夏と言えば海、それで今日は皆で海に行く事になったんだけど…、その誘ってくれた先輩は後から匠君と波音さんを連れて合流するとのことで……。 「………」 「………」 あたしと隼人は一応話すようになったわけだけど、四人で先に行くとなるとバスの中では必然的にあたしの隣は隼人になって、重たい沈黙が乗ってから今までずーっと続いてる。 風は気を利かしてあたしと隼人を隣同士にさせたんだろうけど、たけちゃんと楽しそうに話してるのを見てると、何だか隼人に申し訳なくなってくる。あたしといても気まずいだけだよね。 「……空」 「は、はい?!」 「別に気にしてねぇから。──そんな顔すんな」 「隼人……」 そう感じていたのはどうやらあたしだけではないみたいで、突然名前を呼ばれて顔を上げたあたしの頭を二、三度優しく撫でてくれた。それが本当に心地よくて安心する。 「隼人」 「あ?」 でも、貴方に気を使わせるのはやっぱり心苦しいから。あたしはいつもみたいに隼人とバカ騒ぎしていたいから。 「いーっぱい遊ぼうね!」 「!──、ガキ」 「ガキ!?何で!」 そんなあたしの思いが通じたのかそうでないのかは分からないけど、一瞬見開かれた瞳は直ぐに元に戻り、そっぽを向いた隼人の口から呟かれた一言に思わず言い返していた。内心吃驚したり嬉しかったりでいろんな感情が渦巻いてたけど…。 「──分かった分かった。遊んでやるから騒ぐなお子様」 「なっ!何で上から目線なのよーっ」 うん、これがあたしと隼人のスタイルだよね。グダグダ悩んでたって何も解決しない。笑う門に福来たりってね。 *** 「うまくいったみてぇだな」 「ホント、世話がやけるんだから」 空と獄寺がじゃれ始めて直ぐ、私の隣に座っていた武がどこかホッとしたような、嬉しそうな表情で話しかけてきた。まあ、私もホッとした。 あんなに仲良かった二人が急に口もきかなくなって、空なんて泣き出すし、一時はどうなるかと思ったけど、先輩も一応は獄寺のことも考えててくれたみたいね。本当は付き合いたてで二人きりでいたいだろうに、皆で海行こうだなんてさ。 「はは、でもよ。獄寺でもあんな優しい顔すんだな。俺、こっちきて初めて見たぜ?」 「え?そうなんだ……、てか優しいってどの辺が?」 「いや、空と話してるとき見てて思わね?」 「………………どこ?」 武に言われて二人の方に視線を向けてみるけど、空をからかって楽しんでるようにしか見えないんだけど。まあ、あれだね。好きな子は苛めたくなるってあの分かり難い愛情表現? あ、でもまだ獄寺自身は気がついてないんだっけ?← 私が首を傾げれば、苦笑して分かんねーかもな、と呟く武に変なところで鋭いなと感心した。 「そういやさ、匠もくんだよな?」 「あ、そう言えばそうだっけ」 「…ずっと気になってたんだけどな、」 「うん?」 私は急に真剣な顔して話を切り出してきた武を不思議に思って、彼を真っ直ぐに見つめ返し、首を傾げた。匠を連れてくるのは多分、人数合わせだと思うんだけどね。 「アイツの事、幼馴染み以上に考えたことってあんのか?」 「え──?」 それ、どういう意味──? 「別に深い意味はないぜ?何か匠はお前のことそれ以上に見てるっぽいし」 「……クスッ」 「な、何だよ」 武がそんな事言うなんて意外。何かまるで匠にヤキモチ妬いてるみたいじゃない、それ。 そう考えるとつい笑ってしまって、そんな私を見て焦る武が何だか可愛くて。不思議と心が温かくなった。 「別に?」 「話はぐらかしたいだけだろ」 「違うって、…私は匠のこと頼りにしてるけど、恋愛対象としては見れないから。強いて言うならあれだよ、お兄ちゃんみたいな存在」 少しムスッとした武にそう言って微笑めば、納得したようなそうでないような顔をして、でも私が次に口にした言葉にはいつものようなハニカむ笑顔をくれた。 「武は私の心の支えだからさ、」 いい相談相手、とはまた違った一緒にいて安心できる、そんな存在。自分でも吃驚してるけどね。 (海、ついたけど〜?お二人さん) (何朝っぱらからイチャツいてんだよ) (なっ!違うわよ!だいたい──っ!) (まあまあ、いいじゃねぇの) (そうそう、行くぞ隼人!) (ひっぱんなよ) (風、俺たちも行こうぜ) (う、うん(あの二人、後で覚えとけ) |