不安を抱えて
「じゃ、これで適当に買ってきてね」
そう言って、空はカードを2人に渡した。
私たちは今、デパートの前にいた。デパートの横には3つの道場が並んでいて、右から順番に剣道、弓道、空手となっている。私と空はそれぞれそこにある弓道と空手に通っている。
今日は、本当は空には予定がなかったはずだから、獄寺達の案内とかができると思ってたんだけど…。まあ、なんとかなるでしょ。
「ってことで、私たちは横の道場に行ってるから!なるべく早く終わらせるけど、いろいろと気をつけてね」
「ああ?何に気をつけるんだよ」
「そりゃ…、女の子とか?」
そう言えば、意味がわからないといった顔をされるが、たぶん、彼等ははたから見ればかなりかっこいい。私たちからみても、かっこいいんだけど、
「とにかく、女の子に囲まれても逃げてね!ダイナマイトとか爆発させたり、店の物壊したりしたら今日の夕飯抜きだから」
「はあ!?」
思いっきり怪訝な顔をされ、声を荒げられるが、隣にいる空を見れば、もう空手道場にいる先輩の方に気が向いていてうずうずしているのが目に見えてわかる。
「とにかく、壊さないでよ!?あと、山本も囲まれても笑ってないで逃げてよね!」
「お、おお?」
「じゃあ、また後で!」
「じゃーねー」
私と空はもう時間がかなりぎりぎりに迫っていたので早口で言い捨てると2人がデパートに入っていくのも見送らずに、道場の方へと走っていく。
「じゃあ、空。先輩もいいけど、私一人であの2人なんとかできる自信はないからなるべくはやく終わらせてね?」
「が、頑張る」
「頑張れ!じゃあ、また後で。何かあったら電話して」
「はーい」
私は弓道場に、空は空手道場へと入る。たぶん、あの子は先輩がいるからなかなか抜けてこないだろうし、頑張って早く終わらせるしかないかな…。ハア、頑張ろう…。
どうせ、彼等は女子に囲まれるだろうし、そうしたら獄寺なんて本当にダイナマイト出しかねない。
爆発されたら、修繕費払うのは空の家だって言うのに。ああ、面倒だ…。本当に、なんでツナが来ないかな。あの子がいたらきっと…、いや、それでも爆発してたかも…。
山本の方は笑ってそうだし。たぶんこっちはいきなり切りかかったりしないだろう。バットは持ってきてたけど…。
大丈夫、だよね?
なるべく早く練習終わらせよう。
そう、心に決めながら私は、胴着に着替えて深呼吸する。弓と矢を準備して、他の人が練習している中、あいている場所を探す。
空いている場所を見つければ、矢をつがえて深呼吸を一つする。意識を28m先にある36cmに集中する。
弓矢を持った両拳を緩慢な動作で上にあげ、左右に開きながら引き下ろす。キリキリと張り詰める弦から、28m先にある的を見て今まで培ってきた経験を反芻させる。
風が吹く中、他の者たちが矢を射る音を耳から遮断して的にだけ集中する。
そして、もう、飛ぼう飛ぼうとしている弓を手から放つ。
矢は空気を切り裂き、的へと一直線に向かう。数秒たってタンっという音が的が刺さったことを教えてくれる。
そこでやっと詰めていた息を吐き出し、構えを解く。
それを数回繰り返したのちに後ろにある時計を見てみれば、もう始めてから2時間もたっていた。
「師範。すいません。今日、ちょっと用事があるのでこれで失礼します」
そろそろ、買い物も終わるだろうし待たせてはあっちもどうしていいかわからないだろう。
私は、師範に断りといれたあと、すぐに着替えてとなりのデパートへと走った。




***

やっと、先輩に会えるということで浮かれながら、空手道場に入っていく。でも、頭の片隅にはちゃんと風の言った言葉も覚えている。
だって、あたしも本当にそう思うから。たけちゃんは笑ってそうだけど、隼人は不機嫌になってダイナマイトで爆発させそう…。
短気っぽいしね。
あたしがのんびりとそんなことを考えながら着替えて、道場に顔を出すと、入り口前に満面笑顔で出迎えてくれた先輩。
「空ちゃん、遅刻」
「あ、あははー…」
明らかに怒ってる先輩に苦笑しながら、師範の姿を探す。でもいないみたいで。
「師範、結局来れないって連絡もらったよ。だから今日は俺が総監」
「え…」
師範に助けてもらおうと思ったのに…っ!南先輩に会いたい一身で来たけど、怒らせると怖いから苦手なんだよねー。でも、やっぱり今日もカッコいい!
「じゃあ組み手しよっか」
「へ…、いつも先輩の相手してる人はー」
「今日休み、ついでに君のパートナーも休みだよ」
どっから取り出したのか、門下生の名簿をパラパラめくりながら教えてくれる先輩に内心舞い上がっちゃってる自分。
それと同時に先輩が電話で話していた意味をようやく理解できた。
「ただ、空ちゃん女の子だし、ハンデいるよね?」
「!──え、いやー…」
どうだろう。確かに先輩は強いけど、あたしだって伊達に何年もここ通い詰めてるわけじゃない。
多分いらないけど、ここは先輩に甘えてハンデもらってさっさと終わらせちゃおう。
今日はスケジュールが半端なくかっつめ状態だし、直ぐデパートに向かわなきゃならない。いつもみたいに先輩とおしゃべりしてたりなんて時間はもらえないから。
「お願いします!」
「よし、じゃお願いします」
先輩は利き腕の使用をしないであたしの相手をしてくれた。結果、いつも以上に楽しくて先輩にからかわれながら練習を終えた。
「楽しかったよ」
「あたしもです!ありがとうございましたっ」
勢いよく頭を下げると、次は型見るから!という先輩の号令を聞きながら時間を確認する。
うん、約束していた時間をかなーりオーバーしてる。風に怒られるー;!
「空ちゃん、型」
「あ、えっと……」
どうしよう、まさか練習放り出してデパートに行くなんて口が裂けても言えないし。
どうした?と首を傾げる先輩に嘘をつくのは嫌、でも風たちを待たせるわけにも行かなくて…。先輩ごめんなさいっ!

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