LOVEorLIKEいこーる好き

俺の膝を枕にして気持ち良さそうに眠っている風の髪をゆっくりとすいていく。


外では、この日差しの中元気に遊んでいる子供たちの姿が。キャッチボールをしたり鬼ごっこをしたり。


「あら、武君。そんなところで…」


「あ、佳南さん」


「まあ!風がこんなところで寝るなんて。へえ、いいもの見ちゃったわあ」


「そうなんすか?」


「そうよ。これで、結構プライド高いから人前で寝ようとしないのよ。旅行とかでも絶対に顔隠すのよ?記念に写真撮っとこうかしら…」


「いや、それは…」


まずいだろう、と思って苦笑する。でも、前に水族館に行ったときは寝てたよな?


「よっぽど、安心してるのねえ。それも、武君の膝枕!うらやましいわ」


「…そういえば、もう練習終わったんすか?」


「ええ。子供の方は30分後からよ。じゃあ、風が起きたら『いいもの見させてもらったわ』って行っといて」


佳南さんはウインクをしてそう言い残し去って行った。佳南さんも、俺達の周りにはいなかったような人種だと思うけどな。


そういえば、獄寺いまごろ何してるんだろうな。


「…ん…」


少し風から漏れた声に風の方に視線を向ければ、身じろぎした後少しだけ目を開けた。


「よ、おはよう」


「……、おは、よう…?って、武、なんで…あ、そっか」


寝ぼけているのか、よくわからないことをぶつぶつと呟いてから起き上がった。


「あー、変な夢見た」


「どんな夢だ?」


「なんか、佳南さんに武との写真をいろいろと取られて空からばらまかれる夢…。必死にやめてって言ってるのに、あの人高笑いしながらここの上に登ってばらまくの」


「…それは…」


実際には撮ってねえけど、佳南さん撮ろうかなっていってたしな。もしかして会話だけ聞こえてたんじゃねえか?


「あれ?もう、練習終わってる時間だ…。うわ。私30分も寝たの?ごめん、武。足しびれたでしょ」


「ハハ、これくらい平気だぜ?」


「そっか…。あれ?佳南さんたちもう帰ったの?」


「ああ。あ、佳南さんが、『いいもの見させてもらったわ』だとよ」


「いいもの…?」


「風の寝顔」


「っ!?うそ…。最悪だあ…」


「そんなに嫌か?」


「嫌よ!」


「でも、俺とかもう見てるぜ?」


「武とかは別だよ…。それに、武とは同じ部屋だし…。佳南さんに見られるなんて…。絶対に今度からかわれる…(武のことも含めて)」


「ハハハ!いいじゃねえか、別に」


「よくない!」


「あ、風ちゃーーーん!!」


「お、皆来た」


リュックを背負った二つ結びの女の子を先頭に、年齢がばらばらそうな子供たちが7人来た。


「今日は、一緒に練習してくの?」


「そうよ。このお兄ちゃんも一緒にね」


「風ちゃんのかれしー?」


「…違うから。ほら、早くはいろ?後で、皆にちゃんと自己紹介してもらうから。このお兄ちゃん、太鼓上手なんだよ?」


「ほへ〜!お兄ちゃんすごいね!」


「ハハハ、ありがとな」


「ほら、風はやくいこうぜ!」


風の手を引っ張っていく男の子は俺の方をちらっとだけ見て、風を練習場所に引っ張って行った。睨まれたけど、なんだったんだ?


