アヴィラ
18
初めて見る、年相応に見えるレイスを愛しいと思える。
「嬉しいですよラファー。本当は今すぐ押し倒したいぐらいですが、この場所では無理ですね。」
とニヤニヤ笑い、レイスはいつもの冷静な男に戻ってしまった。
「だから、せめて抱きしめさせて下さい。」
そう言ってレイスは庭の庭園だと言うのに抱きしめてきた。
「え、おい、ここ、城の庭園。」
「いいでしょう?別に恋人同士なのですから。」
そう言ってレイスは私を抱きしめたまま、放さなかった。
「あら?ようやくくっついたの?」
後ろから声が掛かって、身体がビクッとする。
レイスに抱きしめられたまま後ろを振り返ると、エルザだった。
「ふふ、良かったわ、幸せになってね。それで婚姻するの?」
なんて言われて、顔が赤くなる。
「そうですね出来ればしたいのは山々ですが、私には出来ない事情がありまして。」
「え?」
レイスの言葉に俺は驚いた。
「ええ、ファビーラ令嬢ですわね。」と納得した様にエルザが言う。
「おや、よくご存知ですね。」
「ええ、存じてます。宰相になる為には前宰相の義理の息子と言う名目が必要で。ファビーラ令嬢と婚約したものの宰相になってしまったら破棄してしまったのでしょう?だって有名な噂話ですもの。そして今、何故かファビーラ令嬢がグレイドル宰相を追い掛け回している事も。」
「じゃあ、これもご存知ですか?私が宰相になりたかったのはラファーとの約束の為だったと言う事を。」
ニコッとエルザに笑いながらレイスはそう言った。
言われて、私の顔は更に赤くなる。
「あら、そんな頃からだったのですか?」
「ええ、結構昔からラファー一筋なのですよ。」
とレイスは恥ずかしげも無く答える。
「じゃあ、ファビーラ令嬢の出る幕が無いですわね。」
「そうですね、ですがその婚約を断る為にファビーラ様に私は誰とも婚姻しませんと宣言してしまいまして。あの頃はまさか同性同士で婚姻出来る様になるとも思ってませんでしたし、ましてラファーが私の思いに答えてくれるとも思ってなかったので。私は一生ラファーの愛人でいるつもりだったんですよ。」
レイスの言葉に私はまた驚いた。
私に女性と婚姻すれば良いと言っていたレイス。
私が婚姻しても、私達の関係を解消しないと言っていた。
だが、それはレイスも婚姻をするからだと思っていたのに、誰とも婚姻せずに私の日陰者になろうとしていたんだと思って驚いた。
「残念ながら前宰相はキアルーク陛下と相性があまり良くないのです。と言うかまだ現役で宰相と言う職が出来た彼を私やキアルーク陛下が騙すように引退させ、私が今の宰相に納まった。彼はファビーラ様を私に嫁がせて影の権力者としてキアルーク陛下を私で上手く操るつもりで宰相の椅子を簡単に渡し私が義息子になるように手を回した。で、私はそれを裏切った。ですが、ファビーラ様が私に恋して下さっているので彼は私に手出し出来ない。これで私がファビーラ様にラファーを好きになったのでラファーと結婚しますと言って彼女の恋心を消してしまうと前宰相はボドリュ家とグレイドル家を潰そうと躍起になってくるかもしれないんです。」
「じゃあ、キアルーク陛下に頼めばよいのでは?」
「それも考えましたが、前宰相は今はファビーラ令嬢の気持ちを汲み、しかも私を使ってこの国の政治を操れるとまだ思ってらっしゃるので今のところ何もして来られない。だがキアルーク陛下は実力主義者で家柄に関係なく能力のある人間を傍に置かれます。昔の風習にしがみついてる貴族の中にはその事が面白くないものも多い。キアルーク陛下に見切りをつけ、前宰相とそう言った人間が手を組んで私と一緒にキアルーク陛下を引き摺り下ろしロアーク皇太子を祭り上げてしまいかねないんですよ。」
そんなレイスの話に呆然とした。
貴族の関係はドロドロしていると前から思っていたが、ここまでとは思わなかった。
「婚姻なんていい。別に婚姻しなくても私がレイスを好きで、レイスが私を好きな事にはわかりないんだろう?」
「ラファー。」
私の言葉にレイスは私をギュッと抱きしめて、キスしようとしてくる。
思わず目を瞑り掛け「コホン、ここにいるんですけど?」なんて言うエルザの言葉に現実を思い出して焦って離れた。
「邪魔しないで欲しいのですね?」
とレイスがエルザに向かって言うと、エルザも負けてなかった。
「ファビーラ令嬢や前宰相、それじゃなくても他の貴族に見つかるのはまずいんじゃないですか?だから今までラファーと呼ぶ事もせずにボドリュ卿で通して来たんでしょう?そしてラファーと堂々と呼ぶ私が憎たらしくて睨んで来てた癖に。両思いになったからって浮かれてバレる様な真似をしていいのですか?」
なんて意地悪く返してくる。
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