「じゃあ、行ってくるから。空のことと、買い物よろしくね」 「ああ」 山本がバッティングセンターに行きたいという事で、あいつは山本について行った。 空は何を食ったのか知らねえが、腹いたでソファーで横になっている。 そして、俺にはあいつの提案で買い物が命じられた。なんで俺がと思いつつも、本当に痛そうに顔をゆがめている空を見ているのも忍びなくてつい、勢いで承諾してしまった。 そして、今、俺の手にはその空の腹痛の薬以外に薬局で買っておいてほしいものが書かれたリストと、空が熱を出したときにあいつからもらった携帯の番号が書かれた紙が握られている。 ポケットには、その薬の空箱が無造作に突っ込まれている。同じものを買ってこいだとよ。全く、なんで俺が。 そして、俺は今薬局へ向かう道を歩いているわけだが…。 「これ、何の薬だ?」 書かれている薬の名前はどうもみたことも聞いたこともない。それは世界が違うからかもしれねーけど。 薬局につき、腹痛に効く薬でこの箱と同じものがないかを見て行く。 しかし、なかなか見当たらねえ。こうなったら、一回電話してみるか。それとも、店員に聞くか。 「チッ、めんどくせえ…」 もう一度探すためにポケットから空箱を取り出して、目を落とす。どんな薬を使っているのか少し興味があり、薬効を見て行く。 「って…これ…っ!!」 俺は、ある言葉を目にとめたとたん、無意識に顔に熱が集まるのを感じた。だ、騙されたっ! 俺は、すぐさまその薬局を出て公衆電話を探す。…が、今どき携帯を持っていて公衆電話なんかでかける奴なんてたかが知れてる。そうなれば、数なんて少なく、ここの周辺には無いみたいだ。 「あーっ!くそっ!!」 頭を掻きむしって、どうしようか考える。だいたい、あいつもあいつだ。男の俺にこれを頼むか?普通。 そうだ、携帯!電波は確か立っていたはずだ。だったら通じるかもしれない。物は試しだ。 すぐに携帯のボタンを押して、耳に当てる。そして、聞こえてきたのはおなじみの電子音。よっしゃ。つながった! 『はい、もしもし…』 「おい!お前!どういうつもりだよ!」 『あ、もしかして獄寺?繋がったんだ』 「ああ、ためしにやってみたら繋がった。…って、今はそんなことどうでもいいんだよ!」 『携帯で怒鳴らないでよ…耳がキーンってなる』 「んなことしるか!お前、俺にななな、なんてものを頼んでんだよ!」 『あれ?今気づいた?』 「おまっ!男の俺に頼む奴があるか!」 『大丈夫。獄寺ならきっと空のためにちゃんと買ってきてくれるって信じてる』 「なんだよ、その無駄な信頼…」 『まあ、これで空がなんでお腹痛かったか分かったんでしょ?』 それを言われて、また顔に熱が集まってくるのを感じた。 「なっ!し、知るかっ!とにかく!俺は買わねえからな!」 『じゃあ、空を死んだままにしとくの?あーあ、獄寺のせいで空かわいそー』 こいつ、声に笑いが含んでやがる。あきらかに楽しんでるじゃねーか! 『それだけだったらさすがに恥ずかしいだろうから、ちゃんと他の物も頼んだんだよ?ちょっと譲歩してあげたんだから頑張ってよ』 「譲歩する場所が違ーんだよ!」 まったく、なんなんだよこいつ!というか、あの野球馬鹿もわかってたんなら教えろよな! 『ハア、じゃあ、一応そのリストにあるものは買ってね?で、もし薬を買う勇気がなかったらまた電話して』 「チッ、わかった」 『大丈夫。帰りにちゃんとアイス買っていってあげるから!』 「それ、お前が食いてーだけだろ!」 『アハハハ!じゃあ、頑張ってね』 プツっと切れた携帯に舌打ちする。買っていかなくてもいいといわれたが、家にいる空の様子を思い浮かべるとどうも手ぶらで帰るのは気が引ける。 「…チッ、めんどくせえ」 薬局の中に入り、どうしようか迷う。とりあえず他の物をかごに入れて行く。…あと、これをどうするか、だな。場所なんて知らねーし、というか、俺が買ってたら変態じゃねーか!俺は六道骸にはなりたくねえ! 「何かお探しですか?」 声をかけられ振り返れば、俺よりも少し年上っぽい男がいた。ここの制服をきていることから、バイトかなんかだろう。 「こ、これ、どこだ?」 「は?」 「だから、これ!これと同じもの持ってこいっつってんだよ!」 手に持っている空箱を店員の目の前につきだして、怒鳴ると、彼はきょとんとしたあと、俺を凝視し始めた。 「な、なんだよ」 「店長さーん!不審者がいまーす」 「なっ!不審者じゃねえ!果たすぞてめー!」 なんだ、この店員!しかも、棒読みで店長呼ぶんじゃねーよ! 「冗談ですよ。冗談。で、彼女さんにでも頼まれたんですか?」 ついてくるように言われ、大人しくついていく。ここで何かやらかしたら空に何言われるかわかったもんじゃねえ。 「はあ?違ーよ。だいたい、お前に関係ねえだろ」 「クスクス、そうですね。ああ、ここですよ。ほら、これでしょ?」 