アヴィラ
26
しかも城を預かっているレイスに迷惑を掛ける事になるな。
出来ればレイスには生きていて欲しい。
キアルーク陛下が、それを許して下さればいいが。
「わかりました。今でしたらマルス将軍もキアルーク陛下もいらっしゃらない。レイスは城の指揮と指示に追われているでしょう。数年間、離宮から出られる事のなかったロイ様がまさか離宮を出られるとは思わないはず。」
「ラファー?!貴方、本気なの?」
「本気だよ。マーサ、我が子が行方不明になってじっとしていられない気持ちはマーサにもわかるだろう?協力してくれるね?」
私はマーサにそう言った。
マーサは深く溜め息を付いた。
「わかったわ。」
「ロイ様、表から出る事は出来ません。この離宮以外にも沢山の警備兵がいますので。離宮の奥の正妃の寝室の暖炉の中に隠し通路がございます。あれが門の外に繋がっていますのでそこから出ましょう。マーサ、侍女の1人に私の振りをさせて、私は離宮から出たようにみせかけて欲しい。」
よもやルイラ様から教わった王族だけの秘密の抜け穴が役に立つ時がくるとは思わなかった。
「ええ。」
私はマーサに自分の上着を渡した。
「侍女にコレを着せて、私は外に出たと思わせて。キアルーク陛下は多分、夜は渡られないだろうけれど明日には来られるかもしれない。その場合は変な言い訳はせずに私がロイ様を連れ出したと言って。」
「ラファー?!」
「変に言い訳をすれば、キアルーク陛下はロイ様まで何事かに巻き込まれたと心配されてしまう。聡明なキアルーク陛下には下手な嘘は通じない。変に言い訳してマーサ達に何かあっても困る。だからヴィクトリア様を探す為に私が連れ出したとキアルーク陛下に伝えて。」
マーサは私の決意がわかったらしい。
コクンッと無言で頷いてくれた。
「ラファーさん。」
「ロイ様、私は家臣ですのでラファーと呼び捨てを……では急ぎましょう。」
私は正妃の寝室の暖炉の奥のブロックを一つ押す。
ガコッと音がして、通路が現れた。
「そんなところに通路が?」
「本来ならば、ロイ様はご存知でなければならない通路です。マーサは知っているはずなので何かあった時には教えたでしょう。ルイラ様がいらっしゃったら、きっとロイ様に教えて差し上げたでしょう。」
「ルイラ様……キアルーク様のお母上ですね。」
「はい。美しく、お優しい方でした。」
私はそう言ってロイ様を通路の中へと案内した。
通路は王都の門の外れにある墓標の下に通じている。
私達はそこに出て来た。
「この格好では目立ちますね。市場か何かあればいいんですが。」
「ロイ様、王都の市で着替えを調達しましょう。」
王都の市は賑やかに混雑していて、有り難い事に私達の姿を隠してくれる。
意外な事にロイ様は市に驚かれる事も、興味を持たれる事もなく慣れた様子でいらっしゃった。
「店主すまない、この服とここの服を交換して欲しいんだが。」
私は露店の服屋を見つけて、王都の商人達が着ていそうな服を選んだ。
「あらぁ!お客さん、この上着だけでこの服一式買えるよ!」
「なら、残りは路銀にしてくれ。入用なんだ。」
そう言って着ていた服を新しい服と金に変える。
緊急時でなければロイ様にこんな服をお着せするのは心苦しいのだが。
「着替えたいのだが、奥を借りても構わないか?」
「ああ、狭苦しいけど構わないよ。」
正妃であるロイ様を道端で着替えさせる事は出来ないので、露店のテントの奥を借りて着替た。
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