生徒たちは学校の立て直し作業と並行して、文化祭の準備を進めていった。 風は劇の練習をしては、各自に指示を出しながら。学校が終われば部活とバイトに明け暮れる日々。たまに暇ができれば、習い事の弓道にも行った。 空は劇の監督をしつつも、あいている時間に隼人を連れ出して音楽室にこもり、必死に文化祭へ向けての歌を完成させていった。 こうして、長いようで短い準備期間というものが終わると同時に、予定通り、学校の修復作業が終わりを告げた。 *** にぎわう人々が、次々と体育館の中へと入っていく。生徒はすでに席についており、次々と入ってくる人の中に親や、友達がいないかと首を伸ばして探していた。 ようやく、客足が途絶えてきた頃、会場の電気はおとされて、開会宣言のために舞台前に生徒会長である相模南がマイクを持って立った。 いよいよ学園祭本番。オープニングセレモニーにたった二人で出ることになってしまったあたしと隼人は、舞台袖で開会宣言を聞いていた。 「お前何固まってンだよ」 「き、きき緊張に決まってるじゃん!」 自分の出番を舞台袖で待っている時間こそ、緊張の山場!←(違)あたしはマイクを両手で握って、ガチガチに固まっていた。 そんなあたしを見て、アホかと鼻で笑い飛ばす隼人は、余裕ぶっこいてるけど、もう言い返す気力さえない。 いつも笑顔で場を和ませてくれる部長も、いつも一緒に歌う仲間達も、今はここにいないんだ。 緊張しないわけがない。 「肩の力抜け」 「え…っ?」 突然あたしの肩にかかった温かい重みに顔をあげれば、珍しく真剣な顔をした隼人があたしを見下ろしていて。──スッと肩の力が抜けた気がした。 「空ちゃん、獄寺くんスタンバイお願い!」 それと同時にかかったスタンバイの合図。それにつられて舞台に目を向ければ、舞台の緞帳は下りていて、後はあたしと隼人が舞台に上がって準備をするだけに整っていた。 「…俺がわざわざ伴奏してやんだ。音外してみやがれ、──アイス奢らせっからな」 「!──リョーカイっ」 隼人ってば──…、 分かりにくいんだバーカ。 あたしの頭をぐしゃぐしゃにして先に舞台に上がった隼人に続いて、あたしも、まだ照明に照らされていない舞台へと上がった。 *** 深呼吸をして、マイクを握る。隼人はピアノの前に座って、鍵盤に指をおいた。 準備万端、気持ちも落ち着いた。あれだけ練習したんだ。隼人もついてくれてる。いつも通りに自分らしく歌えばいい。そんでもって隼人にアイス奢らしてやるんだから! (続きまして、学園祭オープニングセレモニーを飾るのは、急遽結成された伊集院さんと獄寺君のお二人によるデュエットです!) 「え──?」 パチパチ─── 大喝采によって上がった緞帳に慌ててマイクの電源を入れたあたしは、さっきの司会者が言った言葉にかなり動揺していた。 ─だって、あたしがソロで隼人は伴奏だけのはずだったのに…。 チラリと隼人に視線をやれば、バチリと視線が交わり、その瞳は¨やってみせろよ¨って言ってるみたいな挑発的なモノだった。でも、それは直ぐに逸らされたけど。 そして始まった隼人の伴奏に、会場から女の子達の黄色い悲鳴に近い声援が上がり、あたしは別の意味で悲鳴を上げそうになった。 だって!この曲──! 「えー、デュエットしよーよー!」 「ふざけんな!」 「ほらほら、『俺達のJoy』って曲歌えるでしょ?」 「なっ!何でテメェがンなことまで知ってんだよ!」 「隼人…」 「…──『夢や望みは別々のエブリディ。日々の生活リズムは似ていた二人』」 いつの間にか、ピアノに備え付けられたマイクを通して隼人の声が、体育館に響き渡る。初めて生で聞いた隼人の歌声は、とても力強くて──。 「「『あの頃』」」 あたしも負けてられないって思ったの。たけちゃんには適わないかもしれないけど、 「『他人の幸せ 喜べずジェラシー。逆にいいこと続けば、そいつも不安で』」 あたし精一杯頑張るから、どうかここにいる皆にこの歌声が届きますように。 ムキになって無茶する君に ぶつけたかった気持ちを、 今ならそう─、直球勝負で 言うよ─…、見せるよ─… 分かりあいたい──…。 雨に、嵐に逃げたりしない 「「『Hey!生涯大事なものすべて、どんなに離れていたとしても、JOY!JOY!あきらめないことが』」」 歌ってて凄く気持ちがいい。緊張とかそんなの感じる余裕もないくらい楽しい! いちばん、遠そうな、 So 近道 Yeah! 君の心まで飛んでゆけ ダイナマイトも─…、 白いボールも─…、 遥か、大空の向こうで 待ってて、誓いの、Ah スターライトその日迄 春・夏・秋・冬 終わりのない メリ-ゴ-ランド 出会い・別れ 繰り返す…─、 君とまた、巡り 逢うために─、 「「『俺達!』」」 「うまくいったようね」 「みてーだな」 舞台袖で微笑む二人は、舞台で盛り上がる二人を見て安心したように顔を見合わせてもう一度、笑いあった。 「『生涯消えない傷ならば』」 「『それ以上の絆を築いて』」 「即席コンビのくせに、──やるわね、あの子達」 「部長も舞台あがりたそうですね」 「そりゃあ、こんな歌声聞かされたらね」 優しく微笑む彼女は、空が最も信頼している先輩の一人であり、音楽仲間でもある。 そんな彼女が認めた即席コンビに、体育館中が盛り上がり最高潮を迎えているのを誰もが感じ取っていた。 「「『JOY!JOY!笑顔が見たいから』」」 ラストスパート。あたしは舞台の中心から隼人の方に振り返り、それに応えるように、隼人はピアノを弾きながら立ち上がってくれた。 「『狙うは!』」 「『一発!』」 「「『イエス!ホームラン』」」 声を張り上げた隼人にあたしも応えて、今日一番の大声でそう叫んだ。そしてそれに負けないくらいの声が、体育館にいる皆から返ってくる。 二人のハモリは、体育館にいる全員でのハモリとなった。 そして最後のサビに差し掛かったとき、今まで響いていたピアノの伴奏はパタリと止んで、マイクを手にした隼人があたしの隣まで出てきてくれた。 それに体育館が湧いたのは言うまでもないよね。 「「『Let's go!君の心まで飛んでゆけ!ダイナマイトも白いボールも、遥か大空を目指して、想いは、繋がる!Ah スターライト!』」」 二人でアカペラ初挑戦!なんて考えながら、あたしは最後まで隼人と二人でこのステージを楽しんだ。 「「『いつの日か、繋がる!Ahスターライト!その日まで!』」」 ─隣に立つ君がとても頼もしくて、かっこよく見えた。 ─隣に立つお前が、メチャクチャ輝いて見えた。 (キャー獄寺くーん!) (かっこいー!) (空よくやったー!) (!─(部長っ) (──(うるせー) ...... 歌詞引用『俺達のJoy』 獄寺vs山本キャラソン 著作権は著作者様に帰属致します。 |