを怒らせたままなのが少し辛い。

だけど彼が愛してくれた私の中の記憶は消えないだろう。

このまま城に戻れば、軍事裁判になるかもしれない。

それではロイ様を連れ出した時に城にいたレイスにも迷惑がかかってしまう。

本来ならここで陛下に斬り捨てて頂くのが一番良いのだが、ヴィクトリア様のご無事を喜んでいらっしゃるロイ様や陛下に水を差すような事は出来ない。

「ラファー?」

不安そうな顔をしていたのだろう。

レイスが私の名を呼んだ。

私を覗き込むレイスの顔は端正に整っている。

陛下の美貌とも、明るい太陽の様なマルス将軍とも、無表情で人形のようなカインとも違う、知的に整っているレイスの美貌。

この顔が好きだと、胸が締め付けられた。

カナメが泣いているのが見えた。

生贄にされかけたのだ、恐怖を感じて当然だろう。

そのカナメをカインは優しい顔で抱きしめ、慰めていた。

カナメを連れて行く時にした約束はきちんと守られているようだ。

カインが呪文を唱え、全員を城に戻してくれる。

「ヴィクトリア様!よくご無事で!皆様も!」

そう言ってエルザが城の中から走って来た。

「エルザ!無事よ!お母様、乳母のエルザのところに行かせて下さる?」

「ああ、勿論。心配して貰っていたのだから。陛下、ヴィクトリアを降ろして良いですか?」

「ヴィクトリア様!!」

「エルザ、心配してくれて有難う!」

エルザに会えて嬉しそうなヴィクトリア様に良かったと思った。

ロイ様やヴィクトリア様に気づかれない為には今しかない。

「陛下、少し宜しいですか?」

私は小さな、本当に小さな陛下にしか聞こえない声で無礼にも王族の方を呼んだ。

陛下は気づいて下さり、頷いて私の後を付いて来て下さった。

「陛下、大変申し訳ございません!」

膝をついて謝罪する。

勿論、謝罪だけで許される事だなんて思っていない。

「ロイ様、いえ正妃様を離宮から連れ出した責任はすべて私に有ります。そして連れ出した事によりロイ様を危険な目にあわせてしまった事も全ては私の責任。正妃様を連れ出した時に城を預かっていたレイスにはなんの罪もありません。城に戻り日が過ぎてからの処分は、色々と噂になしましょう。もしかすれば正妃様のお耳に入るかもしれません。なので、今、正妃様を城から連れ出した罪として斬り捨てて下さい。どうぞ処分を。」

今なら気づかれないだろう。

それにヴィクトリア様やロイ様に、私が死んだと言う真実は告げらる事はないだろうと判断した。

陛下の腰の剣が抜かれる。

私は覚悟を決めて目を瞑った。

「駄目!」

「駄目だ!」

「駄目です!」

そう叫んでくれたのはロイ様とカナメとライアス。

皆の声に驚いて目を開けると3人は陛下から私を庇うように両手を広げて私の前に立っていた。

「殺させたりなんてしない!」

「王様!この人に罪があるのかもしれないけど殺すなよ!」

カナメとライアスが陛下に向かって叫ぶ。

「キアルーク様!私がラファーに無理に頼んだのです。罪を受けるなら私です!」

3人が陛下に向かって私を庇ってくれる。

だが……罪は罪なのだ。

罰は受けなければいけない。

「みんな……ロイ様、いいえヴィクトリア様を探す為にロイ様を離宮からお連れした事の罪は私が被らなければいけないもの。なので……。」

と言いかけて、私は言葉を無くした。

レイスが陛下から庇うように私の横に来たから。

「カインさん?」

そんなカナメの言葉で横を見れば2人を庇うように、カナメの前にはカインが、ライアスの前にはマルスがいた。

「キアー、怒っているのはわかるけど、やめといた方が良くない?つーか、俺的にはどっちでもいいんだけど、このままキアがラファー殺しちゃうのを放っておいたらライアスに嫌われそうだから一応言っとく。」

「陛下、申し訳ありませぬ。陛下に逆らう気はまったくないのですが、ウチの可愛いカナメが悲しむのをあまり見たくないのです。カナメが命の恩人としてラファーに懐いているので。それにラファーを殺してしまうとレイスも後を追うかもしれないじゃないですか。宰相がいなくなってしまうのは不便だと思うので、邪魔させて頂こうかと。」

マルスとカインがそんな事を言った。

「ラファー、私を置いて死ぬ気だったんですか?」

「レイス……。」

「ようやく貴方から愛していると言ってくれるようになったのに……庇って下さるぐらいなら一緒に死ねと言ってくれる方が嬉しいですよ?と、言うわけで陛下、斬り捨てるならラファーと共に私も一緒にお願いします。」

レイスが私に笑う。

一緒に……そんな事は出来ないと思った。

罪は私が犯したのだから。

死を覚悟し、レイスに迷惑を掛ける事を承知でロイ様を連れ出したのだから。

そんな私達に陛下が「はぁ……。」と溜め息を付いた。

「別にラファーを斬り捨てる気はない。」

「「「「「え?」」」」」

「お前達が何を勘違いしているのかはわからないが、最初からラファーを斬り捨てる気はない。」

なんて陛下がおっしゃる。

何故?

「本当ですか?」

とロイ様が陛下に確認された。

「ああ。だが王命は絶対だ。離宮に入った上にロイを連れ出して、罰を与えないわけにはいかない。」

「勿論です。」と返事した。

それは当然の事だ。

「だから片腕の斬り落そうとしただけだ。」

「あぁ、そう言う事か。」

「それなら、まぁ。」

「片腕ですか。」

陛下の言葉にマルス、カイン、レイスが仕方ないと言った感じで頷いた。

片腕だけで許して下さるのか……と思っていたら。

「「「駄目!!!」」」

とロイ様とカナメとライアスの3人が大きな声で叫んだ。

庇って下さっているのは嬉しいが、これ以上の譲歩は陛下の立場などを考えるとするべきではない。

「ライアス、我がまま言わないで。キアにだって立場があるし、事情もある。ラファーのした事を許してしまうと、ヴィクトリアが誘拐されたみたいに、今度は正妃ちゃんが誘拐されるかもしれない。本当なら死罪なのを腕1本って言っているんだから……ね?」

「なら、マルスは俺の腕がなくなってお前を抱きしめられなくても寂しくないのかよ!」

「……っ!キアー、他の罰にしない?」

「カナメ、国を動かす人間は感情だけで行動出来ない事もあるので……ね?」

「いやです。ラファーさんは俺の恩人です。その人の腕がなくなってしまうのを、ただ見ているだけなんて!それにラファーさんがあの洞窟でどんなにロイさんを庇っていたか俺は見ていたんです!」

「カナメ……。」

「キアルーク様……もしラファーの片腕を斬り落とすとおっしゃるのなら……。」

「ロイ?斬り落とすと言うなら、なんだというのだ?」

「嫌いになります。半年はキアルーク様と口を利きません。話しかけられても無視します。」

「っ……他の罪にしよう。」

3人の言葉に、陛下は罰を変更された。

思わず驚いてレイスの方を向いてしまう。

いいのだろうか?そんな風に思う私に向かってレイスは「良かったですね。」と小さく囁いた。

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