アヴィラ
27
「ラファー。出来るだけ情報を集めたいんですが、情報の集まりそうな場所の検討がつきますか?」
ロイ様が私にそうお聞きになられた。
本来ならば一番情報が集まるのは国軍の最前線。
情報部隊だろう。
だがマルスに見つかれば、ロイ様の自らヴィクトリア様を探したいと言うお気持ちは無視され離宮に戻されるのは目に見えている。
他に情報が早い場所。
やはり……あそこしかないか?
この数年は政治に携わる事がないが、少し前には内政に関る仕事をしていた。
その為、貴族だけではなく庶民の暮らしが知りたいと思い、王都の酒場に出入りしていた事がある。
あそこは噂話が伝わるのが早い。
だが酒場だけでは噂話でしかなく、真実かどうかの判断をする基準がなかった。
だからより詳しい情報を得る事が出来ないかと調べ、情報屋をやっている店がある事を知った。
軍部の最前線の話も、そこでなら聞ける。
私はロイ様を酒場がある路地にお連れする。
「ロイ様……申し訳ありませんが、ここで待っていて下さいますか?」
王都には場末と言うものはなく、比較的しっかりしているとはいえ高級店には遠く及ばない場所にロイ様を連れて行く事など出来ない。
「話を聞きに行くのでしょう?僕も行きます!ラファー、心配しないで下さい。僕はマディスにいた頃、貴族の屋敷の下働きでした。こう言った店にもお使いで何度も行ったんです!」
そんなロイ様の言葉で私はロイ様と共に酒場に入った。
だが用事があるのは酒場ではない。
私はそのまま入って来た扉とは反対側にある小さな扉から店を出た。
細くて暗い路地。
その中の小さな店に足を踏み入れる。
「おや、ラファー。久しぶりだな。今の宰相になってから久しく来なかったのに。」
「情報が欲しい。」
私はさっき服を売って出来た金の半分を小さなカウンターに置いた。
「わかってる。連れ去られたヴィクトリア様の事だろう?もうそろそろ来る頃だと思って帰って来た軍のヤツから仕入れて、現地にいる人間達からも小さな話をいくつか貰ったよ。」
「ヴィクトリア様が何者かによって拉致された事まではわかっている。探す手がかりが欲しいんだ。」
私は店主にそう言った。
「ヴィクトリア様かどうかはわからないが、ガガン山脈を越えた国境で見かけない馬車がガガンの岩山に消えて行くのを見た人間がいるらしい。」
「ガガンの岩山に消えた?」
「ああ、そうだ。スーと吸い込まれて行ったらしい。小さな子供が窓を叩きながら泣いていたと言う話と平行してるからヴィクトリア様じゃないかと思ってるんだが。軍でも、この馬車がビクトリア様じゃないかと、今、捜索されている。」
情報屋の店主が金を受け取りながらそう言う。
「ガガン山脈は、ここからなら何日ぐらいですか?!」
ロイ様が焦ったように店主に質問された。
「特急馬車に忙がせたって2日はかかるぜ。」
「そんな……もっと早く行く方法はないんですか?!」
「上級魔道師の移動呪文なら短時間で付く事も可能かもしれないがなぁ。」
と店主は頭をかいた。
魔道師か。
カインの姿が脳に浮かび上がったがカインもヴィクトリア様捜索に出ているはず。
他の魔道団の魔道師達も軍として捜索に出ているだろう。
馬車でガガン山脈に行くしかないのか……。
「残っていそうな魔道師を知らないか?」
私は店主にそう質問した。
「うーん、キアルーク陛下も必死で探されているから全員連れていってると思うぜ?」
「キアルーク様が?」
店主の言葉にロイ様が陛下の名を小さく呟かれた。
「そりゃキアルーク陛下にとっては可愛い我が子だもんなぁ。前線で指揮をとっておられるらしい。俺達もヴィクトリア様が居なくなったのは心配だよ。」
そう言ってくれる店の店主に感謝しながら、私達は店を出た。
さて、やはり馬車で移動するしないのか?
だが2日も掛かってしまえばヴィクトリア様の身の安全を保障出来ない。
何か方法はないだろうか?
そう思っていたら、バッタリと出会ったのはカナメだった。
「あれ?あの……もしかしてラファー……さ、ん?」
「カナメ!?」
カインにあずけた頃と違い、しっかりとしたアヴィラ語を話すカナメ。
あの時やせこけていた頬は本来の肌の色だろう高級魔石と同じ美しいクリーム色をしていた。
「あ、その節はお世話になりました。ラファーさんのおかげで俺はこんなに元気に……。」
カナメがせっかく挨拶してくれているんだが、今の私達には時間が無い。
「悪い、カナメ。今、私達は急いでいて……。」
「どこかに行くんですか?」
「ああ、ガガン山脈に行かねばならない。そうだ、カナメ。カインの知り合いでも誰でも構わない。上級魔道師を知らないか?それが駄目ならガガン山脈への最短のルートでも構わない。」
「ガガン山脈への最短ルート?」
「ああ。」
私がそう言うとカナメは何かを知っているのか考え込む。
「お願いします。僕の子を探しているんです!」
私の横からロイ様が焦った様に、そう言われた。
私は小さく「ロイ様。」と呟いてしまった。
しまったと思いカナメの顔を見る。
良かった。
異国の子であるカナメは正妃の名前を知らないようだ。
「あなたの子?」
「そうなんだ。この方の子供が連れ去られてガガン山脈の方へと消えたと言う情報を知ったんだ。頼む、この方の子供の命に関る事なんだ!」
私はカナメの肩を揺すって懇願した。
「わ、わかりました。俺に付いて来て下さい。」
カナメはそう言って私達を王都の中の一軒に案内した。
「ここは?」
「カインさんの家です。こっち、付いて来て下さい。」
カナメは私とロイ様を緑の扉の前に誘導した。
「この扉はガガン山脈に繋がってます。」
そう言ってカナメは私とロイ様と連れて緑の扉の外へと一緒に出てくれた。
驚いた事に王都の家の中がガガン山脈に繋がっているとは……。
さすがは宮廷魔道師のカイン。
死神の鎌と呼ばれた男だ。
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