南の彼方に空アリ

今日は、先輩と約束した日曜日!久しぶりに、早起きして、おしゃれして、髪をセットして、ついでに化粧もちょこっとだけする。鏡をのぞけば、よし。完璧!


「空、いい加減な時間には帰ってくるのよ?あと、先輩に何かされそうになったら、すぐに電話してね」


「もーう。何もされないよ!風は心配しすぎなんだってー」


「アンタは、警戒しなさすぎ。とにかくいろいろと、とくに車とか気をつけてね」


「はいはーい!」


心配性な風には適当に返事をして、あたしは意気揚々と家を出た。携帯で時計を確認すれば、ちょうどいい時間!すっごい楽しみだな〜。


待ち合わせ場所につけば、先輩はまだ来てないみたいで、とりあえず近くにあったベンチに座って待つ。


「だーれだ?」


突然、後ろから目をふさがれて声をあげそうになったけど、その声は知ってる人だから、嬉しくなって頬がゆるんだ。


「先輩!」


「ごめんね?待った?」


「大丈夫です!今来たとこですから!」


「そ、よかった。今日、かわいいね」


「あ、ありがとうございますっ!」


きゃー!ほめられた!先輩にほめられたよ!頑張って早起きしたかいがあるってもんだよねっ!


「じゃ、いこうか。何かしたいこととかある?」


「アイス食べたいです!」


「クス、じゃあ、ジェラートめぐりでもしようか」


「はい!」


優しく微笑んでくれた先輩が、もう本当にかっこいい!かっこよすぎ!さりげなく手も繋がれて、思わず顔に熱が集まっちゃった。


「あ、この間は、遅刻見逃してもらっちゃってありがとうございます!」


「ああ、それね。かわいい彼女だしね?」


ニヤリ、と笑う先輩に、あたしはなんだかはずかしくなって俯く。つないでいる手が熱く感じて離してしまいたくなる。


「あ、あそこにアイス売ってるよ。食べる?」


「食べます!」


それから、あたし達はアイスを買っていろいろな場所を散歩した。店に入るにはアイスが邪魔だったから、たまにはいいかって話になったの。


そのあとは、お昼頃に適当なファミレスに入って、ご飯を食べた。デザートはもちろんパフェ!やっぱりこれに限るでしょ!


そのあとも、いろいろと先輩と話をしていて、どういう経緯でそうなったかは覚えていないけど、遅刻した日の出来事についての話しになった。文化祭のオープニングセレモニーであたしが一人で歌うことになったことについて、あたしは机を叩きそうな勢いでしゃべる。


「それで、なぜかあたし一人でやらなきゃいけなかったんですよ!」


ちょっと興奮気味になってきてるから、自粛しなきゃ。とかおもいつつ、パフェを一口。うん。やっぱりおいしい。あたしは、パフェを食べ終わって御馳走様をした。


デートだからと、先輩がお昼ごはんもろとも奢ってくれた。あたしは、出すって言ったんだけど、女に出させるわけにはいかない、だって。かっこいいよね!先輩ってば!


あたしたちは外に出て、また歩き始めた。


「それで、もうどうしよう!って思ってたんですよ」


「じゃあ、―――」


「あ、でも、隼人が助っ人でやてくれるっていってくれたんです」


「!…へえ、そうなんだ」


そのときのあたしは、話すことに夢中で先輩の笑顔がゆがんだことなんて気付かなかった。


「あ!アイス屋さんある!」


「クス、まだ食べたいの?」


「うっ…、えっと、その…」


「うそだよ。買ってあげる。どれがいい?」


「じゃ、じゃあ、これ」


買ってもらったものは、カップのアイスで、プラスチックのスプーンもつけてもらってその店を後にする。


「でも、あたし歌える自信ないなー。あ、でも、隼人ってすっごくピアノ旨いんですよ!昔からならってたみたいでー」


「へえ。それはすごいね。でも、そんなにあいつのことほめられると嫉妬しちゃうなあ…」


「へ?」


「おもわずその口ふさぎたくなる」


「!?」


ええ!?どういう意味!?


急に先輩は真剣な顔をして、あたしと目を合わせた。逃げ出したくなる。でも、体は動かなくって、先輩との距離がどんどん無くなっていくのを感じて、あたしはぎゅっと目をつむった。


すると、頬に、温かい感触が。


「へ?」


「今は、これで我慢してあげる」


驚いて目を開ければ、ニヤリ、とニヒルな笑みを浮かべている先輩がいて、先輩の言葉であたしは、今何をされたのかを理解した。理解した瞬間、ボン、と音がするほど顔が赤くなったと思う。だって、それみて、先輩が笑うんだもん!


「もーっ!笑わないでください!」


「アハハ!ごめんごめん。かわいいから、つい、苛めたくなるんだ。まあ、半分本気でするつもりだったけどね?」


「う…っ!もうっ!アイスあげませんよ?」


「何?くれるの?」


「はい。どうぞ」


スプーンで一口分すくって差し出せば、先輩はキョトン、とした。あ、この表情めったに見れないよね。


先輩は、そスプーンとあたしを交互にみて何か考えた後に、あたしの方をじっと見てきた。


「…間接キスになるよ?」


「?ダメなんですか?」


「…意味わかってる?」


「?」


「まあいいや」


何がだめなのかがわからなかったけど、結局、先輩はアイスを食べてくれた。


「おいしいですか?」


「うん」


ニッコリと笑ってくれた先輩に、あたしも嬉しくなって、でも、同時にはずかしくなってそれを隠すようにアイスを食べることに専念した。


そのあとも、いろいろと話しながら食べ歩きをしていたら、いつの間にか夕方になっていた。


「送るよ」


そう言われて、帰路をたどっていた時のことだった。大分家に近づいてきたときに、前方に見知った影。というか、あんな目立つ銀髪、あたしの知ってる中で一人しかいないよ。


「隼人!」


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