とりあえず俺もそっちへ向かった。






目の前には興味津々といった感じで俺を見つめてくる子供7人。そのうち男は2人だ。


「そんなに、近かったら何もできないわよ?さあ、もう2、3歩下がって」


風がそういいながら、子供の方に少し移動すればそれと同じように下がっていった。


「はい。じゃあ、自己紹介」


「山本武。よろしくな!」


「じゃあ、あまり時間無いらしいから、練習始めてね。武と私は基本練習に混ぜてもらってあとは見学、かな?」


「おう!」


ということで、基本練習だけ混ぜてもらって、あとは見ていた。子供たちは、ちゃんと練習していて、ちいさいながら大きな太鼓を一生懸命打っていた。


でも、練習が終わってみれば普通の子供に戻った。


「風ちゃん!あそぼ!」


「はいはい。今行くから先に行っててね」


「はーい」


「なあ、風?あの子何て名前だ?」


俺が指差したのは、練習が始まる前に風を引っ張っていった男の子。


「ああ。竜矢よ。ついでに10歳。竜矢がどうかした?」


「いや、なんでもねえよ」


あいつ、俺のことなんでか知らねえけど敵視してんだよな…。あ、ほら、また俺を睨みながら来た。


「風!行くぞ!」


俺を人睨みしてから、俺から風を引き離すかのように手を引いて行ってしまった。ああ、そういうことか。


俺も後を追って外に出た。


「お兄ちゃん!はやくー!」


外に出れば、なぜかもう鬼ごっこは始まっていて、家では見れないほどに風が動いていた。


「武も、混ざれってさ」


額に汗を浮かべて、手で顔を仰ぎながら近づいてきた。


「風が子供と遊ぶところなんて想像しなかった」


「そりゃ、私だって遊ぶよ。これでも、面倒見はいいんだから」


「それ、自分で言うことじゃねえだろ…」


「アハハ。あ、武、鬼だ!」


俺の腰に何かが触れたと思ってみたら、満面の笑みで俺にタッチしていた女の子がいた。そして、風も笑った後離れて行った。


「鬼ごっこなんて、久しぶりだな!」


中学のころはツナや小僧とかとやったりしたけど、高校に入ったらそんなことしなくなったしな。
久しぶりに、楽しむか!


