アイスが食べ終わり、部屋に入ったあとのこと…。 私は、布団。武がベッドに寝転がっている状態。 私たちは、私がずっとベッドで寝させてもらうのはなんとなく気が引けたから、じゃあ交替で寝ようということになって1週間交代でベッドと布団で寝ることにした。 そして、今日は私がベッドなわけ。 「あ、そうだ。風!今日、バッティングセンターで風が電話してる時に…、あ、番号、教えてくれよ」 「へ?…ああ、うん。じゃあ、赤外線でいい?」 「おう」 携帯を持って、赤外線でアドレスを交換する。なんか、こうしていると、本当に不思議だよね。だって、武の携帯ってこっちの世界のどの機種とも違うんだもん。 「あ、で?なんかあったんじゃないの?」 「あ。そうだったな!それで、風が電話してる時にな、野球のピッチャーやってるってやつに話しかけられたんだよ」 「へえー。ピッチャーか」 そういえば、匠もピッチャーじゃなかったかな?あれ?バッターだっけ?…たいして興味無かったから気にしてなかったけど…。 あ、でも、前に試合を見に行ったときマウンドに立って投げてたっけ。 「私の幼馴染もピッチャーだよ」 「そうなのか!?会ってみてえな!」 「アハハ、で?その人とどんな話したの?」 「ああ、いつか試合ができればいいなって。ま、俺今学校行ける状態じゃねえから当たるわけねえんだけどな!」 「でも、また会えればいいね」 「ああ!久しぶりに、野球やって結構なまってたからな。次会うまでには勘取り戻してえんだ!」 野球の話をしているときの武は本当に生き生きしてるなあ。好きだって言うのがひしひしと伝わってくるよ。 「それで、そいつの球打ってみてえんだ」 「おおー、それは楽しみだね」 これで、もし、相手が匠だったら笑えるな。…って、笑い事じゃないよね。と、そのとき、私の携帯が鳴った。ディスプレーを見れば、相模 匠の文字。噂をすればなんとやら、だ。噂というか、考えていただけだけど。 「あ、ごめん。幼馴染からだ。ちょっと出てくる。先に寝てていいよ」 「おお、おやすみ」 「おやすみ〜」 私は、携帯を持って真っ暗なリビングへと出た。ドアを静かに閉めてから携帯の通話ボタンを押す。 すると、少し大きめの声が耳に当てる前の携帯から聞こえてきた。今、何時だと思ってるの…。寝てたらどうするんだよ、匠め。 『風!起きてるか!?』 「……、起きてなかったら電話に出ないから。で、どうしたの?」 リビングの電気は消したままの状態でしばらくそこに立ち尽くす。なんとなく、電気をつける気になれなかったというだけなんだけど…。 『そう!今日な、バッティングセンターに行ったんだ』 「へえ…」 私も今日行ったんだよという言葉が喉まで出かかったがすんでのところでとめた。これで言ってしまったら、なんで行ったんだという話になってしまう。 『それでな、面白そうな奴にあったんだぜ!』 喜々として話している匠に対して、私は冷汗をかく。本当に笑えない話になったりして…。 「へ、へえ…、どんな人?」 『ああ、なんか、バッターであのバッティングセンタでバンバンホームランに飛ばすんだぜ!』 「す、すごいね…」 それ絶対に、武だから!本当に笑えない話になっちゃったよ。 『ああ!で、そいつも高校生らしいから、絶対に試合で当たりたいんだ!』 「そっか…。いいライバルができてよかったね。その人には匠の球打たれたりして」 『打たれるワケないだろ!』 おお、自信満々だなあ。でも、武もすごいしなあ。本当に、試合とかになったら面白くなるかもしれないね。でも、私的にどっちも応援したいしな…。 「わかんないよ?その人ホームランまで飛ばしてるぐらいなんだから」 『俺が、負けるわけないだろ!俺の球を打てる奴なんて高校生に数えるぐらいしかいねえよ』 どっから来るの、その自信。匠は負けず嫌いだからなあ。でも、武も負けず嫌いだしなあ。って、私のまわり負けず嫌い多いな。 「相変わらずの負けず嫌いだね」 『そいつと試合することになったら絶対に見に来いよな!俺が勝つところ見してやるよ!』 「はいはい。楽しみにしてるよ」 武、今学校行ってないから無理でしょ…。あ、でも、いまは夏休みだからいいけど、高校生なんだから勉強ぐらいしないとあっちに戻った時に大変なんだよね? 『おう!楽しみにしとけ!』 「じゃあ、私はもう寝るよ。お休み」 『うん。おやすみ』 だいぶ遅いのに、元気だなあ…。というか、あの2人接触しちゃったみたいだど…、大丈夫なの? 「……まあ、なるようになるか」 あんまり、気にしないことにしよっと。なんかなったときはその時に考えよう。うん。とりあえず今は、 「眠い…」 まどろみ始めた目をこすりながら部屋に戻ろうと立ち上がろうとすれば、パチっと言う音とともに、部屋の明かりがいきなりついた。 いきなりついた明かりは、暗闇に慣れていた眼にはまぶしすぎて目を瞬かせる。 「あれ?風早いね。…いや、遅いのか」 声の方を振り返れば、空が冷蔵庫からお茶を取り出して飲んでいた。 「うん。遅いね。匠から電話があったの」 「匠君から?」 「そう。…ねえ、今は夏休みだからいいけど、学校が始まったら武たちどうしよう」 「いっそのこと、学校に編入させちゃう?」 「え、できるの?」 それだったら、武も匠と試合できるしいいかもな…。匠も何気に楽しみにしてたし。 「お父さんに頼めば…。あ、でもあたしの従兄弟にはできないね」 「じゃあ、私の従兄弟にしておけばよくない?」 「あ、それいいかも!でも、隼人は試験受けてくれるかなあ?」 山本は野球で釣れるとしても、獄寺は反抗するだろう。唸りながら考える空。部屋は静かになり、空の唸り声と時計の秒針が振れる音だけが響いた。 「あ!そうだ!」 いきなり声を上げた空に少し肩を揺らすけど、空は手招きをして、口のところに手を当てる。耳を貸してということだろう。 「なに?」 2人だけの空間で耳打ちする必要があるのかどうかはまあ置いておいて、ごにょごにょと空の思い浮かんだ提案を聞いた。 「ね?どう?」 「うん。いいと思う。でも、あとで怒られるの確定だね」 「う…。で、でも、編入できるわけだし…。大丈夫!とにかく、あたしはお父さんに聞いてみるね」 「うん。お願い」 「じゃあ、お休み」 「お休み」 部屋に戻れば、電気は消えてた。再び明るいところから暗闇へと、急に変わったことによって視界が遮断されたかのように何も見えない。目が慣れるまでしばらく立ち尽くしていれば、ようやくぼんやりと物の形が分かるようになってきた。 武の方を見れば、静かに寝息を立てている。 「学校…、ね」 私は、布団にもぐりこみ眠気に引き込まれていった。 |