1 四月馬鹿の事情 久しぶりに早寝をしようと決意して、さあベッドへ、と思ったと同時に、机の上に置きっぱなしの携帯が蠢いた。バイブレーターというのは置いてある場所によってはとんでもない音を発するもので、机の上でも大騒ぎ。たぶん、普通の着信音だけの方が静かだと思う。 携帯の背面ディスプレイには、『メール受信完了』の文字。この相棒は開かないと受信相手を教えてくれないタイプだ。きっとレナなんかはきちんとグループ設定をして、そのグループ別に着信イルミネーションを設定して、開く前におおよその見当がつくようにしてあるんだろうけど、ボクはそんな律義ではない。着信音もこの携帯にしてからそのままだし。唯一待受だけは、綺麗な海の写真に変えているけども。 携帯を開く。待受画面に表示されたメールアイコンを選択すると、すぐに内容が表示された。 受信トレイ ____10/04/01 00:01 from:キッド(サラ) _sub:無題 ----------------------- 知ってた? 今日の競馬にシマウマが出るらしーぜ ____-END- 「…………」 改めて携帯の待受画面を見た。ディスプレイに表示された日付は、四月一日。つまりそういうことだ。ボクは思わず大きな溜息をついてしまった。 それにしてもシマウマが競馬に出たらどんなものだろう。俊足を競い合う凛々しい馬たちの群れに混じる縞模様―――そこまで考えて、自分がすっかり乗せられているんじゃないかと気づいた。 全く、やるならもっとしっかりやるべきだろう。ボクはもう一度キッドからの受信メールを開いて、返信ボタンを押した。 「目には目を、歯には歯を……ってハムラビ法典だったかな」 世界史の語句をぼんやり思い出しながら、メールの内容を打ち込んで行く。送信ボタンを押すと、ネットワークに接続したことを示すマークがちかちかと瞬いて、すぐに『送信完了しました』と表示された。 [→] |