ストーカーである坂下は、停学処分を受け自宅謹慎を言い渡されている。それでも安心はできないからと伊集院の家から見張りをつけてあると空のお父さんから聞いた。 しばらくは坂下のストーカー事件の噂話でもちきりになり、空は怪我こそなかったものの精神的なショックで学校を休むことを余儀なくされた。隼人くんはそれに付き合うように学校をサボった。当事者の二人がいないことによって噂が噂を呼び、坂下が殺されたとか獄寺が坂下を海に沈めたなんて噂話も出回ったぐらいだ。 しかし、それも一週間を過ぎるころには下火になりはじめた。 そして、ようやく空が学校に復帰した。もちろん隼人くんも。再び噂話が再燃するかと思われたが、番犬隼人くんが睨みを効かせたおかげで目立った騒動も起こらなかった。 バタバタだったが期末試験も無事に終わり、ようやく日常を取り戻してきたある日、おずおずと空が話しかけてきた。 「ねえ、風……。あの、さ、坂下が言ってたことなんだけど……」 「あんなやつ名前で呼ぶ価値もないわ。クズで十分よ」 「く、クズって……」 苦笑をこぼす空だが、私は真剣に言っている。 今はたまたま武も隼人くんもいなかった。武は私が頼んだ買い物へ、隼人くんはタバコが切れたとかで買いにでかけた。隼人くんからは俺が戻ってくるまで絶対に家から出るな、出させるなと言い聞かせられている。 「それで、クズがどうしたの?」 「クズで進めるんだね……」 「当然でしょ。で?」 「うん、あの時、あの人が言ってたんだけど、波音さんに言われたって」 「波音さん?」 「うん。なんか、監視役がなんとかって言ってた。南先輩がおかしくなったのも波音先生のせいだ、騙されてるんだって」 人のせいにするにしてもそこで波音さんが出てくるのはおかしな話だ。個人的な恨みでもあったのかもしれないが、それにしても何か引っかかる。 「そういえば、前に木城さんが修学旅行の時に言ってたの。まだ何かあるかもしれないって。このことだったのかしら……」 「え、どういうこと?」 「わからないわ。何か知ってるみたいだった。木城さんは火事の時も何かが起こるかもしれないって知っててなにもできなかったって言ってたわ」 「火事は事故でしょ?」 「そうよ。でも、それが人為的なものだとしたら……。たとえば、私を狙ってのものだったとしたら……?」 「ええ!?」 「前回は私。今回は空。他には……、バスケットゴール?あれもかしら」 「波音さんが?」 「わからないわ。木城さんはあの人としか言わなかった。でも、そのあの人が波音さんだとしたら……。火事を意図的にお越し、バスケットゴールを落とし、南先輩と坂下を焚きつけた?」 「それってあたしと風を殺そうとしてるってこと?」 「もしくは、傷つけたいって感じかしら。前者二つはともかく後者に関しては殺すまでは至らないと思うの」 「っていうか、あとの二つだけ陰湿的すぎない!?」 「なんでこんなサスペンスみたいになってるのかしらね」 二人でう〜んと考え込む。結局答えなんて出なくて、他の人にも聞いてみようかという流れになった。必然的に、当事者から一番近い人間である匠が選ばれることになった。 「ねえ匠。南先輩って波音さんと一緒にいるところみたことある?」 「は?風が兄貴について聞いてくんの珍しいな」 「いいから」 「何度かあるぜ?生徒会とも関わってるだろ。だからか個人的に連絡先も知ってるらしいし。なんか連絡したいんなら兄貴に聞いておこうか?」 「ううん、それは大丈夫。ありがとう」 「?おう」 「あ、南先輩いるなら代わってもらってもいい?」 明日は槍でも降るんじゃねえか?なんてぼやく匠を急かし、代わってもらった南先輩はやっぱりいけ好かなかった。 「君が俺に用があるなんて珍しいね」 「御託はいいので、波音さんについて知っていること教えてください」 「如月?」 「空を襲ったのは波音さんにそそのかされたからだと、坂下先輩が」 「……へえあいつがそんなことをね。俺は、俺の意思で行動したまでだよ。あの時は確かにどうかしてたとしか言いようがないけれど、空を好きで、獄寺くんに嫉妬していたことに変わりはない。戻れるなら、もっと優しくするのにね」 「あなたの心情とかどうでもいいんです」 「相変わらず手厳しいね」 「如月か。彼女はまるで予知能力でもあるみたいだ。今だって、君が俺に如月のことを聞いてきたら伝えて欲しい伝言があると言われていた」 「え……?」 「明日、二人だけで学校へ来て欲しいと」 「どういうことですか?」 「俺にもなにがなんだかわからないよ。そもそも君が電話をしてくるわけがないと思っていたしね。でも、君はかけてきた」 波音さんはこうなることを知っていたということなのだろうか? 「あの如月が君たちに危害を加えるとも思えないけど、心配なら付いて行こうか?」 「あ、それは遠慮します」 「相変わらずだね」 「俺としてはこの前のストーカー事件もあるし、君一人ならともかく空も一緒にと言われている以上あの番犬君にも知らせることをお勧めするよ」 「そう、ですか……」 電話を切り、空と二人で話し合う。 真実を知りたいと言う気持ちと、知るのは怖い気持ち。それに南先輩経由の呼び出しというのも気にかかる。 行くのはおそらく隼人君も武も反対するだろう。 「どうする?二人でって言われたけど」 「行く。だって、なんであたしたちがこんな目にあわなきゃいけないのか知りたい」 「なら武たちには話しましょう。何があるかわかったもんじゃないわ」 「ダメだよ!また隼人がブチ切れちゃったら今度こそ殺しちゃう!」 「でもっ」 「もう隼人が誰かを傷つけるところなんて見たくないっ。あっちの世界じゃともかく、こっちじゃ本当に犯罪者だよ!?風が行かなくてもあたし一人でも行くからね」 譲らないと訴える目に、根負けしたのは私の方だった。 「わかった。私もちゃんと行くわ」 「うん!」 「でも、何かあったらすぐに逃げるし、二人にも学校に行くことは伝える」 「うん」 話がまとまったころ、タイミングよく隼人君が帰ってきたのでこの話は打ち切られた。 |