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アヴィラ
20
彼の名前はわかったが、私は仕事を放り出して来ている。

ずっと彼の傍にいるわけにもいかず、とりあえず部屋を出ようとしたら、彼が縋り付くように私の服の裾を掴んだ。

『ёкёゝбб?』

そんな彼の様子がまるで保護者がどこかへ行くのが不安な幼子の様に見えた。

「大丈夫、また明日来るから。」

私は彼にそう告げて部屋を出て、厨房へ向かって明日の朝に彼の食事を運んで貰う様に頼んだ。

とりあえず彼の当面の食費を自分の財布から払う事にした。

次の日。

私の屋敷にラガバス卿からの手紙が届いた。

私はラガバス卿に後宮はその後ろ盾である人間が援助する事になっている事を知らせた手紙を書いたのだが、ラガバス卿は、彼が王の寵愛を受け自分を王に近しい者としてくれるのなら援助してもいい、だが、そうじゃないなら援助などしないと脅しの様な文章を書いて寄越した。

私は思わず溜め息を付く。

キアルーク陛下がロイ様以外に興味を示されるなんて事ないと知っているから。

ヴィクトリア様との勉強の時間を追え、その他の雑事も済ませてから気になっていた彼の元へと夕食を持って向かった。

部屋は鍵が掛かっておらす、昨日私が出ていったままの様だった。

そして部屋の主である異国の彼はベッドで眠ってしまっている。

彼とラガバス卿の関係はよくわからないがこんな状態で放って置くなんて……と思った。

夕飯を食べて貰おうと彼を揺すり起こす。

「カナメ、カナメ。」

と彼の名を呼んで起こした。

『ёкёゝббёкёゝбб。』

起きて私の顔を見た途端、彼は何かを話し出した。

お礼を言われているような気がする。

彼は首を前に少し傾けた。

「お礼を言ってるのかい?ラガバス卿は君を援助しないと言っていたよ。どうする、この部屋を出て、故郷に帰る?どこかはわからないけど遠い島の人なんだろう?」

と話しかけてみたけれど、彼には理解出来ないようだった。

私はとりあえず薄暗くなって来たので、魔法石で部屋の照明をつける事にした。

『ёкёゝббёкёゝбб?』と彼は何かを聞いた。

もしかして、魔法石すら知らない場所から来た?

いや、そんな、まるで別世界の人間の様な事はないだろう。

魔法石を掲げ『灯せ!』と唱えて照明を付ける。

『ёкёゝббラファーёкёゝбб?』

物凄く驚いている様な顔。

本当に魔法石を知らない?

「これは魔法石、魔力の無い人間が火を熾したり明かりを灯したり何かを動かしたりするもの。知らないのか?』

と魔法石を指差して聞いてみた。

だが、言葉が伝わらないから当然彼はキョトンとしている。

なので私は一度「消えろ!」と言って照明を消した。

そして彼に持たせる。

魔法石の使い方すら知らないなんて、彼は今までどうやって生活して来たんだろう?

どれほど不便な生活を送って来たんだろう?と思いながら、私は彼に魔法石の使い方を教えようと思った。

とりあえず彼に魔法石を持たせて照明器具の前に立たせ、魔法石を近づけさせる。

「灯せ!」

『ёкёб?』

「灯せ、と・も・せ、って言ってみて。灯せ!」

私がしようとしている事を彼は理解出来たのか「ろぅまぅせ。」と言った。

私はもう一度彼に「灯せ!」と自分の口を指差して言う。

「ともぅせ!」

危うい発音だが、魔法石は発動して照明器具を灯す事が出来た事を彼は驚いている様だ。

私はそれで大丈夫を言う意味をこめて、首を縦に振って見せた。

魔法石がないなんて、きっと本当に遠い国から来たんだろう。

それにしても、どうやってここまで来たんだろうか?

今まで魔法石を使う人間に遭遇した事がないと言うのもおかしな話だ。

この世界で魔法石を使わずにどうやって生きてきたんだろう?

とりあえず明かりをつけるにしても、何かを燃やすにしても1つぐらい魔法石は必要だ。

じゃないと風呂にすら入れない。

なので、私は自分の持っている魔法石を上げる事にした。

すると、彼は意図がわからないのか私に魔法石を返そうとしてくる。

「ううん、いいんだ。君に上げるんだよ。」

「ёкёкёбёк?」

くれるのかと言う感じで彼は私のあげた魔法石を握り締めたので、私は首を縦に振り肯定してみせた。

その後、私は彼がアヴィラ語を話せる様になるのを手伝おうと思った。

幼い子に言葉を教えるのと、きっと大差ない。

そう思うと、王女の教育係りとしての血が疼いた。

とりあえず、身近な単語だけでも覚えて貰おう。

そう思いながら、私は仕事が終わると夕食を持って彼の部屋に行き、少しずつ言葉を覚えられる様に教えた。

カナメにホンの少しだけ笑顔が見れる様になった頃、城の庭でカインと会った。

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あきゅろす。
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