虫の知らせというものは

嫌なことというのはなぜこうも一気にやってくるのだろうか。


今日は朝から妙な一日だった。


家を出たところでうわさ好きのおばちゃんに出会い、マシンガントークをされ、それを何とかかわしマンションを出れば南先輩に遭遇し、その先で坂本先輩にまで遭遇し、道を飛び出してきた子供とぶつかりそうになるわ、首輪が外れてしまった犬にとびつかれるわ、学校に行くまででも散々だった。


しかしその散々なことは学校についてからも続き、旅行委員会の予算に誤りがあり、すべて計画を練り直しになってしまうわ、なぜかすべての授業で先生にあてられるし、昼休みには先生に呼び出され仕事を手伝わされたおかげで昼食を食べ逃した。


「風大丈夫か?」


今日はコート整備の日で部活は無し。久しぶりに4人で帰る道の途中、疲弊しきっている私に武が問いかけた。


「風、今日当てられまくってたしね」


「本当に今日は散々。もう一歩も外に出ないわ。部屋に引きこもる」


「えーっ!あたしたちのご飯は!?」


「たけ寿司の出番。今日はちらしずしで」


「ハハッ!俺はいいぜ?」


「あたしも賛成!」


「ハッ、こんな野球バカがまともな飯作れるかよ」


「そういうこと言う人は夜ご飯抜きです。空腹に悶えて夜を過ごしてください」


「てっめえっ!果たすぞ!」


八つ当たりだという自覚はあるが、後ろでぎゃんぎゃん吠えている隼人君を無視して先に進む。空が苦笑しながら隼人君を宥めている声が後ろの方で聞こえる。


横に並んだ武が苦笑した。


「風、こういう時は、バッティングセンターいてバビュンのドカンでスカッとペカーってなるぜ!」


「…つまり、バッティングしたらストレス発散になるってこと?」


「そういうこと!」


「……そうね。じゃあ今度連れて行ってくれる?」


「ああ!なら、今度の休みに行こうぜ!」


「どうせなら匠も誘う?」


「いや、二人で行こうぜ?」


「?そう?」


「ああ」


「ちょっとー!たけちゃん、人が隼人のこと必死に宥めてるのに何デートの約束してるの!」


「まあまあ、いいじゃねえか!な?お前らもどっか行って来ればいいんじゃね?」


「!!ばっ!んのっ、野球バカ!!」


武の言葉に、一気に顔を赤くさせた隼人君が声を荒げた。


そのあと、二人して顔を見合わせ、頬を赤く染めているのだから、かわいいと思ってしまった。


家では特に何か変なことが起こることはなかった。


一つ、おかしなことと言えば、空が妙にそわそわしていたことだろうか。それも、後になってその理由がはっきりとわかるのだが。


そして、ことが起こったのは夕食も食べ終わり、少ししてからだった。ちょうど空がお風呂に入っているときだ。もし、この時私ではなく空が出ていれば、何か変わっていたのだろうか。


チャイムが鳴った。


基本的に、武と隼人君が呼び鈴に応えることはない。私はいつものごとく、皿を洗っていた手を止めて、玄関へと急いだ。


「はい」


鍵を開けた瞬間、外側からの力によって勢いよく開かれた扉に、前につんのめる。


「久しぶり!風」






(目の前にいたのは、)
(いつかの記憶よりも少しだけしわの増えた)
(とても、嫌な人だった)
(ああ、だから、空は……)


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!