「ずっと、ずっと好きだった」 夏祭りのときの先輩の言葉がずっと耳に残ってる。そのあと、隼人に先輩と引き離された時は吃驚したけど…。 「あー、しかも、気まずいし…」 隼人は、故意なのかなんなのか、あれから全然話してない。だって、だって…、まさか先輩からの告白を聞かれるなんてっ。 あーもうっ!本当にどうしよう!なんて先輩に返事しよう…。隼人、あの告白きいてどう思ったのかな?なんで引き離したのかな…。なんで、あの場にいたのかな? つーか、隼人今どこ行ってるんだろう? あれから、数日たっていて、その日から、なぜか隼人の深夜徘徊が始まった。ご飯を食べると、ちょっと散歩してくる、とかタバコ買ってくる、とか理由は様々だけど、毎日毎日飽きもせず外に出ている。 だから、あたしは仕方なく布団の中に入って先に寝る。そして朝起きてみれば、あたしの方が早いときも遅いときもある。早いときはあたしが目を覚ましてから1、2時間後に起きてくる。 あたしのほうが遅いときは、たいていあたしが起きた時はもう家を出てどこかに行ってる。これって、絶対に避けられてるよね? あーもう、隼人のバカ。なんなんだ。なんで避けられるのさー。 そして、今も深夜徘徊をしているのか帰ってこない。今はもう12時。隼人なんか補導されちゃえばいいんだ。 って、なんであたし隼人のことばっか考えてるの?隼人じゃなくて、先輩。先輩。先輩の告白、なんて返事しよう?どうやって断ろう…。 って、なんで断る必要があるの?あれ?断る必要なくない?だって、あたしって先輩のことが好きなんだし…。だって、先輩の写真だって…。あ、そういえば机の引き出しの中にしまったままだっけ? なんとなく気になって机の引き出しを開けてみる。唯一鍵がかかっていて隼人にも開けられない場所。その中には、先輩が写っている写真。 隼人が来るまでは枕の下に入れてたんだよね…。夢でもいいから会いたくて。 あー、そういえば、隼人たちが一番最初に来た時ってあたしの部屋で寝たんだっけ?それで、あたしこの写真撮りに行って寝込み襲ったって勘違いされたんだよね。隼人、あのとき警戒心バリバリだったし。 たけちゃんは気を遣いすぎてたっけ。 ガチャッという玄関のドアが開く音がした。あ、隼人が帰ってきたんだ。 このまま待っていてもいいけど、かける言葉も何もないから、あたしは急いでベッドにもぐりこんだ。 そのときに持っていた写真は机の中にしまい忘れたからとりあえず枕の下へ。 そして、寝たふり! 「……なんだ、電気つけっぱじゃねえか」 わ、忘れてた; 「ハア、しょうがねえ」 その声と同時に部屋の電気は消えた。あたしは隼人とは反対の方に顔を向けているから、隼人が今どんな行動をとっているかなんてわからない。 こんなことなら、反対側向いて寝てればよかった!今から寝返りうったら変に思われるだろうし…。 「空……」 隼人が近づいてきた気がした。そして、たぶん隼人の手があたしの頭に触れる。 「………、チッ」 だけどその手は直ぐにばっと離されて、そのまま隼人は布団に入ったのか物音がしなくなった。そしてしばらく沈黙に耳を澄ませていたけど、いつのまにかあたしは寝てしまっていた。 *** 「ずっと、ずっと好きだった」 あの、夏祭りのときのあいつ、相模の野郎の言葉がずっと耳についてやがる。言う前にあいつ一度俺のことみやがった。俺に聞かせるように、まるで宣戦布告だとでもいうように…。 「チッ、なんだってんだ…」 あのあと、どうやって帰ってきたのかもよくわからずに、空をつれて帰ってきていた。そのあと春日に何か言われたが、覚えてねえ。 俺も、空もあのあとはまともに話してない。 俺が避けてるからだ。こういうときに、同じ部屋だってことを恨む。 