予感がする

走って、走って、私は、妖気が集中している場所を必死に探していく。でも、この辺は不穏な空気が漂っているせいか、あまり集中できなくて、困る。


そのとき、向こうの方で、かすかに何かの叫び声が聞こえた気がした。


私は、迷わずそちらに向かって足を進める。


雲が不穏な動きをし出す。電気を帯びた分厚い雲は、再び月を覆い隠し、あたりを薄暗くした。その雲は、不自然な形で、渦をまくと、その中心に電気を集め、一つの民家らへんに雷を落とした。


「あそこだっ!」


なんとなく、確信があった。あそこに、いる。


私は迷わずそこをめざして走り出す。そこは、もう直ぐ近くだった。獣のような唸り声がすぐ間近まで聞こえてくる。


塀が破壊されている家が一つだけあった。そこを見てみれば、なんと、何十、いや、百はいるかもしれない数の妖怪がうごめいている。しかも、その中心には、大きな、翼を生やした妖怪がいた。


そして、その翼をはやした妖怪の前では炎の縦がサークルを描いている。あそこに、昌浩君たちがいる。


炎の縦の中までは見えないけど、それでも、そこに侵入しようとしている妖怪たちは見てとれた。炎に阻まれながらも、どんどんとそこに押し入っていく。
私は、親指のふさがりかけている傷を再び噛んだ。出てくる血を靴の上になぞっていく。マントラを書いたその靴に息を吹きかける。


「お願い、効いてっ!」


近くにあった石を拾った後、マントラを書いた方の足を思いっきり蹴った。
そうすれば、すごいスピードで走れる。よっしゃ!思った通り!


私は、そのまま、妖怪たちの間を走り抜けて、妖怪の隙をついて炎の中に入った。ちょうどそのとき、昌浩君が札を取り出して、術を唱えようとしているときだった。それでも、私はその現状を理解する前に、先に体が動いていた。
だって、私が通り抜けられたってことは、もう、後ろには妖怪が迫っているんだから―――


私は、目の前にいた昌浩君をかばうようにその体を抱えて伏せた。瞬間、後ろでまばゆい光が堕ちてきた。


「え?」


昌浩君の呆けたような一言が聞こえて、私はすぐに後ろを振り返った。そこには、剣を構えた赤い髪の男の人に、黒いマントをはおり、長い槍のようなものを持った長髪の男性。そして、上からゆっくりと降り立ったのは、長い髪を上の方で二つに縛っている女の子だった。


でも、何よりも、その男性陣二人の後ろにいた長い髪を一つにまとめている、白い衣を来た男の人に驚いていた。


「何者ぞ…」


妖怪の大将らしき虎みたいなやつが問いかけた。地を這うような声に背筋が震える。


「何、名乗るほどのものではない」


ハスキーな声が静寂を支配する中によく響いた。


隣で、その光景に呆然としていた昌浩が、誰だろうと呟いていた。その言葉に、反応できないほど、私は固まっていた。
まず、昌浩君をかばったのはいいけど、その後のことを何も考えていなかった自分がいたということと、思い切って飛び込んだけど、助っ人、のような人たちが現れたことで呆然としてしまったせい。


「…まわりにいるのは、式神?」


「これはまた、あの小僧より高い霊力。ともに喰らってくれようぞ」


「フッ、御冗談を」


目の前に現れた男性は妖艶に笑うと、札を取り出した。


「キンセイシタテマツル。コウリンショシンショシンジン」


「法師如きが!」


忌々しそうに虎がそう言うと、掛け声をかけた。それに合わせて周りで様子を見ていた妖怪たちが一斉に向かってくる。
それを見て、横にいた式神らしき3人が彼の前に立った。


「バッキフクジャ。アッキショウジョ」


彼の後ろに忍び寄る妖怪。それに気付いた昌浩君が、構えて呪文を唱えた。彼の周りを守るようにできる円。それによって、近づいてきていた妖たちがはじき返されていた。


「昌浩!無理はするな!」


「だって…、みてられないよ…」


痛みに顔をゆがめる昌浩君。私は、何もできなかった。ただ、この目の前で起こる妖怪と陰陽師との戦いに目を奪われていた。


彼は自分を守ろうとする昌弘を見て、フッ、と優しく笑った。その瞬間、彼が誰かと重なった。


「バンマキョウフク!」


彼がそう唱えたとたん、辺りをものすごい気がめぐり渡った。その気が、妖怪たちを次々に消していく。これが、陰陽師の力。これが、妖怪との戦い…。


最後に、彼は昌浩君ともっくん(大人バージョン)の怪我を直した後、来た時と同じように消えていった。
それを見届け、もっくんは物の化の姿に戻ると、トタトタと近寄ってくる。


「昌浩帰ろうぜ。紗子もさっさと立て」


どこか不機嫌そうな声音に、私は座り込んでいた腰を上げる。まだ、頭がついていけていなかった。この戦いに、全身の血が騒ぐのを感じた。そして、理解した。


私の中の血には、やっぱり陰創師の血が流れているのだ。血が騒ぎたてる。強くなれと。武器を創れ。血を使え。新たな力を…。






感がする
(何が起こっているのか)
(何が起ころうとしているのか)
(何も分からなかったけれど)

(それでも、何かを感じ取っていたのは確か)




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