静けさにはてな

あの夏祭りからというもの、どうしてこうなったのか、私たちの家では気まずい雰囲気が流れていた。


「…ごちそうさま」


ぼそっと言った獄寺は立ち上がったかと思うと玄関のほうへ向かった。私は武に目配せすると、武もうなずいて、すぐにご飯をかきこむと、獄寺の後を追った。


「ねえ、空?何かあったの?獄寺と」


「…何も」


しゅんとうなだれている空。彼女に気付かれないようにそっと溜息をついた。


「…何も、ないから困ってる」


ああ、そっか。そういえば、あれからこの2人がじゃれてるところを見てないわね。


「あのとき、何があったの?」


「う、ん…。あたし、先輩に、好きって、言われたの…」


「あら、よかったじゃない」


予想はしていたからあまり驚きはしないものの、とりあえず言ってみれば、空は浮かない顔をしている。空って先輩のこと一応好きじゃなかったっけ?


「よくなかったの?」


黙り込んでしまった空に問いかければ、首を横に振って否定した。


「そのときに、隼人もいたの。それで、隼人に引っ張られて家まで帰ってきて、そのとき、先輩が隼人には渡さないっていってた…。あたし、どうしよう…」


「何を迷ってるの?」


よく状況がわからないけど、とりあえず告白の時に、獄寺がその場に居合わせてしまったってわけよね。


「それがわかったら、苦労しない」


「…それもそうね」


「隼人も、あれからなんか気まずいし、先輩の返事も考えなきゃいけないし…。ねえ、風?あたし、先輩になんて返事すればいいと思う?」


涙目になって聞いてくる空。


「それを私に聞くのは筋違いね。私は空じゃないし、空の気持ちもわからない」


そういえば、空は俯いてしまった。すぐに返事を出せないということは、先輩のことはもう好きじゃない?のかな?それとも、何か引っかかるのか。どちらにしても迷ってるのよね、空は。


「でも、私は空の出した答えの方を応援するわ。空が先輩のことを好きなら付き合えばいい。そうじゃないなら付き合わなければいい。獄寺のことはその後かな」


「うん」


「大丈夫よ。空なら大丈夫」


「うん、ありがと…」


空の頭を一撫でしてから、食器をかたずけにキッチンへ向かった。さて、武は獄寺のことをなんとかできるかな?まあ、これで気まずさが無くなるとは思わないけど。まあ、何か進展があれば、いいね。




***

「おい!獄寺!ちょっと待てよ」


「うるせえ。ついてくんじゃねえよ」


後ろから肩をつかめば、それを振り払われた。そのまま歩き出す獄寺の数歩後ろを歩く。獄寺はポケットから煙草を取り出すと口にくわえ、ライターを近づける。


火をつけようとするが、ライターに液がないのかなかなか火がつかなかった。


「チッ」


ライターをポケットにしまうと、口にくわえていた煙草を手に取り、それを折ってしまった。


「お前、最近何苛々してんだ?」


「してねえよ。野球バカは野球バカらしく野球でもしてろ」


「いや、今日は部活休みなんだよ」


「じゃあ、春日といりゃあいいだろうが」


「…なんでそこで風が出てくるんだよ」


「知るか」


たく。本当になんなんだ?最近空とも話してねえみたいだし。夜中に帰ってくるし。


「なあ、空となんか―――」


「あいつは関係ねえ!」


俺の言葉は獄寺の言葉に遮られてしまった。それ、関係あるっていってるようなもんだぜ?


「まあ、何があったか知らねえけどよ」


まあ、風は事情を知ってるみたいだったけどな。


「ったりめえだ。お前が知ってたらこっちがびっくりだ」


「まあ、でも、仲直りしろよ?」


「うっせえ。てめえはすっこんでろ」


そういうと、角を曲がってすたすたとどこかへ行ってしまった。あいつ、相当苛々してるな。本当に、何があったんだ?風に聞いてもあいまいに言うだけでちゃんといってくんねえし。


「何があったんだ?」


もう見えなくなってしまった獄寺の背中に問いかけるが、もちろん帰ってくる言葉はなかった。とくに用事があったというわけでもないので、仕方がないから家の方へと踵を返した。


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あきゅろす。
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