意味ありげな笑み

4人で座ってご飯を食べていた。そのとき、唐突に思い出したのか春日が口を開いた。


「そういえば、今日空と獄寺は何してたの?」


「あたしが今日空手だったから隼人も一緒に空手してた」


「空手したの?獄寺も?」


「そう!先輩と極真で試合して、あたしが勝ったの」


「…意味不明」


2人の会話を聞きながら、ご飯を食う。空の話しに、言葉不足だろーがと心の中で突っ込みをいれながら、声には出さない。


「更衣室であたしが着替えて戻ってきたら、隼人と先輩が戦っててね?それで、師範に止められるなら止めてみろって言われたから、2人を不意打ちで倒して、あたしの勝ち」


「へえ、獄寺も空には適わなかったのね」


「違ーよ!誰がこんな奴に負けるか!」


「でも、負けたのは事実でしょ」


空がそういうと同時に、春日と山本が忍び笑いをもらした。


「てめえら、笑ってんじゃねえ!あれは、勝負に横から入ってこられたからだろーが!」


「だって、真正面からいって男2人を相手にできるわけないじゃん」


「だったら、しなきゃいいんだよ!」


「だって、売られたケンカは買わなくちゃ。ってこの前ドラマで言ってた」


どんなドラマだよ。ハアと溜息をついて、再び箸を進める。でも、今日はそこまで苛々はしない。久しぶりに体を動かしたせいかもしれないが。それは、ある意味道場に連れて行ってくれた空のおかげになっちまうから、絶対に言わねえ。


礼なんて、土下座されても言ってやらねえ。


「風の方は?太鼓。発表もうすぐでしょ?」


「それが、すごいの!武、一回聞いただけでだいたいできちゃうのよ…。しかも、佳南さんたちに勘違いされちゃうわ、寝顔見られるわで…」


「寝たの?風が?たけちゃん、本当!?」


「?本当だぜ」


昼寝をしたということに、なぜそこまで空が驚くのかが分からずに、空を見る。


「風が外で寝るなんて珍しい…」


「しょうがないじゃない。笛吹いて、酸欠で死にそうだったんだもの」


「お疲れ」


「うん。疲れた。ってことで、皿洗いはよろしくね?」


「えー」


ときどき思うが、春日は空の保護者みてえだな…。


春日はごちそうさまと呟いて皿を流しに持って行った。それに続いて山本も皿を片づけていく。


「そういえば、もうすぐ夏祭りあるんだよ」


「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」


「そこで、風が太鼓の発表するから、皆で見に行こうね!」


「なんで、もう行くこと決定してんだよ!」


「何で?楽しいじゃん。そっちみたいに、集金に来る雲雀さんはいないよ」


「それは、関係ねーんだよ!」


「あー、はいはい。わかった。わかった」


空の言葉に、カチンとくるが、そこは押さえておく。とりあえず行かないということにわかってくれたようだから…―


「風ー!夏祭り皆で見に行くからね!」


「わかってねー!」


「あ、本当?じゃあ、浴衣着て行こうよ。私、発表の時浴衣だから一人じゃ恥ずかしいじゃない」


「じゃあ、浴衣出さなきゃね!」


「おい!人の話をきけよ!」


「ハハハ、いいじゃねえか。楽しそうだぜ?夏祭り」


「野球バカは黙ってろ!」


いつもの騒がしい掛け合いが始まる中、空は何かを考えている。こういうときは、絶対にいい案が浮かぶはずがない。


「よし!じゃあ、あたしが空手で勝ったから、罰ゲームとして一緒に行くこと!ね?」


「ハハ、罰ゲームなら仕方ねえな!獄寺」


「納得できるか!大体、あれはお前が勝手に入ってきたからだろうが!」


「何?じゃあ、今から勝負する?」


手に持っていた箸を机に勢いよく置いて、立ち上がった空。それにつられて、俺も立ち上がる。


「望むところだ!」


売り言葉に買い言葉とはこのことだろう。それを見ていた春日が俺と空の間に入って、手で静止をかけた。


「はい、そこまでー。ここでやり始めたら、どうなるかわかってるよね?」


今から、戦い始めようとしていたところに、その言葉で、俺と空は互いに顔を見合わせた。空の顔は少しばかり青ざめている。


「はーい」


先に、返事をした空に春日は普通の笑顔に戻ってあいつの頭をなでる。そして、何か思いついたような空は、春日に耳打ちした。そして、2人は顔を見合わせると意味ありげな微笑みを交わした。


これは、何かある。絶対に、俺にとって良くないことが、だ。


「ねえねえ、お二人さん」


「ん?なんだ?」


「……」


「明日さ、あたし達に付き合ってくれない?」


「おう、いいぜ」
「ぜってー、嫌だ」


「おー、見事にかぶった。言ってることはばらばらだけど」


「なんで、俺がお前らの用に付き合わなきゃいけねえんだよ」


だいたい、こいつらに付き合ってロクなことになった試しがねえんだ。


「えー、いいじゃん」


「よくねえ!」


「水族館…」


ぼそっと呟かれた言葉に反応してしまう体。脳裏によみがえるのは、俺が空を落としてしまった時のこと。


「それに、水撒きの時に隼人に水掛けられたせいで風に怒られたし?」


「う…」


「それに、マンション中に変な誤解が生まれちゃうし…」


「それは、お前のせいでもあるだろうが!」


「他にもあるの!買い物のときだって、あたし関係ないのに追いかけられるし…」


「そ、それは関係ねえだろ…」


「関係ある!それに、働かざる者食うべからずってね」


「それも関係ねーだろうが!」


「関係あるの!だから、明日は2人に働いてもらおうと思って。ね?」


「そうそう。だから、行くよね?」


半分、脅し入ってんじゃねえか。


「ハハ、それ言われちまったら、働かねえわけにはいかねえよな!獄寺」


「チッ…」


「よし!じゃあ決定っ!明日楽しみだね!風」


「そうだね。あ、武は明日動きやすい恰好にしてね?」


「?なんでだ?」


「理由は明日のお楽しみ!」


「おう?」


それからは、2人からそれについての話が出ることはなく、俺と山本の中には疑問が残ったまま寝床についた。


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あきゅろす。
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