私は今結構焦っていた。というか、呆れていると言ったほうが正しいかもしれない。 だって・・・ねえ? 私は、師範にいってちょっと早めに道場を出た後、隣のデパートへと駆け込んだ。周りを見れば、何やらキャーキャー騒いで上へと上がっていく若い女の子が数名。 かなりおしゃれをしているから、普通に遊びにきたのか、そうじゃないのか… って、今は、そんなことはどうでもいいんだけど。あの女の子の反応見てたら嫌な予感しかしない。 でも、きっと私は行かないといけないんだろう。気は進まないけど。 軽くため息をつき、上へと向かう女の子たちについていく。確か、3階が紳士服売り場だった。もし、この子たちもそこに行くならほぼ間違いないだろう。 という、予想をつけつつ、エスカレーターで駆け上っていく女の子たちを私は立ちつくしたまま流れにのってゆっくりと登っていく。 見失う心配がなさそうなのは、もうすでに女の子たちの黄色い声援が聞こえているからだ。もし、ここに連れてきたのが自分じゃなかったら今すぐにでも帰りたい。 せっかく、逃げろと言ったのに! 獄寺はダイナマイトなんて出してないよね…。やっぱり、早く行かなきゃいけないかも。 気が進まないながらも進みたくないと駄々をこねる足を無理やり動かしてエスカレーターを上る。 3階についてみれば、男物の服ばかりが目に着く。まあ、この階はメンズ服コーナーだから当たり前なんだけど。きょろきょろとあたりを見回せば、前方からこちらに向かって走ってくる女の子3人を発見。 その子たちを目で追うようにして、後ろを振り向けば…。なんというか…ねえ? もう、本当に逃げてもいいですか?置いて帰ってもいいですか? 私の目に映った光景は、この階には異様な光景だった。 女子がキャーキャー騒いで固まっている中心には後頭部に手をあてて笑って女子と話している山本の姿。 そして、そこから少し離れた所にある女子の塊は、熱い視線を獄寺に向けている。獄寺はというと、その視線が鬱陶しいのかなんなのか、かなり険しい顔をして一応服を選んでいるらしい。 でも、その一つ一つの仕草をするたびに女子から歓声が上がる。一応ダイナマイトは出してないみたいだから安心…かな。 そして、空の姿は…。うん。やっぱりないよね。そうだよね。まだ時間的には終わる時間じゃないもんね。 「さて、どうするか…」 ここで、女子の輪に入っていって連れ出すということもできるけど、そうなれば痛い視線を受けるのは私になる。それだけは避けたい。というか、絶対に嫌だ。 2人の手にはけっこうな量の袋が。ということは、ある程度買い物は終わっているはずだから、すぐに連れて帰ることはできるのか、な? どうしようか悩みながら2人の光景を眺めていると、不意に獄寺が不審な動きをしだした。不振というか…かなり険しい顔をして女子たちを睨んだと思ったらズボンに手をやった。 あれって…あそこから出てくるのって… 「だ、ダメ!」 思わず、たぶんというか確実にダイナマイトを手に握っている獄寺の腕を掴んでそれが表に出ないように抑えつける。 というか、相手が男だから力で敵うはずは無いんだけど、それでも一応出さずにとどまってくれたみたいで一安心。かなり睨まれたけどね。 「チッ!おせえんだよ!」 「うん。ごめん、ごめんね。苛々するのもわかるんだけど。でもね、かなりこの状況で出てきてしまったことに後悔してるんだけど」 本当に早く空に来てほしい! いきなりでてきて、しかもナチュラルに会話し、何気に手を握っている(正確には抑えている)光景を見た女子一同からかなりの非難の視線を浴びてしまっているこの現状。 さて、どうやって打破しようか…。 「えっと…とりあえず、もう全部買ったの?」 「当り前だろ!こんなんに、3時間も時間かけねえよ!」 そう言われ、時計を見てみれば、確かにもう別れてから3時間がたっていた。 そろそろ空の練習も終わるはずなんだけど…。先輩と話していたら無理かも。 「ねえ、私的に今すぐ逃げたいんだけどどうすればいいと思う?」 「ああ?」 私は獄寺にだけ聞こえるような声で今の状態のまま話しているが、こいつはそんなこと気にせず普通に話すからもう、話しかけるのをやめようかと思ってしまう。 私は、必死に獄寺を取り巻く女子を見ないように視線を下に下げながらこの状況をどうしようか考える。 普通に彼女とかのふりをするのもありだけど、彼がそれに合わせてくれるはずがない。というか、私自身もそんな雰囲気出せる気がしない。 ついでに、山本だ。彼は獄寺と違って本当に取り囲まれているから…。 「お、風!もう終わったのか?」 もう、本当に泣いてもいいですか? バットタイミング。 山本は獄寺といる私に気づいたらしく、手を振りながら私たちの方に来た。 おかげで、山本を取り巻く女子たちにも睨まれる始末で…。これを私一人でどうにかしろと? ねえ、本当にふざけてるの? ここに、雲雀さんがいたら間違いなく噛み殺してただろうなとか、お門違いなことを考えつつ、周りの視線がかなり痛い。 お二人さん、知ってますか?女子の視線ってかなり痛いんですよ。しかも、この人数に睨まれてみなよ。本当に逃げ出したいんだけど。 「えっと…買い物は終わった、よね」 「おう、リストにあったものは全部勝ったぜ」 眩しいくらいの笑顔で持っている袋を持ち上げてみせる山本に私は苦笑いしかできない。それでも、周りの女子は黄色い声援をあげるから、本当に呆れるというか、なんというか…。 「えっと、とりあえず、ダイナマイトはしまってください」 早口かつ、小声で獄寺に言えば、舌打ちした後大人しくしまってくれた。さて、どうしようか。 周りでは、何あの子だとか、どういう関係?だとかのささやき声が聞こえるが、かなりうざい。 あー、苛々する。 はやく空来て!本当に、この状況どうにかして! こんなにも、人多いの苦手なんだって!しかも、注目の的&中心にいるなんて耐えられないから! 空の練習が終わってここに来るまで私がいても動けないし、先に帰るという手もあるけど、この中から抜け出せる気がしないし…。 この際、空が来たらダッシュで逃げるか。彼らの速さなら逃げれるだろうし…。 私もそこまで速くないけど、スニーカーだし、ヒールとかはいている彼女たちよりはましなはずだ。 はやくしないと、今度は本当に獄寺がダイナマイト出しかねないし。 「なあ、これからどうするんだ?」 「……」 「おい、風?」 「へ!?あ、ごめん。えっと、これから?」 かなり、考え込んでしまっていた私は山本の言葉にすぐに反応できなくて、山本は心配したのか顔を覗き込んできた。 それでやっと気がついた私は、周りの悲鳴っぽいような声にまたひとつ溜息をつく。 「えっと、とりあえず、家に帰るよ。この荷物じゃどこ行くにも邪魔だし」 「あ、いたいた!風!」 |