緞帳が上がる。それと同時に、会場を拍手が包んだ。拍手が鳴りやむと、ライトがある一点を指す。そこに一人立っていて、マイクを片手に口を開いた。 「突然やってくる出会い。一期一会。そんな出会いが、今起ころうとしていた」 ナレーターの台詞が終わった後、証明が消え、暗い中をヒーローとヒロインが舞台に立つ。それぞれをライトが照らしだした。 「毎日が変わらない世界」 「毎日が同じ世界」 「そんな中で神様の悪戯なのか、私は」 「俺は」 「あなたに/お前に出会った」 ライトが消えて、舞台上の証明がつく。 「さーって!今日はハンバーグにしよう!」 腕をまくる動作をしながら、台詞を言いつつ、近くのほうの舞台袖へと引っ込む風。 「そろそろ、行くか…」 そう言いながらも、風とは反対側の舞台袖へと引っ込んでいく山本。 風が舞台袖に引っ込むとどうじに、舞台袖ではいましがた舞台に出ていたもう一人の人物を見て目を丸くしていた。 「って、今の、武じゃ無かった?」 「おい!どうなってんだよ!」 「なんで、山本君が?」 それぞれが、今、超自然に起こった出来事に、目を丸くしていた。今、ヒーローとして出てきたのは、推薦で選ばれた獄寺隼人ではなく、小道具の山本武だったからだ。 しかし、ここで戸惑っているわけにもいかず、成り行きにまかせようと、風はその場を静かにするように言って、舞台へと上がった。 暗くなっているなか、大道具と小道具が配置に出されていく。私は出された、椅子の一つに座る。 「んー、おいしい!ハンバーグはやっぱりおいしいね!にしても、この漫画速く読みたいな!」 と、そのとき、ドアが開かれる。ガチャ、という効果音がなった。私は、それを聞いてから顔をあげる。 「あ…」 「!誰だ…?」 そう、まるで出会ったころのような光景に、少しだけ意識が飛びそうになった。思い出に浸り、鈍くなる思考を必死に働かせてみる。 なぜ、獄寺から武に役者が変わっているのかはわからない。止まってしまった私の動きに、武はもう一度、誰だ?と聞いてきた。舞台袖にいる空に視線を向ければ、深くうなずかれ演技を続けろと促される。後で問い詰めてやる。とにかく、必死に覚えた台詞を思い出して口に出す。喉がからからだ。 「い、いらっしゃい?」 「ああ…って。だから、誰だ?」 首をかしげる武に、それは私が聞きたいと心の中で答えてみる。なんで、武が今舞台の上にいるのよ。 部屋を模した場所に入ってきた武は、私の前の椅子に座る。 「って、もしかして、山本武!?」 「俺のこと知ってるのか?」 そう小首をかしげる武に、私はどう答えようか迷ってしまった。だって、台詞が違う! 空の方へ視線を走らせると、空は獄寺に何かを言って、獄寺が半分切れながら何かを書きこんで見せてきた。 そこには、アドリブで合わせろと書いてある。なんて難しい注文をするのよ…。呆れつつも、とりあえず話を進めなければと思い、口を開く。 「ここは、私の家よ。知っているのは、あなたの漫画があるから」 「へえ。俺も、お前のこと知ってるぜ?風だろ?」 「……え、うん。…あっ、えっとなんで?」 なんか、今、普通に受け答えしそうになってしまった…。武が、あまりにも普通に家で会話しているように話すものだから、思わず素に戻ってしまいそうだった。 「えっと…あー、俺のところにも、お前の漫画があったんだ」 「ありえない…」 まず、武が目の前にいることからありえないのよね。いきなり配役変更。主人公をカンペ役に変えるなんて、前代未聞よ。 「………ああ、そうだな」 感慨深げにうなずいた武は、本当にそう思っているようで、私は最初に武たちがトリップしてきたときのことを思い出した。 ひょうひょうとしていたけれど、とても、不安だったんだろう。今じゃ、もう馴染んでしまっているようだけど、やっぱり、帰りたいんだろうか…。 そこまで考えて、暗転した舞台で武に促されるままに私は舞台袖へと引っ込んだ。 それと同時にナレーターが出てきて、ナレーターにスポットライトが当たる。 「かくして、山本武はトリップをしてある漫画の世界へ。風にとっては、マンガの主人公が逆トリップしてきたのでした。そうして、二人は同じ部屋で住むことになるのです…―――」 舞台袖へと引っ込んだ私は、すぐに武を問い詰めた。 「どういうことだか、説明してくれるんでしょうね?」 「ハハハ!まあ、いいじゃねえか。な!」 「よくないでしょ!」 「あ、ほら、次の場面だぜ?」 「あ、ちょ、武!」 武にうまくはぐらかされてしまって、そのまま私達は舞台の上へと上がることになった。ったく。あとで絶対に何か奢らせてやるんだから。 |