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土方は横目にちらりと年下の幼なじみを確認しつつ、短くなった煙草をパソコン脇の灰皿ですりつぶして床に座った。数日後に提出しなくてはいけないレポートを書き上げるためだ。
来年になれば卒論だけで1年を終わらすことが出来るのに、3年生のこの時期は次から次へとレポートが降ってくるという、学生にしてみれば時間配分を呪うような状況に土方も例外なく置かれている。
けれど、曲がりなりにも自分の選んだ道なのだ。信念を決して見失わないこの男は、全てをやり遂げるつもりである。
「お前、今日はなにすんの」
「えぇ〜?土方さんの観察??」
「勉強しろ」
それに比べて高校1年生は呑気なものだ、と土方は思う。
自分も決して真面目に高校生活を送っていたと言えるわけではないが、それでも、総悟よりはマシだっただろうと自負している。
鋭い双眸がさらに鋭利さを増して眉間に皺まで寄ったのに、柔らかい髪の少年はさして気にも留めず「どれどれ」と土方の右後ろからパソコンの画面を覗き込む。
腰から下はソファーに預けたままなので、まるで手押し車をしているかのような恰好だ。
やはり剣道部に所属しているだけあって腕の力はあるらしいのだが、それを理解できるような要素がいくら眺めてもこの少年には見受けられない。
どうしても、見た目には華奢という言葉がしっくりと当てはまってしまうのだ。
そしてさらに厄介なのは、美しいとも言えるこの身体に小綺麗な容姿が備わっていることだった。
今だって、じっと見ていた腕の薄い皮膚の下で、ピクリと動いた筋肉にさえ、よくないものを感じてしまっている。
土方は慌てて総悟から視線を外した。
「あ!今日はカタカナがありやすね?しおさん、エフ、エ、エフェ、ドリン・・・、おぉ、しおさんエフェドリン!!・・・なんですかィ、それ?」
「塩酸エフェドリンだ、馬鹿。つかお前塩酸も読めなくてよく高校入れたな」
「いいの、俺は文系だから」
それでも一般常識だ、と土方は苦笑を交えながら蜂蜜色の髪をくしゃくしゃとかき回す。漢字の読みは思いっきり文系な問題であるはずなのだが、既にゆるくなった空気の中ではさすがの土方も気付かないらしい。
それとも、フォロ方の血が騒いでこれ以上突っ込まないと判断したのか。
「・・・そうご、」
「ん」
後者の可能性は、土方が幼なじみを引き寄せたことによってほぼないに等しくなった。
ソファーに乗っていた総悟の下半身を下ろすために白い二の腕を取れば、間の空気を埋めるかのように2人はひっつく。
まだまだクーラーの効いている都会外れの残暑、差し込む西日の乾いた暖色とは対照的に総悟の頬は陶器のように冷たい。土方は自らの熱を分け与えるかのように手の甲を押し当てた。
そうしているとだんだん皮一枚の間さえももどかしくなってきて、そういえば昔ヒトの【かたち】を取り去って人類ひとつになろう、なんてアニメがあったけど、それもいいかもしれないなんて大人の男が本気で思う。
総悟とこうして付き合うようになってから、土方は少し病んだかもしれない。
それほどに埋もれているのだ、普通ではないこの関係に。
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