今の状況を説明してみよう! ということで、説明すると、私の真上には澄んだ青い空。太陽がさんさんと照りつけていて、熱いけど、でも、風は少し冷たい。 そして、私の周りには人々が行きかっていて、周りでは市が開かれているようで、物々交換用か、店に出すのかはわからないけど、大きな荷物を持った人や、風呂敷を引いて、簡単な店を作り、その上に物を並べている人たち。そして、それらの商品を見ていく人たち。 つまり、フリーマーケットだ。 いや、ちょっと違うけど。でも、そんな感じ。 もちろん、その中には野菜とか、果物、肉、魚などの食材もたくさんあって、本当に市場だ。 そして、私が向かっているのは、貴船神社。今日は高於さんにあって、どうしてこんなところに来たのかを聞いてみようと思っている。のだけど、そのまえに、大事なことを忘れてそのまま、晴明さんに別れを告げてきてしまったのだ。 「本当に、どうしたものか…」 行きかう人は、私のことを振り返っていく。まあ、当り前だよね。私が来ているのは洋服。彼らは和服。この文化の違いはどうしても埋められない。 そういえば、この時代では西洋の文化はまだ全然入ってきていないんだっけ? 歴史に関して、そこまで興味があったわけではないからあまり覚えていないけど、周りを見る限りそうだろう。 奇異の目で見られるのは別に気にしないとして、貴船神社にはどうやって行こうか…。 1、誰かに聞く。 2、さまよい歩いてみる 3、運任せ さて、どうしよう。というか、2と3って同じ選択肢だと思う。 やっぱり誰かに聞こうか。 そう思って、その辺の人に声をかけようと近づくけど、そそくさと逃げていかれてしまった。当り前といったら当り前。変な格好をしている奴に近づきたくはないよね…。じゃあ、どうしようか。 とりあえず、運任せでさまよい歩いてみるか。途中で誰か親切な人がいるかもしれないし。とりあえず、ポジティブでいかないとね! で、さまよってみたのはいいものの、辺鄙(へんぴ)なところに出てしまった。人なんていやしない。いるのは、そこら辺にいる雑鬼達。 雑鬼に聞いて、わかるかな?というか、雑鬼ってちゃんと会話できるのか? 崩れた廃墟の壁からそーっとこちらをのぞいてくる雑鬼に目を向ける。バチっ!とあった目はあっちが隠れることで逸らされてしまった。あ、なんか小動物っぽい。 だいたい、いたのは3匹ぐらいだった。そーっと気配を殺しながら近づき、一気に壁の後ろを見てみると、何やら相談中のようだ。 「おい、あいつ、めちゃくちゃ目があったぞ!」 「うん、あった。あった。どうしよう!」 「僕たち、殺されるのかな?」 「いやいや。殺さないからね?」 「「「!!!!」」」 あまりにも恐れられているようだったので、思わず円になって会話をしていた3匹の話に入ってしまった。そうすれば、一斉に振り返り、固まる3匹。 一匹は、黄色い体に白い髪。大きな猫目、頭には角が3本ある。首元には、その首が埋まってしまうほどの大きな丸い数珠をつけている。 一匹は、緑のトカゲのような体に、細い三つの目がある。 ラスト一匹は、ピンクの丸い体に、つぶらな瞳。頭の上には一つの角。これもピンク。何かを彷彿と思い出させるその姿は愛嬌がある。 3匹は、私をみて固まっていて、私も口をはさんだのはいいとして、どうやって切り出そうかと困っていた。 「な、なんだ、お前!おおおおお、オレ達にようがあるのか!」 黄色い子鬼が金切り声をあげる。その口調はかなりどもっていて、威勢よく切り出したわりには、逃げ腰だ。 「用…、うん。ある。貴船神社ってしってる?」 「貴船?」 「貴船?」 「貴船?」 順番に呟いては隣を見て、次も隣を見て、最後の奴は、私を見上げた。…知らないのかな。 「お前、あんなところに用があるのか?」 緑のトカゲ?がそろそろと私をうかがいながら訪ねてきた。というか、知ってるんだ。それに、ちゃんと会話ができる…。なんだ。しかも意外とかわいいじゃないか。 「そう。大事な用事なんだけど、道に迷っちゃって。こんなことなら、昌浩君に聞いとけばよかったーって思ってたんだけど…。行き方知らない?」 3匹はソローリと言う感じで顔を見合わせた。 「よ、用が済んでも、オレ達を退治しないか?」 「しないよ?私、陰陽師じゃないしね」 「そ、そそそ、それなら、知ってる奴を知ってるぜ!」 なんで、こんなにどもるんだろう、この子たち。そう思いながらも、今の情報に目を輝かせて食いつく。 「本当!?その知ってる奴を教えて!」 「いいぜ!こっちだ!」 