きっと、このときにはもう、あたしの心はきまっていたんだと思う―― 「はい、…はい、わかりました。はい。それじゃあ…」 通話が終了して、一気に肩の力が抜けた。だって、だって、先輩からの電話だよ?けっこう気まずいかなあって思ったのに先輩は普通だったし。 電話の内容は、今日の夜、ちょっと2人で行きたいところがあるんだけど…。というものだった。具体的なものは教えてくれなかったけど。 これって、デ、デート…になるんだよね?きっと、返事しなきゃいけないよね。本当に、どうしようかとさっきから頭の中で意味のない疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返している。 ベッドに倒れこみ、天井を見上げる。本当にどうしたものか…。 あたし、先輩のこと好きなのかな?いや、好きだよ。うん。先輩は好き。 じゃあ、隼人は?隼人は、好きだけど、やっぱり先輩の好きとは違う気がする。 風とたけちゃんも好きだけど、この2人もやっぱり先輩とも隼人とも好きの種類が違うと思うし。 「南先輩…」 うん。今日のときに絶対に返事をしよう!決めた! 隼人と気まずいのは…、大丈夫。なんとかなるよね。風も言ってたし。 部屋を出てみれば、リビングには机に向かいあって座っているたけちゃんと風がいた。 「あら、どうしたの?」 「風、今日、先輩とちょっと出かけてくる、から」 「…そう。いってらっしゃい」 「うん!」 そのあと、あたしは着替えて準備をし始めた。 *** 獄寺を追いかけてから戻ってきた武と向かい合って椅子に座る。空はさっき部屋に入っていったばかりだ。 「獄寺どうだった?」 「なんかわかんねえけど、すっげー苛々してるぜ?」 「そっか…」 やっぱり、苛々してるんだよね。これじゃあ、しばらくは空と話したりはしてくれないか。 「なあ、何があったんだ?そろそろ教えてくれよ」 あ、そっか。そういえば私武には何も言ってなかったっけ。でも、これって言ってもいいのかな?…ま、いっか← 「あのね、たぶん、獄寺は無自覚さんなのよ。獄寺自身、何に苛々してるのかさえ分からないんじゃないかなと思うの。で、空は…、うん」 「?」 空はよくわからないのよね。実は。先輩のことを好きだと思ってたけどそれも今微妙になってるみたいだし…。 「空は、ね。今は間で揺れているって感じ、かな?」 あいまいに言えば、やっぱりわからなかったみたいで首をかしげた。 「とにかく、複雑な心境みたい。まあ、しばらくは獄寺はほっといてもいいでしょ。あの2人の問題だし、私は空のだした答えに反対するつもりはないし」 「つまり、それって人任せ、じゃねえの?」 「そうともいう。でも、本当に私が何か手を出していい問題じゃないと思うのよね。空自身が答えを出さなきゃ始まらないし、だから、私はそれを見守ってるだけにするの」 決してめんどくさいとかじゃないのよ?私自身もどう動けばいいか考えあぐねているって感じ。 「ふーん?」 やっぱり良くわからなかったのか、武は少し首をかしげた。 それとほぼ同時に、空の部屋の扉が開いた。 「あら、どうしたの?」 空は一度部屋全体を見回してからゆっくりと深呼吸をした。 「風、今日、先輩とちょっと出かけてくる、から」 「…そう。いってらっしゃい」 「うん!」 そして、空は部屋の中へと戻っていった。「答え」が出たのかな?少しすっきりとした顔だったから、一応答えは出たのかもしれない。 ああ、でも。もし空が先輩と付き合うことになったら4人で遊ぶということができなくなるのかもしれないね。 「なんか、空はもう大丈夫そうだな」 「…そう、ね。…さびしくなるわね」 「?何がだ?」 「ううん。なんでもない」 子供が巣立っていく親の心境ってこんな感じなのかな?これは、これでさびしいものがあるわね。あーあ、この年で親の心境なんて知りたくなかったのに(笑 |