「今日は、絶対に風は玄関に出ないでね!」 きょとんとした風と見つめ合うこと数秒。朝から気合を入れていたあたしとは違って、今起きてきたばかりの風は首をかしげた。その顔はまだ眠そうだ。 「……お客さんが来ても?」 「あたしが出るから!」 ようやくひねり出した言葉に即座に返答すると、風は納得したのかしてないのかのんびりと頷いた。そしてあくびを一つ。すっかり気をぬいている風にやっぱり、お母さんのことを先に伝えるべきじゃないかと不安がよぎる。でも、なるべくお母さんの話題は出したくないのだ。 「……おはよう」 「え、いまさら?おはよう」 どうも寝ぼけているらしい風から今更なあいさつにちょっと肩から力が抜けた。思わず笑うと、風は変なものをみる目で私を見た。ようやく起きてきたらしく、キッチンで朝食の準備をし始めた風。 「お、早いのな。二人とも」 「武。おはよう」 「おう!」 数分遅れてたけちゃんが部屋から出てきた。寝癖で髪型がへんなことになっていても爽やかなたけちゃんは洗面所へと向かった。 「そういえば、隼人君は?」 「隼人ならたぶんまだ起きてこないよ。なんか、夜遅くまで本読んでたみたいだから」 「じゃあ、先にご飯食べてようか」 たけちゃんが机にお皿を並べる手伝いをしているのをボーっと見ていた。たけちゃんは、絶対に風が好きだと思う。というか、もう、態度とか見ててわかりやすい。 風が気づいているかは別だけど。風って近づかれすぎると妙に拒絶するからなあ…。でも、きっとたけちゃんなら大丈夫だよね。あたしとしても、二人がくっついてくれたら嬉しいし。そしたら、4人でダブルデートだってできちゃうわけだしね。 なんて、考えていたらあたしの部屋のドアが開いて、隼人が頭をかきながら出てきた。 「隼人、おはよー」 「…ああ」 そのまま席について、出された朝食を食べていく隼人。 「隼人さ、本読むのはいいけど、時間考えないと寝坊するよ?というか、寝坊だし」 「知るか。続きが気になったら余計に眠れねえだろ」 「そんなもんかなあ」 「私、今日先に行くから」 「へ?」 自分の分のご飯は食べず、というか作っていないようで、ご飯を並べたら座らずに自分の部屋へ入って行こうとする風に間抜けな声で返してしまった。 「ほら、修学旅行が近いでしょう?そのしおりつくりを手伝ってくれって旅行委員に頼まれてるのよ」 「!!あたし聞いてない!」 「うん、今言ったからね」 しれっと言ってのける風に脱力する。もう、一応あたしだって副会長なんだし、言ってくれたっていいのに…。 「手伝わなくていいの?」 「大丈夫なんじゃないかしら?私に直接頼みにきたってことは先生方への許可をとりつけるときの付き添いだろうし」 「んん!ふぉーふぁい」 「口に物入れてしゃべんじゃねえよ」 「んんっ!了解!」 やっと飲み込めてからもう一度返事をすれば、風は少しだけ笑って自分の部屋に入って行った。 「なあ、空?旅行委員ってなんだ?」 「その名の通り修学旅行のためだけに機能する委員会。行先から日程、果てには食事場所からホテルまで予算内で決めていく委員会なの」 「へえ!そういうの、生徒が決めんのか?」 「うちの学校は金持ち校だからね。将来的に企業のトップに立つ人が多いから、今のうちからそういうことを体験させておこうっていう魂胆らしい。あとは、親が旅行会社だったりするから、学校側が一から手配するより安くていいところになったりもするんだって」 「ケッ、くだんねえ」 「じゃあ、なんで風が呼ばれたんだ?」 「それは、いくら生徒で決めさせようっていっても最終的には大人の判断を仰がなきゃいけないの。で、先生たちにオッケーもらう時にはクラス委員長も同伴してなきゃいけないんだよね。たぶん、その打ち合わせじゃない?」 つまり副委員長は関係ない仕事だから、あたしには声がかからなかったというわけだ。 さっきいった話は表向きで、パパに聞いた話だと本当は先生方もいちいち決めてられるほどの暇もないため、じゃあ生徒に任せちゃえばいいんじゃない?ということからこの委員会が立ち上げられたらしい。パパらしいというかなんというか…。聞いたときは呆れたものだ。 「ごちそーさま」 「はやっ!」 「てめえもさっさとしろよ。遅刻するぞ」 時計を見てみれば確かにもう出なければいけない時間だった。隼人は慌てだしたあたしをしり目に、食器を流しへと持って行った。この辺は風の教育のたまものだと思う。 あたしも急いでご飯を食べ終え、準備するために部屋へと入った。たけちゃんはいつの間にか準備を終えていたらしく、先言ってるぞという声が聞こえてきた。 (は!?お前、入ってくんじゃねえよ!着替えてるだろうが!) (知らない!あっち向いてて!) (はあ!?) (遅刻はしたくないっ!!) (おま、ここで脱ぐんじゃねえっ!!) |