「こっちこっち!」 「いつも橋の下にいるんだよ!」 本当に仲がいいなと思いながら、下をちょこちょこ行くこの子らを踏まないように気をつけながら後をついていく。途中で、もしかして、だまそうとしてるかもしれない…、とか思ったけど、まあ、それだったらそのときで。なんとかなるでしょ。と思ってその考えを振り払った。 ついた先は、川の橋の下。そこに、一台の所謂この時代で言う車だった。 でも、車じゃない。違うところは、まず、大きな違いが一つ。というか、それが原因なんだけど。それは、車輪の片側、そこに、大きな鬼のような、でもかなり情けない顔があるからだ。 「…、車、でいいの?」 「おう!こいつは、臆病だけどな!いいやつなんだぜ!」 自信満々にいう、この子たちは、はやく入れというように簾(すだれ)をくぐって中へと入っていく。ああ、これ、本当に大丈夫かな?入ったら、こいつの腹の中でしたーとかってことにはならないよね?変な異空間にでるーとか。ないよね?ないよね? よしっ!女は度胸!頑張ろう! 「じゃあ、貴船神社まで、お願いします」 ペコリ、と丁寧に頭を下げてから、私は雑鬼の後ろについて入っていく。中は異空間につながっていることも、こいつの腹の中ということもなく、普通に車の中だった。 その隅っこで雑鬼達は談笑を繰り広げている。 車がゆっくりと動き出した。 しだいに上がっていくスピードは、現代の車よりもはるかに遅いけど、それでも、走るよりも早い。どちらかと言えば、自転車風?? がたがた揺れるのに、酔いませんようにと心の中で祈りつつも、雑鬼達の話に耳を傾ける。 雑鬼達は、どうやら情報通らしく、内裏(だいり)ではどうだの、あそこの姫はああだの、この前なんてー、あいつはー、そうそうこんなことも…。といろいろとした話をしていく。 そんな中で、途中から彼らの話声が止まった。 視線を向けてみると、それぞれが、押し黙っている。 「…どうしたの?」 「おっかねえやつがいるんだ!」 ピンクの一つ角の子が目じりに涙を浮かべながら説明する。 その話だと、最近、夜になるたびに変なおっかない奴が現れては仲間を喰らって行くらしい。それが怖くて、夜中もどうどうと歩きまわれないのだと。 「もしかして、それって大きな牛の奴?」 「違うよ!もっとおっかない、怖い奴なんだ!」 そんなものが、京にいるのか…。でも、考えてみれば、この時代は、私のいた時代よりも妖怪と呼ばれる類の存在が多いはずだ。真っ暗だし、人は日が暮れたらいそいそと家へと帰っていく。 好き勝手に暴れるには十分の広さもある。 彼らにとっては、私のいたところと比べれば楽園だろう。それだからこそ、大型の奴がいてもおかしくはない、と。 「知ってる妖怪じゃないの?」 「ししし、知らないよ!」 晴明さんならどうにかできるんじゃないのかな、と言おうとした口をあわてて封じた。彼らにとっては敵も敵。かなりの天敵に値するんじゃないだろうか…。でも、こんな雑鬼を退治するとは思えないけど。 彼は、とても慈悲深そうだ。侮れない一面はあるだろうけど。 あ、そういえば、晴明さんって妖怪伝説もあったよね。あんなにも力があるのは、実は妖怪だからなんですよ、って言っていたのは、いつかに見たワイドショーでだったはずだ。 と、そんなことを考えていたら、車が止まった。雑鬼が先に出て、外からついたぞ!って声が聞こえる。それから、私は痛くなった腰をたたきながらも外に出た。歳はとりたくないね…。私の場合はまだ運動不足だろうけど。 外に出てみれば、確かに一昨日にも見た、森の階段。まだ日も高いおかげで、葉の隙間から洩れる木漏れ日が、道を照らしている。 「ありがと。えーっと、車君に、雑鬼君たち」 「じゃあ、オレ達は送り届けたからな!」 「うん」 再び車の中へと入ると、車輪についている顔は私を見ていて、私がもう一度ありがとう。と言うと、彼は少し照れたように明後日の方を見た。 あら、意外とかわいい性格なのかもしれない。 車は、私に一礼すると、もと来た道を戻り始めた。 それを確認してから、私は貴船神社へと続く道を行く。 まず、はじめに気付いたことは、最初の方にも、階段はあったのに、それがない、と言うことだ。それに、当り前ながら、木の数が半端ない。 やっぱり、千年以上も前だと変わるものだ…。 慣れているけど少し違う道を進んでいけば、私が出てきた場所に出た。 わたしの原点 (ここで、私はこの時代へと飛ばされた) (爺様、高於さん、) (誰か、) (私のことをしっているひとは) (いませんか?) |