「ほら!武!はやく、はやく!」


「ああ!」


それから、しばらくの間、子供の楽しげな笑い声が響いていた。


そして、やっと子供たちの体力も限界に来たらしく、それぞれ日陰に入って行った。


「皆、元気だねえ」


「ハハハ、風が一番最初にリタイアしたもんな!」


「高校入ってからちゃんとした運動してないもの。それであれだけ走ったんだから、自分をほめたいわよ…」


「ハハ、そうか」


「武は、楽しかった?」


「!ああ。楽しかったぜ」


「そっか。ほら、皆。武に遊んでくれたお礼言おうね」


「「「「「「お兄ちゃんありがとー」」」」」」


「フン!お前!ちょっと来い!」


「竜矢?」


「いいぜ?」


「ちょ、武?」


戸惑っている風を置いて俺は竜矢の後について行った。


「お前!風は渡さないからな!」


風が10歳って言ってたな。竜矢は俺を睨みながら指をさしてそう宣言した。


「お!宣戦布告か?いいぜ。受けてやるよ」


「絶対、絶対に、渡さないからな!!」


「ハハハ!」


「笑うなー!」


「たけしー?りゅうやー?」


「お、ほら。呼んでるぜ?」


俺を人睨みした後竜矢は風の方へ走って行った。おもしれーな。あいつ。


そして、子供たちは親に連れられて返って行った。竜矢は最後まで俺を睨んで。


「しっかし、風はモテるのな」


「は?私、モテないよ?彼氏できたことないですから」


「そうなのか?」


「そうですとも」


「じゃあ、好きな奴とかもいねえのか?」


「それは…」


風は俺のほうをちらっと見た。


「んー。秘密ってことで!」


「な、何だよそれ…」


「じゃあ、武は?好きな子ぐらい、いたでしょ?」


「俺はいねえよ」


「あれ?そうなの?」


「俺が言ったんだから、風も言おうぜ?」


俺がそういえば、風は考えるしぐさをした。そして、何かを思いついたのか、隣を歩いていた風は突如俺の前に来て立ち止まった。つられて俺も立ち止まる。


「武」


「は?」


ドクンと心臓が高鳴った。意味を頭で理解するよりも先に本能のようなものが顔に熱を集める。


風は真剣な表情で、もう一度俺の名前を呼んだ。俺は頭がすぐに働かなくて目を泳がせていると、風は真剣な表情から一変してニコっといつもの笑みを浮かべた。


「あと、空でしょ?獄寺は、まあ一応好きだし…」


「は?」


「だから、私の今の好きな人」


しれっとした顔で答える風は俺の顔をちょっと伺うとクスッと笑った。そんな風に拍子抜けする。


「いや、そうじゃなくて…」


「アハハ!ここから先はトップシークレット。ほら、はやく帰ろう?帰ってご飯の準備しなきゃ」


俺達は、それからはその話をすることはなく帰路へとついた。


そして、家へ帰ってからも風は忙しなく動いている。空と獄寺はまだ帰ってきていない。風の話だと、道場が終わるのは5時30分らしい。今は、4時。


「今日、何にするんだ?」


「ご飯、味噌汁、野菜炒めという結構楽なものにしました」


「なんか、手伝うことあるか?」


「あ、本当?じゃあ、キャベツ切って。かなり大まかでいいから」


「わかった」


それから、俺も手伝いながら2人でご飯を作っていった。でも、風は作っている間にもしきりに時計を気にしていた。


「なんかあんのか?さっきから何回も時計見て」


「え、うん。ちょっと5時には家でなきゃ…」


「弓道か?」


「ううん。バイト」


「バイト?風、バイトやってるのか?」


今まで、全然そんな素ぶり…。でも、そういえば弓道の時は弓道って言うのに、言わないで出て行くときもあったよな。


あのとき、バイトだったのか?


「うん。だって、生活面は空の両親がいろいろとしてくれてるけど、さすがに自分のものとか携帯代とかは自分で払わなきゃいけないし。ついでに、貯めてるし」


「そうなのか?大変だな。どこでやってるんだ?」


「回転寿司の、皿をひっこめたりする人」


「へえ、じゃあ、今度3人で食いに行くか!風の働いている姿を見に」


「人が働いている前で、食べるの!?」


「ハハハ!」


「もう…。絶対にどこでやってるか言ってやらないんだから。よし!完成!じゃあ、私行ってくるわね。たぶんあと少ししたら空たち帰ってくるから」


「わかった!気をつけてな」


「うん!あ、もしおなかすかしてたら先に食べてもいいからね?じゃあ、いってきまーす!」


風は最後まであわただしかった。


それから10分もしないうちに獄寺たちも帰ってきた。


「あれ?たけちゃん一人?」


「ああ。風ならバイトにいったぜ?」


「あ、そっか。今日バイトか」


「あ?あいつバイトなんかしてやがるのか」


「うん。じゃなかったら、隼人たちここで生活していけてないから」


「「は?」」


しれっとして空はそういったけど、それって俺たちにとって結構重大なことなんじゃねえの?


「だって、お母さんたちここに2人が住んでるって知らないし」


「それと、俺達がここに住めてることとなんの関係があるんだ?」


「だーかーらー、あたしたちは、お父さんの仕送りで生活してるの。でも、その両親が知らないから2人分の生活費しかないわけ」


それでも、わからないというようにゆがめられた獄寺の表情を見て、空は溜息をついた。


「だからね、風のバイト代と、あたしたちの仕送りでやりくりして4人分の生活してるわけ」


それを聞いて俺と獄寺は顔を見合わせた。2人ともそんなこと一言も言わなかったからだ。


「まあ、足りない分はお父さんのカードでなんとかしてるけどね」


「結局、親頼りじゃねえか!」


「そんなことないんだから!風、カードで買い物しないんだよ?バイト始めてから」


「そうなのか?」


「バイト代でなんとかなるからー、だって」


「へえ…」


それからは、獄寺が腹減ったと言ったけど、空が待ってるんだと言ってかたくなに譲らなかった。


でも、風はそれから2時間ぐらいで帰ってきた。バイトなのに、短いんだな。


「あれ?食べなかったの?待ってなくてもよかったのに」


「いいのいいの。ほら、はやく食べようね」


「うん。待っててくれてありがと」


それから、4人で食事をとった。そのあいだ、獄寺はずっと風を見た(睨んだ)ままだった。でも、それに気付いているのかいないのか風も空も何もそのことについては言わなかった。


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