抱きしめた風はやっぱり小さくて、やわらかいなと思いながら、少しだけ腕に力を込めてみる。 「本当に、今更なのよ…。あの人からはもう何もいらない」 「風…」 「…こんなに、このことについて話したのは初めてね。話すと、感情が整理されてないことがよくわかるわ」 「話してくれてありがとな」 「武」 「なんだ?」 「………やっぱり、なんでもない」 「なんでもなくねえだろ?」 「なんでもないわ」 「言えって。風」 「………」 あくまで首を振る風に、もう一度名前を呼ぶと、びくっと体を震わせて更に顔をうつむけた。 「…あの、ね」 「おう」 「しばらく、このままいてもいい?」 「!!」 「たけし?」 顔を上げようとした風の後頭部を慌てて抑える。俺の胸に逆戻りした風が抗議の声を上げたけど、今はそれどころじゃなかった。 反則だろっ…。 顔に熱が集まってくるのがわかる。絶対に今、赤い。それが自分でもよくわかって、余計に心臓が脈打った。 「たけしっ」 「あ、ああ。わりい」 背中を思いっきり叩かれてやっと風が息ができなくてもがいていたことがわかった。あわてて頭を離すと、息切れさせながらにらんでくる風。 「もう!息が止まるかと思ったじゃない!」 「ハハッ、わりいな」 「もう…、いいわ」 「じゃ、とりあえず、来いよ」 「え?」 「もうちょっと、このままでいていいんだろ?」 「っ!!」 「なんなら、このまま一緒に寝るか?」 「はあ!?」 自分をごまかすためと、顔を真っ赤にしてうろたえる風をからかうために提案をすると、すっとんきょうな声をあげた。 「ハハハッ、顔真っ赤だぜ?」 「あ、当たり前でしょ!?」 「かわいーのな」 「っ…も、勝手にして」 顔を手で覆ってしまった風は、それ以上何も言わず、俺の方に倒れてきた。それを抱き留めて、一緒に体を倒す。 ベッドの上に二人で横になると、当たり前だけどとても狭かった。 「武。さっきは、ごめんね」 「ん?なんのことだ?」 「気が立ってて、ひどい言い方したわ」 「ああ。さすがに効いたぜ…」 「うっ…、本当にごめんなさい」 「やっぱ、責任とってもらわねえとな!」 「せ、せきにん?」 きょとんと見てくる風。いつもとは違ってとても近い距離に心臓が脈打つ。俺、今日でどれだけドキドキしてんだろうと思って苦笑した。 余裕なんてあるわけがない。 顔にかかっていた髪をどけてやると、くすぐったそうに少し顔をしかめた。小さく礼を言われてちょっと笑う。 そのまま少しだけ体を起こして目を合わせる。 そして俺はそのまま口づけた。 風が肩をはねさせていたが、それ以上の抵抗も見られなかった。 それが流されただけだろうと、なんだろうと構わないと思った。 少しずつ口づけを深くしていく。わずかに開いた隙間から舌をさしいれて、抗議の声を上げた風を抑えて逃げるそれを追いかけた。 ただただ、本能に従うように風を求めていた。 それを止めたのは、扉のノック音だった。 「風、たけちゃん?大丈夫?」 はっと我に返るように目を開けた。 ぎゅっと目をつむっている風。 離れると息を乱し、俺か風かわからない唾液で唇を光らせた風がそこにいた。 「おーい、寝ちゃってるのかな?」 「放っておけって言ってんだろ」 「だって心配じゃん!」 「あいつらなら、けろっとした顔して出てくんだろ」 「もー、隼人ってば楽観的すぎ!」 今の俺たちの状況とは不釣り合いなほど、日常的な会話に思わず笑う。 下から睨み付けてくる風だけど、その目には薄く涙の幕がはっているし、頬は上気して赤くなっているから全然怖くはなかった。 「ハハッ、これでチャラな」 「…ば、っかじゃないの…。私の方が、損してない?」 「嫌じゃなかっただろ?」 調子に乗って、そう聞いたら、思いっきり頭を叩かれた。 (あ!やっと出てきた!って、風は?) (もうちょっとしたら出てくるって言ってたぜ?) (そうなの?あ、さっき隼人と話してたんだけど、今日ピザ頼もうよ!) (おっ!いいのな!) (ね!決定!) (…っなんであんな平然と会話できるのよ…。恥ずかしくて死にそ……) |