レアな君の物語

ふっ、と目が覚めた。天井に見える木目。それが自分の部屋ではないことを確認して起き上がる。窓から差し込む光は随分と強い。寝汗をかいていたらしく、気持ち悪かった。


とりあえず着替えをして、のそのそと部屋をでる。


太陽は随分と高く昇っているようだった。


「ありゃ…、寝過ごしちゃったかな?」


まあ、どれだけ寝ていようと、用事があるわけでなし。さて、これからどうしようか。これからのことを晴明さんに話に行かないといけないよねえ。


「あら?紗子さん起きたのね」


「あ、おはようございます。すいません、昨日なかなか寝付けなくて」


「ふふ、もうすぐ昼だから、もうちょっと待っててね」


にっこりほほ笑む彼女はとてもきれいだと思う。母親の記憶はほとんどないけど、きっと彼女は母親の鏡だろう。


「はい!あ、晴明さんっていらっしゃいますか?」


「今は清涼殿へと行かれているわ。しばらくしたら戻ってくるでしょうから、お昼を食べてお待ちしましょう?」


「はい。ありがろうございます」


露木さんを手伝うべく、ともに厨(くりや)、今で言う台所に向かった。


おいしい昼ごはんをいただき、しばらく部屋の前の縁側でボーっと外の景色を眺めていた。今は夏なのか、大分日差しが強い。暑いなあと思っていると、となりに何かの気配を感じてそっちを見た。


そこにいたのは、天一だった。


「おはようございます」


「おはようございます。紗子さん」


太陽の光に反射して、彼女の髪が煌めく。それはとてもきれいだった。


「天一さんって、美人さんですねえ…」


「え?」


「いえいえ。こっちの話し」


「おいおい、いくらお前でも天貴はやれねえぜ?」


何処からともなく庭に現れたのは朱雀さんだった。彼が現れたとたん、横にいる天一さんの空気が和らぐ。そして二人の視線が会った時、朱雀さんの雰囲気も同じような空気をまとった。
ああ、こういうのは知っている。


「二人は両想いなんですね」


再度驚いたように天一さんが私をみた。その顔に、ヘラリと笑っておく。


「私、いろいろあって、そういう雰囲気っていうんですかね?そういうの敏感なんですよ」


「そんなに、分かりやすかったですか?」


「他の人が気づくかはわからないけど、明らかに二人とも柔らかい雰囲気になってますから」


そう答えれば、二人は顔を見合わせた。まさに美男美女カップルだよね。街中でこの二人がデートとかしてたら、間違いなく男女ともに振り返るだろう。というか、きっと二度見するね。どこの映画スターっ!?見たいな感じ。


「…紗子はさっきから何してるんだ?」


「晴明さん待ちです。お出かけされてるみたいなので」


「晴明になんのようだ?」


晴明さんの名前を出した途端、警戒心を強める朱雀さん。んー、愛されてるよね。まあ当り前か。唯一無二の存在なんだろう。そういえば、爺様も陰陽師だったけど式神とかいたのかな?
でも、爺様って晴明さんみたいにすごかったっけ?そんなことなかったよね…。うーん?