夜の少し冷たい風が肌をなでていく。空を仰げば、星が瞬いている。月は今雲に隠れて、星がよく見えた。 吸い込んだ煙草の煙をゆっくりと吐き出す。 だいたい、なんなんだ。この気持ち。苛々するし、何やってもどうにもなんねえ。 「よお、兄ちゃん。こんなとこでなにしてんだあ?」 「ああ?」 この胸糞悪いときに話しかけてきてんじゃねえよ。 人のことをどうこう言える立場じゃないが、柄の悪い連中が5,6人。…ちょうどいいか。 無視して通り過ぎようとしたところをそこまで考えて足を止める。そうすれば、そいつらに囲まれた。久しぶりの喧嘩だな。 煙草を地面に捨てて足でねじり消す。 「兄ちゃん、やる気か?ハハハ!」 「煩ーよ。弱い奴がキャンキャン吠えんじゃねえ。俺は今苛々してんだ」 「あ?なんだと!」 「苛々してるっつたんだ。しょうがねえから、直々に果たしてやるよ」 ダイナマイトなんてこんな奴らに使わねえ。体一つで十分だ。 「後で泣いてすがっても知らねえぜ?兄ちゃん」 「ハッ、うっせえよ」 その言葉と同時に殴りかかってくる相手の拳を受け流し、その反動を利用して足を払う。その他の奴らもそれぞれ殴りかかってくるがそんなもん、俺に効くわけねえだろ。 それから十分もしないうちに俺の周りにはさっきの奴らがのびていた。 「ハッ、口ほどにもねえな」 ポケットから煙草を出してライターで火をつける。揺れる紫煙を見つめながら、家の方へとゆっくりと歩き出した。 そういやあ、こっち来てからだいぶたったように思ってるが、まだ一カ月もたってねえんだな…。 いろいろとあった気がしてたが…。 “君には、渡さないよ” 相模の言葉が脳裏によぎる。そして続いて出てくるのは空の顔。あいつ、なんであんなこと俺に言ったんだ。 俺は別に空が誰のことを好きになろうと、誰のものになろうとしったこっちゃ…、ねえよ。 「んなこと知るか」 俺の呟きは夜の闇の中へと吸い込まれるように消えていってしまった。消えた呟きはどうせ誰にも聞かれないだろうに、なんとなくもやもやしたものが広がった気がして、それを何とかして逃がそうと舌打ちしてみるも、何も変わらない。 もう誰も起きてないだろうと思い、最近渡された合鍵を使って部屋の中へ入る。そうすれば、玄関だけつけられている明かり。その奥は暗闇が口を開けて待っていた。 あまり音をたてないように空の部屋へ行く。なんとなく、あれから部屋に二人っきりっていうのが気まずくて空が寝静まってから帰る様にしていた。 部屋の中へ入ると、明るい光が目を刺激した。 「……なんだ、電気つけっぱじゃねえか」 ベッドの方を見れば、空はあっちがわを向いて寝ていた。たぶん、何かしていて電気を消す前に寝ちまったんだろ。 「ハア、しょうがねえ」 本当にしょうがねえ。俺のこの気持ちも、何もかも。電気を消してから、寝間着がわりのラフな格好に着替える。 ベッドの方を見れば、空が寝ている。なんとなく、空に近づいた。最近、こんな風に近くに行くことも俺は避けていた。 「空……」 そっと、頭をなでる。久しぶりに触れる。なんとなく、胸のもやもやは消えた気がした。 しかし、それも一瞬のことだけだった。枕のしたから何か紙がはみ出している。 じっと眺めてみると、夜目がきくおかげで、それが写真だとわかった。そして、そこに映っている人物が誰かを判断したときに、再び、腹の中に何か黒いもやもやが立ち込めるのを感じた。 「………、チッ」 頭に置いていた手をばっと放す。もうこうやって触れることはしねえ。空はずっと相模のことが好きだったんだから。それは態度でも、自分でもそれらしきことを言っていた。 布団に入り無理矢理目を閉じて自分を睡眠という闇の中へと落とした。 |