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「なぁんだ、まだ起きてたの?ヤマネコ様」

静かな夜、ボクの背後から声。二日前なら、スワローを握りしめて睨み付けていた。けどそれが今や一番の頼みの綱―――笑えないけど、笑える。

「見張り」
「大仰な。あたいたちってそんなに弱かったっけー?」

声は背後だったはずなのに、真横から聞こえた。ツクヨミは、いつボクが椅子がわりにしていた丸太の端にちょこんと体操座りをしている。

「何考え事してたの?」
「別に」
「むきになるなよ。あたいが当ててア・ゲ・ル」

わざとらしいほど甘い声音で、ツクヨミはボクに囁く。そうして一対の角のような帽子にぶら下げた鈴を揺らし、片手をボクの目の前に翳してきた。

「わかった、あのガサツ女。キッドのこと」
「……!!」
「図星。ヤマネコ様ったら宿敵に情けをかけちゃうほど優しかった?」

含み笑いが憎らしい。ボクは返事もしたくなくなり、視線を逸らした。ぱちぱち爆ぜる焚火に目を移して黙ってやると、隣ではあらら怒っちゃった?なんて大仰な反応をしてる。それも無視していると、ツクヨミは勝手に話を続けはじめた。

「あたいの憶測だけどね。きっと『セルジュ』は殺さないんじゃないかな」
「……何故そう思う?」
「だってキッドはセルジュの仲間。つまり…最大の弱み」
「!」
「サクッと葬っちゃうより、目の前でじわじわといたぶった方が効果的」
「けどあの時…」

思い出すのは、古龍の砦。『ボク』はキッドを刺した。彼女のダガーで、彼女を。それを行ったのは自分で、だけど無力な自分はそれを見ているしかできなくて―――思い出すだけで咥内に苦い味が広がるような気がした。

「バッカだなーヤマネコ様は。あんたが持ってたエレメント、グリッドごとあっちのもんになってるの。その中にケアラのひとつやふたつ無かった訳?」
「あった…けど」
「じゃあそういうこと。あたいですら思い付いたんだから、ほぼ間違いないね」

言って、ツクヨミは唇を吊り上げる。道化師の化粧をしていた笑顔には軽蔑のようなものが含まれていたのかもしれない。けど彼女の言葉は確実にボクの心のつっかえが解れていくのを感じていた。

「…ありがとうツクヨミ。本当は敵なはずのボクを励ましてくれるなんて」
「…………!!」

顔を向けてボクなりの感謝を伝えると、見えたのは開く瞳孔、困惑したような表情。顔色を変えて瞳を逸らしてしまったツクヨミ。なんだか気まずくなって、ボクも視線を再び焚火に戻すほかなかった。

「ヤマネコ様」
「ん?」
「もしも、もしも…『セルジュ』がどうしようもなく強い力を手にしていて、あたいたちじゃあどうにもならなかったら」

それはツクヨミにとっても、ボクにとっても、何よりも避けなくてはいけない事態で。単なる弱音ともとれるこんな発言は、普段なら口にすべきではないのに。いや、しなかったんだ、ツクヨミは。
それでも続きを口にした。ボクの耳に届いたのは、ツクヨミの本心のカケラだったのかも、しれない。



03.
消えるときは一緒がいいね、なんてさ




―――「セルジュ」はほんの少し間をおいて、「その時は、そうだね」と返した。そうしてツクヨミを元気付けるように肩を叩くのだった。

‥END‥
まだ何かあるような、そんな気がした
2010.3.3


あきゅろす。
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