長引く痛み

影でのいじめが始まって3日目。今日も、犯人である誰かさんはご丁寧に私の机の中に縫い針を仕込んでいる。


昨日、学校に来て机の中に手を入れれば、チクっとした痛みが指先に走った。慌てて手を抜いてみれば、小さな傷跡からわずかに血が出てくる。


その指をティッシュで押さえて、次は慎重に机の中に手をいれる。そうすれば、あった。


「……針?」


それは、裁縫とかに使う針。それが教科書の間に挟まっていて、しかも鋭利な部分が、教科書から少しはみ出していたもんだから刺さってしまったらしい。


「………」


「ん?どうしたんだ?風」


「…なんでもないわ」


「そうか?」


「うん。それより、一限目ってなんだっけ?」


「確かな―…」


武の話を聞きながら、机の中にあった針をとりだす。思い出すのは、二日前のこと。いきなり落書きされていた教科書は、空のお父さんが買い換えてくれた。そのあとは、後ろのロッカーにしまっているから被害はない。


「―――…だったはずだぜ?」


「え…、あ、うん。そっか。わかった。ありがとう」


ぼーっとしてたら、武の話はいつのまにか終わっていて、慌てて返事をする。そうすれば、心配した顔をされてしまった。


「空のことか?」


苦笑する。


空とは、あの喧嘩をした日からまともに話していない。だから、武と獄寺が気まずい雰囲気におろおろしているのを知っている。知ってるけど、何も言わないでいる。


「それも、あるわ。でも…、なんでもないわ」


席を立って会話を終了させる。今は、何も話す気にはなれなかった。空とのことは私にはどうにもできない。謝る気もない。謝られるのもおかしい。


「しばらくは気まずい雰囲気だけど、頑張ってね」


彼の肩をポンポンと叩いて、私はトイレへと向かった。


いろいろと、どうやって対処すればいいのか分からなくなっている。ただでさえ、今は空とのことがあるのに、それに加えて虐めが始まった。なんてめんどくさい…。


「あーっ、もう…。本当に、嫌になる…」


誰にも相談なんてできない。相談してはいけない。自分でどうにかしなくてはいけない。自分でどうにかできる。


「よし…。とりあえず、苛めのことはできるだけ隠そう」


原因が武に関してだろうから、武にバレたらきっと気にやませてしまう。


「でも、どうしよう…」


一人、呟く。どうすればいいかわからない。どうしたいのかも、わからない。いっそ、泣いてしまえたら楽なのかもしれないけれど、まだ泣くわけにはいかない。


「おい!お前ら、いい加減にしろっつってんだよ!」


「あーもうっ!うるさいなー!」


「ああ!?」


「隼人には関係ないっていったでしょ!?」


「だからってな、あんな空気いい加減うざってえんだよ!」


「そんなの知らないもん!」


廊下の奥で、獄寺と空の言い争う声が聞こえた。


「何があったか知らねえが、あんな空気じゃこっちが気疲れすんだよ!」


へえ、獄寺でも気疲れなんてするんだ…。


「隼人が気疲れなんてするの?」


あ、空も同じこと思ったんだ…。って、二人してかなり獄寺に対して失礼なこと思ってるわよね…。まあ、いいや。あの様子なら、あの二人はすぐに元に戻るだろうし。あとは、時間の問題かしらね。


私は、教室へと向かって歩き出した。とりあえずは、これからヒートアップしていくであろういじめにたいしてどうやって、隣の武に気づかれないようにしようかということを考えよう。


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