ちょっかいVS負けず嫌い

今、たくさんの机がならぶ教室のちょうど真ん中、教卓の前の席に隼人は座っている。そして、かなりめんどくさそうに顔をゆがめながらもペンが止まることはない。


あたしはというと、横からその解かされていく問題を見ていた。


すでにはじまってから1時間。あたしの読み通り、隼人はどんどん問題を解いていき、今は2教科目に入っていたりする。隼人は勉強で入るから5教科全部しなきゃいけない。


1教科目の英語は、帰国子女な隼人にとってかなり簡単だったみたいで30分もかからずにすべてを解いてしまった。そして、今は数学に入っている。編入試験ということで、結構難しい。あたしも隣で解いてみるけど自分でかけない分全然進まない。


そうこうしてるうちに隼人はどんどんといていく。


「へえ…」


「あ、そうなるのか。ああ、なるほど。うわあ、さっすが隼人」


「え、そこ…。あ、そっかあそこがこうなるから、あー、そっかそっか」


「…うっせえ!気が散るんだよ!大人しくしてるか、出ていけ!」


「もお、試験中にしゃべっちゃいけないんだよ?」


「てめえがうるせえからだろうが!」


「やあ、状況は…。おや、これは?」


入ってきたのは…、お父さんだった。お父さんは怒鳴っている隼人を見て少し目を見開く。


「お前が、ちゃかしてくるから悪いんだろ!だいたい、試験なんだったら、お前もしゃべっちゃいけねえだろうが!」


「えー、だってえ」


「よく、わからないけどとりあえず空は、静かにしていなさい。隼人君のためだ」


「はあい」


お父さんに諌められ、大人しく、隼人の席に座る。外では、匠君の掛け声が聞こえ、カキーンというバットで球を打つ音が聞こえていた。





***

武とグラウンドに行けば、そこには、ユニホームを着て砂で茶色くなりながらもこの炎天下の中必死に白球を追いかけている野球部がいた。


私は、武を引き連れて、練習の邪魔にならないように隅っこを通りながら屋根をつけられているベンチに近寄る。武を見れば、野球の練習にくぎ付けになりながらも私についてきていた。


「刈谷先生。連れてきました」


「おお、春日。そいつがお前の言ってた奴か?」


「そうです。武、この人は刈谷先生。野球部の監督」


「ちわ。山本武です」


「おう、おう。彼氏か?」


「……なんで先生までそんなこといいますかね。それより、匠は?部長、ですよね?」


「ああ、あそこで、今投げてる。山本、見ていなさい。彼の球を」


先生の指さす方に視線を向ければ、数回軽く投げた後、バッターが入り、匠は思いっきりボールを投げた。球はバットに当たることなくキャッチャーの構えるミットの中におさまっていた。


「彼が、エースだ。あの球を打てるか?つかえない奴はいらない」


「先生!?そんな、いきなり―」


「いいっすよ。それで」


私の言葉を遮って言った言葉に、私は武を振り返った。しかし、その瞳は真剣なものになっていて、私はもう何も口をはさんではいけないことを理解した。たぶん、これが勝負というもの。私が口をはさんでいいものじゃない。


「相模!」


「!!…はい!」


匠が先生に呼ばれ、こっちに走ってきた。匠は帽子をかぶっているからか、私と目はあったけど、武の方は見ていない。


「相模、こいつが今日行っていた奴だ。今からお前の球を打ってもらう。一本でもヒットを打てばこいつを野球部に入れるからな」


先生の言葉に、匠は帽子をとってそこではじめて武を見た。


「あ!お前!?バッティングセンターでの…武、だよな?」


「お!匠じゃねえか!ハハ、お前とここで会えるなんてな!」


「なんだ、知り合いか?」


「あ、はい。というか、知り合いってもしかして、お前っ!え?おい、風、どういう、は?」


おー、混乱してるね。うん。混乱してる。こんなに混乱する匠みるのって久しぶりだなあ。


「ああ、風だぜ。知り合いって。というか、幼馴染って匠のことだったんだな!」


「そうよ。めんどうだったから言わなかったけど、結果オーライよね」


「どこがだ!」


「あー、もういいか?そろそろ他の部員が暇してる。山本は、誰かにバット借りろ。相模はマウンドに戻れ」


「おい、風。後でゆっくり話聞かせてもらうからな」


「アハハ。お手柔らかに。あ、全力で投げてみてよ」


通り過ぎざまに声をかけられたから、そのままの状態で小声で話す。


「は?そんなことしたら、入れなくてもしらねえよ?」


武のことなめてかかってるね。漫画のこと覚えてたらそんなこと言ってられないだろうに…。


「武のことなめてたら足元すくわれるよ。ってことで、頑張れ」


匠の肩をポンと叩いてから先生の隣のベンチに座る。匠はどこかふに落ちないように少し首をかしげながらもマウンドにもどった。武はバットをぶんぶん振っている。


「相模を挑発するなよな。あいつが本気になったらすごいからな」


「そっちのほうが楽しくないですか?見てる側としては」


「フン、あっけなく終わるんじゃないのか?」


「そう思うんだったら、まだまだですよ。監督」


あえて、先生とは言わずに監督と呼ぶ。学校の先生にではなく、野球部の監督への言葉だったからだ。武も本気の目をしていた。まだ笑っていたけど、たぶんバッターボックスに入ったら笑顔なんて消えるんじゃないかな。それに、2年から入ったら他の人に認めさせるにはエースの球についていけるぐらいの実力がないとなめられて終わりだろう。


