買い物が終わり、この暑い中走った私たちは家に帰ってくる頃には汗だくになっていた。 もう夕方だというのに、気温がまだ高い。その癖走ったものだから体の周りをまとっている空気が生暖かく感じてよけいに汗がでてくる。 身体にはりつくシャツが気持ち悪い。 家のカギを開けて中に入れば、用心のため締め切っていたため中も結構暑い。それでも、入らないわけにはいかない! 中に入り、すぐにエアコンをつける。機械音とともに、エアコンが動き出してすぐに部屋に冷たい空気を流してくれる。 「あっつ〜。夏なのに走るとかありえない」 「今、涼しくなるよ」 「風、今日の夕飯は何?」 「今日は、冷やし中華にでもしようと思ってます」 「了解!あ、あたしお風呂入ってくるね」 「わかった。って、順番決めなくていいの?」 私たち二人ならともかく、今は4人なのだ。だったら、順番とか確認した方がいいんじゃ…。 「俺はいつでもいいぜ?入らしてもらえればそれで」 ソファーの上にさっき買ってきた荷物をどさっと置いて山本は笑った。 「たけちゃんえらい!ってことで、入ってきまーす」 獄寺の方を見れば、とくに気にした様子もなく、山本が置いた荷物の隣におなじように荒々しく置いた。もうちょっと大切に扱おうよ…。獄寺の様子に苦笑しながら、キッチンへ向かう。 空は部屋に着替えを取りに行った後、風呂場へと向かった。さて、私は夕飯の準備でもしますか。 *** 「ふ〜、さっぱりした」 「あ、上がった?」 バスタオルで髪を拭きながらドアを開けると、すぐそこにあるキッチンで風が何かを作っていた。 「うん。風入る?」 「ううん。先にあの2人に入ってもらって」 「はーい」 風に言われ、ソファーに腰掛けているたけちゃんと隼人に声をかける。 「お風呂上がったよ。どっちか入っていいよ」 「じゃあ、獄寺先に入れよ」 「おお…」 振り返った隼人の手には、すでに用意していたのか今日買ってきた着替えが持たれていて、あたしと目があった瞬間、なぜか隼人の動きが止まった。 「え、何?」 「な、なんて格好してやがるんだっ!」 「へ?普通にキャミに短パンだけど…」 隼人はなぜか赤面してあたしから顔をそらして、かなりどもりながら言った言葉は迫力もなく、あたしはキョトンとしてしまった。 あたしがいま着ている服は、中学の時の体操服の短パンに、キャミソールというラフ、というか、熱さも気にならないような格好だ。それで、赤面されるなんて…。 「ハハ、獄寺たこみたいになってるぜ?」 「うっせえ!なんでお前は平気なんだよっ!!」 相変わらず真っ赤な顔をしている隼人がたけちゃんにむかって怒鳴りつける。 「水着は平気なのにこれはダメなんだな」 「うっせえ!」 「隼人、怒鳴らないでよ」 「だあ!お前は何か上に着ろ!」 少し近づけば、同じだけ下がって顔を真っ赤にさせるから、面白くて笑ってしまえば、笑うなと怒鳴られる。真っ赤な顔で怒鳴られても全然怖くないけどね。 「獄寺って意外とうぶなんだな」 「う、うっせえっ!」 「なんか、ここまで赤面する隼人も隼人だけど、逆に普通なたけちゃんもなんか嫌だね…」 2人に聞こえないように呟きながら、このままじゃ、埒が明かないから仕方なくあたしは部屋に入ってキャミからTシャツに着替えた。 「これなら問題なし?」 「お、おお…」 まだ、少し顔を赤く染めたまま隼人は風呂に入って行った。なんか、かわいい。というか、おもしろい…。 *** 獄寺が入り終わった後は、山本に先に入ってもらって、ご飯の準備ができ終わったころにちょうど山本が上がってきたので、私も入らせてもらった。 「あ、風あがった?」 「うん」 「あれ?風はキャミじゃないんだな」 「え、あ…うん。まあ、ね」 リビングに入れば、山本と空が机に茶碗を並べていた。私が入ったことに気がついた空の言葉に応えると、山本もこっちを向いた。なんか、山本からは聞きたくなかったかも。その台詞。 というか、獄寺は? 「ねえ、獄寺は?」 苦笑に近い顔で空が指さしたのはベランダで、そちらを見るといつも開けてある窓が閉まっている。 目を凝らしてみれば、そこに人影があってそれが獄寺だとわかるのにそう時間はかからなかった。でも、窓に部屋の明かりが反射して何をしているのかはよく見えない。 「何で外?」 「煙草だよ。煙草」 「あー、納得」 もう一度ベランダを見れば、確かに小さく赤く光るものがある。ちゃんと言いつけを守ってベランダへ行ったようだ。今は夏だからいいけど、これが冬になったら大変だね。 「よし、並べ終わったよ」 「じゃあ、食べよっか」 「隼人ー!ご飯食べるよ!」 空が声をかければそれが聞こえたのか振り向いて、私たちが椅子に座っているのを確認すると、煙草を携帯灰皿に入れて中に入ってきた。 「煙草もほどほどにしないと早死にするよ?」 「うっせえ。てめえには関係ねえだろ」 「そりゃそうだけどさ…」 不貞腐れたような顔をする空と、怪訝そうに眉をひそめる獄寺。2人の様子を見ながらも、冷やし中華を口に運ぶ。うん。我ながらおいしい。 部屋にテレビの音が響く中、それを食い入るように見つめる山本が視界に入った。 「おもしろい?」 「ん、ああ、いや。なんか、さ。本当にあんまり変わんねえんだなって思ってさ」 頭の後ろに手をやり、苦笑する彼は少し懐かしそうな視線をテレビに向けた。もしかしたら、同じような番組があっちの世界でもやっていたのかもしれない。 なんとなく、違和感もあまりなくこうしていたけど、やっぱりさびしいのかもしれない。元の世界には仲間がたくさんいたのだから。 「大丈夫だよ。絶対、帰れるから…」 「ハハ、そうだな」 私たちにとっては彼らを知っているけど、彼らにとってはまったく知らない人の家に転がり込んだのだから、帰りたいんだろう。 でも、私的にはもっといろいろと話してみたい。まあ、そんなことは口には出さないけど。きっと優しい彼は困ってしまうだろうから。 なーんて、そんなのは建前で、言う勇気がないだけなんだけどね。 食べ終わると、それぞれごちそうさまと呟く。空と獄寺はソファーの方へ行き、テレビを見始める。 山本は、皿を集めている私を手伝ってくれた。お礼を言えば、いつもの爽やかな笑顔でどういたしましてと言って椅子に座った。洗い物はあとでしよう。 と、そこに家の電話が鳴った。 4人一斉にその音源の電話の方へと視線を向けてからそれぞれ顔を見合わせる。家に電話が来るなんて珍しい…。 場所的に私が近いことから必然的に私が出ることになる。 「もしもし…」 |