糸口はすでにこの手に

「獄寺、今いいか?」


風と空が用事があるとかで二人で学校へ向かった日、心配で苛立ちをあらわにする獄寺に声をかけた。


「この前、調べてたことだけどよ」

「ああ、あれか」


ストーカーの坂下に処分が下された以上調べる必要がこれ以上あるのかは疑問だったが、調べてみて正解だった。


「これ、見てくれ」


ケータイの画面に出したのはこのマンションの防犯カメラの映像。


そこにはポストでなにかを入れる坂下の姿が。おそらくこれがあの日の差出人不明の手紙だろう。


「あと着信履歴からたどったら坂下の携帯からだった。最近あった無言の電話。あれもそうだぜ」

「チッ、どこまでも気持ち悪いやつだな」

「あとは、そうだな。次郎が気づいたんだけどな、坂下から霧の炎の気配がしてたんだ」

「霧だと?」


以前、幻術使いと戦ってから幻術について詳しく、また気配がなんとなくわかるようになっていた。だから違和感を感じて次郎を出してみたんだけど、それがビンゴだったってわけだ。


「ああ。もしかしたら、今回の裏で糸を引いてる奴は、俺たちと同じ世界のやつなんじゃねえか?」

「……如月が、同じ世界の人間?」

「如月って、あいつ?」

「ああ。ストーカー野郎が言ってやがったんだ。自分は如月に言われてやったんだってな。あの場面で如月が出てくるなんざただの妄言ってだけじゃねえ気がする……。多かれ少なかれなんか関わってんだろうよ」

「如月か、俺たちが転校した時にはもういたからなー。今からじゃ調べるのに時間かかっちまうけど」

「だが如月があっちの人間なら調べなきゃなんねえ。俺たちじゃなくて空たちを狙ってきてんだ。放ってはおけねえ」

「だな。じゃあ、まずはクラスメートから聞いてみっかな」


俺がまず電話したのは匠のとこだった。


「はあ?また如月先輩かよ」

「またってどういうことだ?」

「昨日だよ。風にも如月先輩と兄貴が一緒にいるのみたことあるかって聞かれてさ」

「!!風が……」

「まあ兄貴は生徒会だしそれ関係で関わってんのはみたことあるけどって。で、お前はなにが聞きたいわけ?俺、そんな情報通じゃねえんだけど」

「あ、ああ……、如月とお前らって昔から知り合いなんだよな?」

「あ?まあ、伊集院の家とも関わりあるし、如月先輩も財閥のお嬢様だからな。っつっても、先輩は海外の財閥だかて日本では桐島ゆりなの家で居候状態だぜ。ガキの頃だったから知り合った時のことなんて覚えてねえけど」


桐島ゆりなっていえば空を目の敵にしていたやつだ。匠の兄貴が好きだとかで空にちょっかいをよく書けていた。


「桐島の家で……」

「俺は、高校に入ってからはパーティーにも出てないからほとんど関わってねえよ」

「わかった。ありがとな」

「あ、でも神童の彼女ならもうちょっと知ってるかも。なんか前に関わったことがあるとかなんとか言ってたぜ」


横で会話を聞いていた獄寺を顔を見合わせる。風が昨日匠に聞いたってことは風も如月が怪しいって思ってるってことか?


「次、あいつにかけろ。神童」

「神童?木城じゃなくてか?」


言われるがままに神童に電話をかけると友人と遊んでいるところだったのか電話の向こうから楽しげな声が聞こえてくる。


「よお、珍しいじゃん。どーしたんだ?」

「わりいな。遊んでる時に。神童の彼女がさ如月先輩と関わりあるって聞いたんだけど、なんか知ってるか?」

「んー?なんか昔いじめにあってたんだけどそこを助けてくれたらしいぜ?それからすごい感謝してるっつうか、あれはもう崇拝に近いね。まあ俺も俺の彼女を助けてくれたあざっすっていう心境ではあるけど?つってもその時はまだ付き合ってなかったんだけどなー」


楽しげな神童の声を聞きながら、この前風が教えてくれた木城との会話のことを思い出す。


本当は、優しい人でこんなことをする人じゃない。


木城はそう言ったらしい。それが如月のことだったとしたら、恩を感じている彼女が何かに勘付いていたとしても風に言わないかもしれない。


「他になんか如月について何か知ってることねえか?」

「なんだなんだ?もしかしう・わ・き?」

「はあ!?俺は風一筋だ!」

「照れんなって。大丈夫。春日には黙っておいてやるよ」

「おい、神童!」

「如月先輩は美人だもんなあ。おまけに帰国子女でイタリア語だっけ?ペラペラなんだろ?英語もできるって言うし。眉目秀麗、才色兼備!男なら惚れないわけがないってね!もちろん俺は彼女一筋だけどね!」


ペラペラとよく喋る神童に呆れる。俺だって風一筋だっての。


でもそう反論する前に、神童じゃない声が割り込んできた。


「如月先輩ならさっき学校にいたぜ?ほら、あの山本と獄寺!あいつらの彼女と一緒だったの俺みたぜ」


その声が聞こえた瞬間、俺たちは立ち上がっていた。


気づいた時には電話は切っていて、あとで謝らねえとなと思いながらも家を飛び出した。


学校まで走って走って、学校より手前の街中で二人の姿をみつけたときは本当にほっとした。


走りよった勢いのまま風を抱きしめる。


「風!無事か!?なにもされてないか!?」

「!!ちょ、落ち着いて?なんの話なの!?」

「無事だな!?」

「無事だって!なにもない!学校に行って帰ってきただけ!」


ぐいっと引き離されてようやく全身に目を走らせる。確かになにもない。行ったときと変わらない格好だ。でも、その目元が少し濡れていた。


「泣いた、のか?」

「!今の武の勢いに驚いたのよ」


隣を見ると抱きしめられた空が必死に獄寺の背中を叩いて離れるように訴えていた。


「あー、もう。びっくりしたわ。ほら、こんな街中でいつまでやってるのよ。いいから帰るわよ」


いまだに空を離そうとしない獄寺のスネに蹴りを入れた風。ようやく獄寺が空を離し、俺たちは四人で帰路につくことになった。


表面上は変わらない。でも、どこか無理をしているような、強張っているような表情。風と空は、笑いあっているが、俺と獄寺は顔を見合わせて表情を険しくするのだった。


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あきゅろす。
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