「で、春日。お前、部活は決めたか?」


「また、その話ですか?決めてません。というか入る気ないですし」


「マネやらんか?マネ」


「それも、何度も断ったはずなんですけど…。私、会長でもあるし忙しいから入ったとしても役に立てないと思いますよ」


次の先生の言葉が出る前に匠がフォームに入り、球を投げた。でも、それはまだ遅い。私は一回だけ匠の球を見せてもらったけど、本当に速かった。


武はその球を見送った。そして、匠に向かって何か言うともう一度構えた。


「あいつ、相模を挑発したな」


「負けず嫌いなんです。2人とも。だからこそ、いいライバルになるんじゃないかな、なーんて」


というか、願望?ライバルになってくれれば、武にとって高校生活楽しいものとなるだろう。それから、匠は本気になったのか、球のスピードが思いっきり上がった。武はバットを振るけど、当たらずにそれはミットに入った。


次のボールはファールとなって後ろに飛んでいく。後はないんだけど、それでも、なんどもファールにしていくうちに少しずつタイミングがあってきているみたいだ。


「ありゃりゃ、こりゃあ、とんでもない奴が来たかもしれないな」


おどけたように言って見せる先生だけど目はこの2人の様子にくぎ付けになっていた。


匠は、もう一度、投げるフォームに入り、思いっきりミットめがけて投げる。


しかし、その球がミットに入る前に、武がふったバットが白球の進行方向を変えた。ボールは今までよりも長く飛んでいった。匠も、ほかの部員も呆然とその球の行く先を眺めていた。


「こりゃあ、入れないわけにはいかないな」


その呟きが聞こえたと思ったら、次には大声で部員+武が集められた。


「テストは終了だ。もちろん合格。相模のあの球をファールだったとは言え打たれてわな。文句ないな」


先生がそういえば、皆それぞれうなずいた。それからは、はやかった。武が自己紹介して、他の部員も自己紹介すると、2年生はみんな武に質問をしたりし始めて、1年生は突然現れたバッターに興奮が混じったささやき声が漏れていた。


「春日。本当にマネやる気はないか?お前がいれば楽なんだが…」


楽って何よ…。先生の楽のために使われるなんてまっぴらなんですけど。


「風がマネやるのか?」


「は?私、やるなんて一言も、」


「いいじゃん。風がやってくれるなら、俺だって楽だし」


「だから、私は…」


「じゃあ、決定で。これは部長命令だ!」


私はまだ野球部に入ってないから、その部長命令意味ないはずなんですけど!?しかし、なぜか野球部はマネージャーに飢えているらしく、皆めを輝かせて断ろうにも断れない雰囲気…。


「う……っ」


まあ、今回のことはある意味無理やり頼み込んだことだから、本当は引き受けるべきなんだけど、これ以外のことがよかった…。野球部のマネは大変らしい。とくになぜか今は一人だから。人気がないわけではないらしいけど、皆どんどんつらさに耐えきれずやめて行くらしい。


「ハア…。やればいいんでしょ、やれば。やってやろうじゃないの。もう、こうなったら自棄だ」


「お!さっすが風!俺の幼馴染だけあるな!」


幼馴染関係ないでしょ。というか、これで多忙で過労死なんてしてしまったら絶対に化けて出てやる。


匠を睨んでから、周りを見れば、私の言葉に喜んでいる1年。当り前だろう。いままではマネの仕事は全部1年の仕事。それが全部私に回されるんだから。


「えっと、2年の春日風です。会長とかやってて忙しい身ですが、やるからにはできるかぎりやります。よろしくおねがいします」


頭を下げれば拍手で迎えられる。そのあとは、少しマネの仕事内容を聞いた。


「1年!マネが入ったからって仕事が無くなるなんて思うなよ。春日」


「はい?」


「1年はこき使っていいからな」


刈谷先生のその一言に、1年生からは非難の声が上がった。でも、1年生には悪いけど、私にとってはありがたい話だ。総勢何人かもわからない野球部を一人でマネをやっていける自信なんて毛頭ない。


というか、そんなの本気で過労死する。そんな死にかた絶対にいや!


「もちろんそのつもりですよ」


「そ、そんなあ〜」


1年生からの情けない声に思わず笑ってしまう。先生はそんな1年を一括して部活の練習に戻した。


残ったのは、私と武と先生。


先生は、私と武に部活は来週から来るようにと言って私たちを戻らせた。


私たちは、おひるごはんを食べるために待ち合わせ場所の屋上へと向かう。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!