渡されたものは、確かに持たされた空箱と同じものだった。 「チッ…、ありがとな」 「舌打ちして言うことじゃないよね…」 「ああ?」 「いえ、なんでもないですよ?」 チッ、本当になんなんだ、こいつ。いけすかねえ野郎だ。 「それでは、レジはあちらですので。…不審者さん?」 「なっ!テメエ!今、なんつった!」 「店長さーん、不良がいまーす」 「いちいち棒読みで報告してんじゃねー!!」 というか、不良が薬局にいようが別にいいだろうが! *** 隼人の帰りを待つあたし。正直言って暇だあ。そういえば、隼人がいった薬局ってここの近くだよね。そこって確か南先輩が働いてた気がする。隼人、いいなあ。先輩に会いたい…。 それにしても、おなか痛い。 「早く帰ってこないかなあ?って、本当に買ってきてくれるのかな?」 結局、出て行く時も何も薬に関して反応してなかったから、気づいてないんだよね?だったら、あっち行って大恥かくんだろうなあ。 「あー、かわいそ」 棒読みで呟いてから、またお腹をさする。かなり痛くて、まだソファーから一歩も動けていない状態。 動こうと思えば、動けるんだけど…。動く気がしないというか、動きたくないというか…。 「帰ったぞ」 「隼人!おかえり!待ちくたびれた!」 「お前…」 リビングに入ってきた隼人を出迎えようと思い、ソファーから体を起して、ドアの方を向けば、手には行く時には無かったビニール袋が。 そして、隼人はなぜかリビングのドアのところで突っ立ったままあたしを凝視している。 「…?何?あたしの顔、なんか変?」 「……っ!なんでもねえ!」 なぜか、いきなり顔を赤くして、怒鳴ってくる隼人にまた、首をかしげる。本当になんなの? 「で、薬!買ってきてくれた?」 「おお…、って、お前なんの薬か言えよ!おかげで…」 「おかげで?」 「チッ、なんでもねえっ!!」 怒鳴りながらも、袋を投げてよこした。それを何とかキャッチして、中を見ると風が頼んだものと一緒にあたしのための薬も入っていた。 「隼人、ちゃんと買ってきてくれたんだ…」 「お、おお…」 そこで会話は途切れてしまった。だって、これを買ってきてくれて、今視線を向けたら逸らされたんだよ?結構傷つく…って、それより、これで隼人もあたしがいまアレだって気づいちゃったんだよね? 未だに、耳が赤い隼人は決してあたしの方を見ようとはしない。 「……」 「……」 仕方ないから、ゆっくりと起き上がって台所でお茶を取り出しに行く。それを、隼人はただ眺めているだけだった。本当に、痛い。 動けるけど、痛いから拳を作って軽く痛い部分をたたく。痛みによって少しそらされる意識で生理痛を無視しようとするけど、痛いことには変わらない。 たどり着いたキッチンでコップにお茶をそそぎ、薬を口に含んで飲む。これで、しばらく経ったら薬が効いてくるだろう。 血の不足によって低くなる体温を高めるために部屋からひざかけを持ってきてそれにくるまり、再びソファーへダイヴ。 しかし、隼人は本当に何も言わなくて、沈黙が続く中、いきなり玄関の方から声がした。 「ただいまあ」 風と、たけちゃんが帰ってきた! 風が、廊下からリビングへ続くドアを開けて今のあたしたちの状態を見て、少し固まった。な、なんで? 「え…?風?」 「あー、ごめん。お邪魔だったかな…」 「ま、待って!ドア閉めないでよ!」 「アハハ、……冗談だって」 「…何、今の間」 ドアを閉めて出て行こうとする風を必死で引きとめた。風の後ろではたけちゃんがきょとんとしてる。 「あ、獄寺、ちゃんと買ってきたんだ。へー、えらいね。私、買ってこないと思って買ってきちゃった」 そう言って、袋の中からあたしが手に持っているものと同じものを取り出してみせた。 「おまっ!だったら、俺にわざわざ買わす必要なかっただろーが!」 「…気のせい、気のせい」 「気のせいで済まされるか!」 「いいじゃん。もう2度とない経験かもよ?」 「んな、経験要らねえよ…」 「まあ、まあ、別に、携帯がつながることが分かったんだし、よかったじゃん。一石二鳥ってことで」 「え!?携帯繋がったの!?」 携帯がつながったって、すごくない?じゃあ、あっちの世界の人とも連絡取れたり…、しちゃう、のかな…。 「そう。でも、こっちの人とだけみたいだけどね」 「そ、そうなんだ」 じゃあ、あたしもあとでアド交換してもらおうかな。 「って、それとこれとは関係ねえんだよ!」 「はいはい。ごめんって。アイス買ってきたんだから、許してね」 「てめえが食いてえだけだろうが!」 「あたしも食べたい!」 「よし、じゃあ食後のデザートはアイスで決まり!じゃあ、ご飯の準備するから待っててね」 やったっ!アイス〜!隼人には悪いけど、アイスには勝てないって。ま、とりあえず…。 「隼人!買ってきてくれてありがとね」 「お、おう…」 さて、アイス楽しみだな〜っ!! |