初めて会ったのは名前が産まれた日。
母から受け継いだ漆黒の髪を血に濡らして大きな声をあげて泣いたのを彼女の父親の隣で一緒に見て、
俺は自分の大切な世界がまた増えたと喜んだ。
名前が幼稚園生の時、まだ見た目10歳位年上の俺を兄と慕う名前を目一杯可愛がった。
新しく広がり始める彼女の世界を祝福した。
彼女が俺と並んでも恋人通しに見えるくらいになった時、彼女に告白されて初めて自分が名前に恋愛感情を抱いていることに気付いた。
それでもカミサマの俺が恋愛をすることはタブーだからと断った。彼女がどれだけ悲しんだかを俺は知らない。
名前はそれなりの大学へ行って、それなりの企業に就職して、同僚と結婚した。
結婚式に招待されて行ったらそこにはもう少女だった彼女は居なくて立派な大人の女性になっていた。
それから数年して、子供3人を連れて出かけている名前と出会った。
その昔、『この世で一番強いのは主婦だから私は主婦になるんだ』と言っていた名前を鼻で笑って否定し、『一番強いのはカミサマに決まってんだろ』とか言った自分が情けなくなるくらい彼女は強くなっていた。
そして、今。
力なく上げた名前の手は幼く柔らかい手でも爪にこだわり出した辺りの思春期の手でもスラッと細くて真っ白な手でも主婦の少し荒れていて、それでいて頼りになる手でもないしわくちゃな彼女の顔の皮膚と同じような感じの手だった。
『MZD、泣いちゃ駄目。
カミサマが一人の人間が死ぬくらいで泣いちゃ駄目。
これからももっと辛いことがあるかもしれないんだから強くなりなさい。』
そう言うと名前は微笑みながら俺の頭を撫でた。
自分の死すらも恐れない彼女のようになりたいと願ってしまった。
名前の、俺にとっては一瞬で彼女にとっては一生な時が過ぎたというのに俺は彼女に初めて会った時と変わらない子供の姿のままだった。
ピーターパンの嘆き。
(カミサマの運命を決めているのはいったい誰なんだ)(どうやら俺は死ねないみたいだから、折角の長い人生はお前の為の最高のラブソングを歌っててやるよ)
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MZDはカミサマだからきっと不死だよっていう妄想。
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