浴びる風に

今日は休日。珍しく部活もなければバイトもない。つまり一日中予定がない日。本当に珍しい一日。そんな日は普段やれない家事を勤しんでいる。


家にいるのは、獄寺のみ。空は南先輩とデートに行っちゃった。


「楽しみ!」


と、少し恥ずかしそうに、それでも、嬉しそうに言っていたのは昨日のこと。


手を出されなければ良いけど…。先輩は、どうも好きになれない。あの、腹黒さというか、狡猾さというか、滲みでているものがある。といっても、空が気づいているのかはわからないけど。


たぶん、気づいてないわね。


武は、バッティングセンターへと向かった。私も一緒に行かないかと誘われたけど、こういう何もない日に家のことをやっておかないとやる時間がない。高校生が、何主婦やってんのかしらってちょっと思うけどね?


そして、家に唯一いる獄寺は、ソファーに座ってテレビを見ながら煙草を吸っている。匂いついたらどうしてくれんのよ。っておもうけど、今日は特別。


窓は全開にして、このリビングは最後に掃除するから別にいいよと言ってあげたの。


窓から差し込む西日がもうすぐ今日が終わることを告げている。本当に今日は掃除しかできてないかも。でも、いつもできないところもできたしよしとしよう。


テレビでは、バラエティー番組をやっていて、それをBGMにしながらも、眼鏡をかけて本を読んでいる。どれか一つにすればいいのに…。


とくに、テレビは見てないんだら消そうよと思うけど、口には出さずにいないものとして掃除を続ける。


やっと終わった私たちの部屋。空の部屋は一応終わってるから、あとは風呂場かな。で、その後はリビングよね。


今日は、いろいろな人からの誘いを蹴った。


まず、昨日の部活の時に、匠から遊ばないかと誘いを受けたけど、少しの間考えてから断った。ふてくされていたけど家事の方が大事。最近はいろいろとあったんだから、別にいいじゃないってことで。


「おい、」


不意に、獄寺から声をかけられ、風呂場から出てくれば私の格好を見て眉をひそめた。


私の格好はと言えば、今は秋にも関わらず、短パンにノースリーブ。そして手には雑巾を持っている。


「どんな格好してんだよ」


「そう思うんなら、手伝ってよね?あと、テレビ見てないんなら消してよ」


「…見てる」


うそでしょ。絶対。そう思いつつも、大した問題ではないので、スルー。


「で、何?」


「外に行く用事あるか?」


「今日?」


「今から」


「……夕飯の買い物、ぐらいかな?あ、でも、」


「だったら、ついでで良いから煙草買ってきてくれ」


人を使いパシリにするつもり?獄寺は、再び本へと視線を戻して、読み始めた。


「……獄寺。そろそろ煙草消して。吸うなら外に行って」


「ああ?テメエが良いっていったんだろうが」


「それは、ここを掃除しに来るまでとも言ったハズよ?」


台所へ行き、コップにお茶を注いで一気に口の中へと流し込む。ずっと掃除していたせいで、体中が埃っぽくて気持ち悪い。あとでシャワーをしようと決めてコップにもう一杯お茶を淹れる。


「もう、ここか?」


「朝から何時間立ってると思ってるの。もう他はあらかた終わったわ」


「チッ。じゃあ、後で煙草買って来てくれ」


じゃあ、ってなに。じゃあって。そう思いながら、呆れて溜息を一つつき誰も見ていないテレビを消す。その行動に獄寺が眉をひそめたけど、無視してやる。


「じゃあ、この部屋の掃除お願いしていい?」


「はあ?」


素っ頓狂な声を上げる獄寺を横目に、私はお茶を飲んで、椅子へと座った。いらない紙を取り出して、買わなきゃいけないものを書いていく。


「私が買い物に行って煙草を買ってくる代わりに、ここの掃除お願い」


どう?と首をかしげていえば、思いっきり睨まれた。もともと買い物は武にメールでもして任せようと思っていたから、私は外に出る気はなかったのよ。


「チッ。自分で行く」


うん。そうよね。獄寺が部屋の掃除してるなんて…。似合わないわね。うん。几帳面そうだから、結構ちゃんとやってくれるとは思うけど、そのやるまでが長そうだもの。


「じゃあ、これ、お願い」


「あ?なんだよ…、これ」


「買い物リスト。もし買ってこなかったら、今日の晩御飯、白ご飯と漬物だけになるから。よろしくね」


いっきにそう言って、紙を獄寺に押し付ける。とりあえず手に持ってくれたから、あとはもう獄寺は放置!さて、リビングの掃除をしますか!


「って、おい!なんで俺が行かなきゃいけねえんだ!テメエでいきやがれ!」


「だって、煙草買いに行くんでしょ?だったら、いいじゃない。ついでに買ってきて?あ、それとも、掃除が―――」


したかったの?という言葉が続く前に、獄寺は舌打ちを一つすると、まだ長さのある煙草を灰皿へと押しつけ、立ち上がった。部屋へ行って、財布をとってくると、彼はまた私を一瞥だけして出て行った。その背中に言葉をかける。


「リストに書いてないものはお金返さないからねー!」


「わかってんだよ!」


はあ、と一つ溜息をついてから、灰皿の上にある煙草をゴミ袋へと捨てる。ったく。高校生で煙草なんてしてたら肺がんで早死にするわよ。あ、中学のときからだっけ?


どっちでもいいけど、獄寺は早死にしそうね。その点、南先輩は長生きしそう。というか死んでも生き返ってきそう。


そういえば、ここで吸っていいといったのは、箱の中にある煙草の本数を確認していたからなのだけど…。いつか気づくかしら?自分でもびっくりするぐらい、上手くいってくれて…。おかげで煙草臭いけど、買い物する手間は省けたから。


コップを洗い流してから、窓から入ってくる、少し冷たくなってきた風を吸いこんで、よしっと、気合いを入れて、私はリビングの掃除を始めた。


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