「これからどうしようかと思いまして。いつまでもここでお世話になるわけにもいかず。とりあえず職探し、ですかねえ…」


「ここにいてはいけないのですか?」


天一さんの澄んだ声。綺麗な声だなあと思いつつ聞いていた。え?親父化してるって?そんなの天一さんの美貌を前にしたら当り前だよ。


「優しいですね」


「晴明もそう考えていると思いますが」


「ここは温かいですよね」


突然脈絡の無いようなことを行ったからか、二人はまた顔を見合わせていた。そのしぐさがとても自然だった。きっとこの二人が親になったら子供は幸せなんだろうと思える。


「それは日差しか?」


「日差しはちょっと暑すぎますかね」


手で顔を仰ぎながら言って見せれば怪訝な顔をされた。まあ、しょうがないか。彼の表情に苦笑を返す。


「他人様の迷惑になるなと教えられているんです。爺様がいないなら、なるべく一人でできるところまでするように、と」


「爺様?」


「私の爺様も陰陽師だったんですよ。晴明さんほどじゃないですけど。それでも、私に生き方を教えてくれた人でした。その人からの教えです。守らなければ」


「おや?天一に朱雀」


ぎし、と床がきしむ音とともに晴明さんが歩いてきた。お帰りになられたみたい。よかった。これ以上追及されても返す術がなかったし。


「紗子が探していたというから来てみれば、もう仲良くなったのかの?」


「暇そうにしていた私の話し相手になってくれたんです」


座っていた状態から立ち上がり、彼の前に立つ。二人は私たちの姿を見て、消えてしまった。


「して?話しとはなんじゃな?」


「昨日から考えていたんですが…」


「まあ、ここで立ち話もなんじゃ。わしの部屋においでなさいな」


話しを遮るようにニッコリ笑った晴明さん。その笑みにちょっと拍子抜けしちゃったけど、確かに立ち話もなんだし、ついていくことにした。


晴明さんの部屋に移り、再び本題へ。


「えっとですね。いつまでもお世話になっているわけにはいかないので、とりあえず出ようかと思うんです」


「ここを、かの?」


扇子で口元を隠す晴明さん。しかしその瞳はどこか鋭い。


「はい。もともと、高於さんのところに行った後は出るつもりでしたし。それが昨日あんなことになったからそのまま帰ってきたんですけど」


「して、ここを出てどうするつもりじゃ?」


「……旅、でもしますかねえ。ちょっと夢だったんで。陰創師の仕事をちょこっとしつつ…とか?」


冗談交じりにそう言ってみれば、ようやく晴明さんの表情が緩んだ。


「それもよかろう。しかし、今出ていかれては困りますな…」


「なぜ?」


「わしは、帝よりこの町を異形のものどもから守るよう仰せつかっておる」


そこまで言われれば十分だった。


「つまり、私を監視、ですか」


「そなたが、害をなすとはわしかておもってはおらん。わかるかの?今出ていかれる方が迷惑なのじゃよ」


さてはて、どこまでが本当のことなのか。口元を隠したままの晴明さん。その目元はとても真剣味を帯びている。


「…そこまで言われたらしょうがないですね」


迷惑はかけられないのだから、出ていかれて迷惑と言われてしまったら、出ていくわけにはいかなくなる。上手く揚げ足を取られたようだ。
苦笑してそう返すと、途端に笑顔に変わる晴明さん。まったく、この人は昌浩君の言うようにとんだ狸ジジイかもしれない。


「ほらな、言った通りだろ?」


突然現れたのは朱雀だった。


「これこれ、盗み聞きはいかんのう」


「ハハっ、そうですね。上手く丸めこまれてしまったようです」


それからは早かった。露樹さんに挨拶を済ませ、部屋はそのままでとのこと。そして、私に監視兼世話係として一人神将がつくことになった。


「勾陳」


晴明の呼び声に現れたのは、天一とは正反対にいそうな女の人だった。天一や太陰のような天女みたいな羽衣はなく、とても動きやすそうな、一見忍者のようにも見える。


「呼んだか。晴明」


声もハスキーだ。天一さんを綺麗だというのなら、彼女はかっこいいという部類に入るだろう。ただし、その顔もかなりの美人顔だ。うん、十二神将は美形ぞろいらしい。


「勾陳。お前はしばらく紗子の傍につけ」


「この娘の?」


「どうもです」


「なんだ。結局置くことにしたのか」


へえ、とまじまじと顔を見られ、ちょっとたじたじになる。


「勾陳」


「わかった。ふふっ、世話は昌浩以来だな」


「昌浩君の世話もしてたんですか?」


「ああ、赤ん坊のころに少しな」


「へえ!!」


昌浩君の子供のころかあ。結構美形だから、可愛いんだろうなあ。いまでも十分可愛いんだけど。


そのあと、昌浩君が帰ってくるまで昌浩君の昔話は続いた。






アな君の物語
(昔は、爺様爺様と後をついてきてな?)
(へーっ!かわいいですね!)
(まあ、あの頃は、な。今じゃ反抗期だ)
(ふふ、それも一種の愛情ですよ!)




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