安心は疎外され

雷が鳴ったかと思ったらいきなり抱きついてきた空を抱き留めた俺は、未だ耳を塞いで震えてる空を自分の腕の中に抱いていた。つーか体制キツい…。


「おい空」


「──っ!」


「!──、ったく…」


けど体制を直そうにも、声をかけて引き離そうとすれば、耳を塞ぐ手が俺の腰に回りさっきよりもキツく抱きついてくっから、動こうにも動けねえ。


内心、不快に思ってるわけでもねぇが、流石に俺だって男だ。その辺は自覚しろっつーんだよアホ女。つかキャラじゃねーだろ、お前。


「雷ダメなのか?」


「っ…ん、」


仕方なく問いかけた俺の問いに小さく頷いた空の目尻には涙が溜まってやがるし、尋常じゃない雷嫌いだと悟った。つーかここまで苦手な奴、初めて見たぜ。


「はや、とっ」


「!…何だよ」


「傍、に…いて」


自分でしがみついてやがるくせに、今更なんだよ。傍にいんだろ。


「……いてやってんだろーが」


「ん、ありが、とうっ//」


「!」


空が弱々しく照れくさそうに笑った。それが何か、守りたくなるような…。って俺、何考えてんだ!?つーか今はそれどころじゃねえんだよ。


「獄寺ー?空生きてる?」


「!今、手離せねぇから明かりくれ」


そんな俺の思考をかき消すように聞こえてきた春日の脳天気な声に、空を抱く腕に力を入れ、状態を立て直した。流石にあの体制はキツいからな。


まだ夕方だっつーのに部屋は薄暗ーし、雷はまだやみそうもねえ。それに加えて今にも泣き出しそうな勢いの空を抱えてる俺は、身動きがとれねーわけで…。


「懐中電灯は今こっちで使ってるから、蝋燭で我慢して」


「……火、つけてからもってこいよ」


「今からつけるわよ」


俺の言葉の意が通じたのか、明かり(まだつけてねーが)を持ってきた春日は、さっさと蝋燭に火をつけると、俺の腕の中にいる空の頭に手を伸ばした。


「空、もうちょっと我慢ね。直ぐ電気復旧するはずだから」


「うんっ」


「よし、えらい、えらい」


春日に声をかけられ、頭を撫でられただけで恐怖に歪んでいた空の表情は、さっきより大分和らいだ。なんつーか、これが春日と空との間にある信頼関係なんだろうな。


俺や山本が踏み込めない領域──。


何かわかんねーけど、空の落ち着きを取り戻したのが俺じゃなく春日だっつーのが、無性に苛つくっつーか何つーか。……悔しい。


「隼人…いてくれるからっ、あたしは、大丈夫だよ」


「───、」

「!───、」


私の取った行動でイジケたみたいな獄寺を観察していた私に向けられた空の安心しきった表情は、今までに私や空の家族にしか見せたことのないもので──、


それは、あの相模南先輩にだって向けたことのない表情だったと思う。私も久しぶりに見るその表情を引き出したのは間違いなく、今目の前で私と同じように驚いている獄寺なんだ。


「ね…?」


「…、っ//……わかったっつってんだろ!てめーは黙って大人しくしてりゃあいいんだよ!」


「く、くるしーっ!」


不思議──、何だが今まで目が離せなかった子供が独り立ちしていくのを見送る、見守る側みたいな心境だなんて…。私、少し獄寺に妬いてるのかな。


目の前でじゃれ合う二人を見ていれば、もうこの場は心配いらないことは明瞭、ね。それじゃあさっさと、武の手伝いに戻ろうかな。


─お邪魔みたいだし。


「獄寺、空をちゃんと…、守ってよね」


守る、か。何から守るんだろう。今鳴り響いてる¨雷¨から?それとも夏休み明けの¨日常¨から…?


「あ?」


「何でもない、じゃあ私は武の手伝いに行くから」


春日が意味深な言葉を残して、部屋を後にしてから空と顔を見合わせて首を傾げた。しかも野球バカ何やってんだ?手伝いって何の手伝いだよ。


「隼人、」


「何だよ」


「雷嫌いはランボに内緒だよ」


「はあ?」


それに加えてわけのわかんねえこと言いやがるこいつには、何も言い返す言葉が見つからねえ。つーか何でアホ牛なんだよ。今、関係ねぇじゃねーか。


「んな事より、雷が聞こえねーように無理にデカい声だしてんじゃねーよ」


「!っ……だ、だってー」


「──、今だけこうしててやるっつっただろ。怖いなら寝ちまえ…」


「!───、クスッはーい!」


何がはーいだ。ガキみてーに…、!てそこまで考えた俺の目に飛び込んできたのは、既に寝に入ってる空の姿。赤ん坊じゃねーんだからそんなしがみついて寝なくてもいいだろーが!


「おい…」


「……zzZ」


「……チッ」


最近の俺はどうかしてる。女なんかに興味なんか欠片もなかったのに、…増してや人のモノに興味なんかなかったっつーのに、こいつの言動に振り回されてるし、……どうしちまったんだよ。


十代目のことで頭が一杯だったはずなのに、こんな女一人に左右されて……、今はありえねぇくれーに和やかっつーか…。あったけー。


「……ん、はや……とー…zzZ」


「!──、バーカ…」


─もう少しくらい、このままでいても構わねぇか。





(あたしの……お菓子、…返せー…zZ)
(…まだ根に持ってやがったのか(←)
(……ー…zzZ)
(…(ヤベ、俺まで眠くなってきた…)

───
(電気系統に異常はなかったぜ)
(そう…手伝う必要もなかったわね)
(あー、まあな。あっちは別だけどよ)
(……流石に停電の中で、宿題なんてやらないわよ)
(はは;だよなー(よかった…;)


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