とりあえず…

さて、と雑鬼はどっかに追い払ったし。とりあえずこの辺散策でもしてみますか。ついでに、誰かに会わないかな―、なんて。朝になってからこっちに降りてくれば良かったかな?でも、それはそれできついものがあるんだよねえ。
あんな静かな場所に一人でいるなんて怖いし。


あー、さっきの雑鬼にでも一緒にいてもらえばよかったかな?
でも、それでなんかされたら嫌だしな…。


「あれだ。こういうときは歌だ!歌うのが一番いい!」


ということで、近所迷惑にならない程度に歌うことにしました。曲名は、童謡『おばけなんてないさ』です。どうぞっ!


「おばけなんて ないさ
おばけなんて うそさ
ねぼけたひとが
みまちがえたのさ
だけどちょっと だけどちょっと
ぼくだって こわいな
おばけなんて ないさ
おばけなんて うそさ」


夜の闇に小さく響く私の声。その歌はお化けを否定するものなんだけど…。


「余計に怖いからっ!」


ひとりで突っ込んでみてもむなしさが広がるだけだった。こういうのは、何も考えない方が怖くないらしい、し。逆に、考えるような歌を歌うとか、お経を唱えるとかしながらお化け屋敷を行くと、普通に行くのよりも怖くなるって聞いたことがある。


つまり、この方法は逆効果という訳。


「あー、やらなきゃよかった。背筋がやばい」


鳥肌が立つわ、背筋がなんか寒くなるわで本当に逆効果にしかならなかった。
あれだ。こういう歌は、明るい場所で怖くない時に歌いうのが一番だよね。


というか、この歌詞って、確かお化けが子供だったら友達になろうって考えてたよね…。
よくそんなことするよねー。
というか、友達になってどうするんだ。鬼ごっこなんて永遠に自分が鬼だよ?(タッチできずにすり抜けるから)
かくれんぼなんて永遠に見つけられないよ?(壁移動ができるから)
おしゃべりぐらいしかできなさそうだよ。


あ、でも幽体離脱したら一緒に遊べるかな?って、どんなこと考えてるんだろう、私。なんか、怖すぎて逆に面白くなってきちゃった。


周りは、やっぱり暗くてよく見えないけど、でも、絶対に今の京都ではないということだけは確か。


しいて言うなら、いや、そんなことありえないんだけど、というかありえてたまるかって感じなんだけど…。
その、昔爺様と一緒にいった博物館で見た京の都みたいな雰囲気…。


なんか、全体的に四角で、まがりくねった道が無いの。


今でいう昔の大きな家みたいな感じで、白い壁に瓦がついた兵が辺り一帯を囲んでいるって感じかな。


これで、本当に昔だったらどうしようかな。それって、タイムスリップだよね。論文とかに役立つかも…。
あれだよね。何事もポジティブにいかないと。


にしても、これ、どこ行こうかな?下手したら貴船にも帰れなくなるんじゃないかな?それは困る。こんなまったくもって知らないところに一人で迷子なんて絶対に餓死する。それに、お金だって無いし。
もし、ここが昔だったらお金なんてあって意味のないものになっちゃうけど。


あ、お腹すいてきた。


どうしようかな。このまま朝があけちゃったらきっと本当にどうにもできなくなっちゃう。誰かの家に転がり込んでみようか…。
こんな格好だけど。
それに、ここが本当に昔で、タイムスリップなんてしちゃったのかな?
それすらも怪しいんだよね…。


そんなことを考えながらぶらぶらしていると、ふいに、背後から冷たい突き刺すような何かを感じた。一気に緊迫する空気。


バッと後ろを振り返ると、そこには、何かまがまがしい妖気を醸し出し、動く何かがいた。


その何かを見極めようと目に力を入れてみる。
おぼろげながらに映ったのは、長い角を持った、たぶん牛。


「…う、し?」


毛が長く、頭上に長く太く鋭利な4本の固そうな角を持ち、大きな目玉をギョロつかせる。


そして、その牛は唸り声をあげたかと思うと、助走をつける闘牛のように前足だけで地面を蹴る。


とっさに鞄の中からお札を取り出す。すごい、妖気。自分じゃ勝ち目はないことなんて一目瞭然だ。
それに、相手は牛。私の脚力で敵うわけがない。


幸いなことに、まだ距離は遠い。今ならっ!


「のうまくさんまんだ、ばざらだん、せんだん、まかろしゃだ、そわたや、うんたらた、かんまん!」


とりあえず覚えているの言ってみろ!ってことで、すぐに頭に出てきた呪文を唱え札を投げる。それは勢いよく飛んでいき、牛の体に当たった。と、同時に光り、牛の体が吹っ飛んだ。
自分、すごいっ!
と心の中でほめる。そして、爺様に感謝だ。




りあえず…
(逃げるが勝ち!)




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