明らかになる影

「波音さん」

「来てくれて嬉しいわ」


波音さんは読んでいた本をしおりも挟まずにを閉じると立ち上がった。


「ここじゃなんだから場所を移動しましょう」


校舎内へ入っていく波音さんに、私たちは目を丸くしてお互い顔を見合わせた。


どうする、と目で相談する間にも波音さんの姿は階段をのぼって消えていく。


「行く。聞きたいもん」

「そうね」


意を決して波音さんの背中を追った。


まっすぐに伸びた背筋。制服のスカートを由良前貸せ彼女は堂々とした佇まいで学校の廊下を歩く。部活動中らしい生徒とすれ違うたびに挨拶を交わす彼女。


連れられてきたのは、生徒会室だった。壁際には大きな棚があり、資料があふれんばかりに詰め込まれている。文化祭に使ったと思われる腕章や旗、何に使うのかわからない被り物なんかも部屋の隅のカゴに無造作にいれられている。


「かけて。インスタントなんだけどコーヒーは飲めるかしら?」


慣れた手つきで戸棚から紙コップを取り出すとそこにインスタントコーヒーの粉を注ぎポットからお湯を出した。


私たちの前に湯気を立てたコーヒーが置かれ、さらにはシュガースティックにコーヒーフレッシュも渡される。


波音さんは職員室からたまに拝借してくる生徒がいるのだと冗談交じりに笑う。


波音さんの前にはマグカップに入れられたコーヒー。砂糖もミルクも必要としないのかブラックのまま彼女は口に運んだ。


「まずは、伝言通り二人で来てくれてありがとう。獄寺君たちに反対されたんじゃない?」

「ええ、まあ」

「どうしてあんな回りくどい形で呼び出したんですか」

「坂下くんに私のことを言われたんでしょう。少し聞いたわ。だから説明をしようと思ったの」

「じゃあ、本当に波音さんが坂下先輩をそそのかしたんですか!?空をストーカーするようにって。南先輩も、火事も先生が原因なんですか!?」

「いいえ。私は確かに坂下くんと頻繁にあっていた。そして彼には情報を提供してもらっていたの」

「情報?」

「あなたたちのことよ」

「本当に監視されてたってこと……?」

「一から説明するわ」


波音さんはおもむろにポケットから何かを取り出したものを机に置いた。懐中時計だった。銀色のそれは片手でなんとかもてるほどの大きさで銀の鎖がつけられている。それを私たちの前に置いた。


「裏を見てみて」


言われるがままに懐中時計をひっくりかえしてみる。懐中時計の裏は一面銀色だった。そしてそこには光の加減によって別に反射するものがある。懐中時計を揺らし蛍光灯の当たり具合を変えると浮かび上がったのはボンゴレのエンムレムだった。


「これ……!」

「一つ言っておくなら、この世界で売られているアニメグッズではないわ」


たしかに、漫画やアニメとして出ているためグッズ展開もされている。しかし、そんなのは比にならないほどの精巧さだ。懐中時計としての価値も高いだろう。


「つ、つまり、波音さんはボンゴレの人間なんですか?武たちと同じ、あっちの世界からきた?」

「そうよ。私は彼らより未来から来ているの。だから高校生の彼らは私のことを知らない」


つまり武たちはまだ波音さんに出会っていないはずだったんだ。頭の中が混乱しそうになるのを必死に整理しながら聞いていく。


「未来ではあるファミリーがボンゴレに抗争をしかけようとしていた。でもボンゴレは強い。そこで過去に遡りまだ強くなる前の彼らを殺そうという動きがあった。そこで狙われたのが獄寺くんと山本くんだったの」

「なんでですか?」

「あの二人が一番綱吉くんと近い存在だからよ。中学生の頃から様々な困難を乗り越えファミリーとしての絆を深めていった彼らを失えばその失意でボンゴレ10代目を降りるのではと敵が考えた。綱吉くん自身にはリボーンがいるから手は出せないからね」


沢田綱吉の人柄は漫画でしか知らないが、優しい彼が武や隼人くんを死なせた原因が自分にあったと知れば、彼はひどくショックを受けることは容易に想像ができた。


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あきゅろす。
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