「あー、また負けたー!」 「お前が俺に勝てるわけねーだろ」 「飽きずにまだやってるの」 「今んとこ獄寺のストレート勝ちだけどな」 只今、隼人とテレビゲームで対戦中です。流石本物のマフィア、格闘はお手のもんだね、ってあたしだって空手やってるのにー! 風が匠君からオススメと押し付けられたらしいゲームをあたしと隼人は、もうかれこれ二時間弱してる。目が疲れるとか、手が痺れてきたとか、そんなこと感じる間もないまま時間だけが過ぎていった。 だからいつの間にか、お風呂に入って戻ってきていた風が呆れた様に溜息をついていたのをあたしは知らない。 「もっかい!一回も勝てないなんて、ゲームが壊れてる!」 「んなわけねーだろ。つーかお前が弱すぎんだよ」 弱すぎるとか失礼な!あたしこれでも空手の大会で優勝経験あるんだからね!ゲームじゃあたしの実力は測れないんだから! 「空、いい加減にしとかないと明日起きれないわよ」 「大丈夫!このままじゃ悔しくて眠れないもん!」 「…(獄寺も一回くらい手加減して負けてあげればいいのに…」 まだまだこれからが本番だから!と気合を入れるあたしに呆れる風は先に寝ることにしたようだ。 「武、明日朝練だったわよね?」 「ん?あー、そういえばそんなこと言ってたかもな…」 「私先に休んでもいい?」 「おう、おやすみ」 「あー、隼人のバカー!今の卑怯だー!」 「けっ、油断したのテメーだろ」 ドヤ顔をする隼人にむかっ腹が立つ。ムキになるあたしを隼人が鼻で笑って、後ろではたけちゃんの楽しげな声。そして、風はあまり騒がないようにと注意して部屋へ戻った。 *** 翌朝、自室を出てリビングに顔をだした私が目にしたのは、呆れてものも言えない光景だった。 「──はあ、」 私が溜息ついたのも仕方のないことだと思う。だって、昨日遅くまでやっていたゲームは出しっぱなしにしてあるし、そのゲームのコントローラーを握ったまま空は眠ってるし。獄寺はそんな空の隣でソファーに寄り掛かったまま寝てる状態だ。 まあ、獄寺は空が風邪ひかないようにって配慮してくれたのか、空には掛け布団がかかってるけど。どうせなら部屋まで連れてってくれたらよかったのに。変なとこ甘いわね。 「お、早ーな。風」 「あ、おはよう武。起きたばっかで悪いんだけど、そこの熟睡組起こしてくれる?」 私がどうしたものかと頭を悩ませていたそこに、大きな欠伸をしながらリビングに入ってきた武を見て、取り敢えず、二人を起こすという仕事は武に任せることにした。朝は忙しいのよ。よりによって今日は朝練だし。 「ん?アイツ等あのまま寝ちまったのか」 「そうみたいね。私は朝食とお弁当作らなきゃいけないから頼むわね」 「おう」 私の一言で、空と獄寺の方に目を向けた武は、少し感心したような口ぶりで二人を眺めた後、二人を起こすことを快く承諾してくれた。それを確認してから、私はキッチンへと入る。急がなきゃ、遅刻する。万が一そんなことになったら匠の奴が煩いのよね。 「獄寺ー、そろそろ起きねーと遅刻すんぞ。空も起きろよ」 「うるせ……」 「んー…」 風に頼まれて二人を起こしにかかった俺だったけど、肩を揺すっても、少し大きめに声をあげても全く起きる気配がない二人に、どうしたものかと考えを巡らせる。…そーいや二人とも低血圧だったけなーって、今そんなこと言ってもしゃーねーか。 「おい獄寺、起きろって!」 「るせー…な…ー」 「ダメだなこりゃ…」 「まだ起きないの?」 「風…、」 さっきより強く身体を揺すって声を張り上げた俺の努力も虚しく、寝返りをうつように空の方に身体の向きを変えた獄寺は起きる気配が全くない。それは空にもいえんだけどな。 そんな二人に頭を抱える俺の後ろから顔をだした風は、二人の様子を見て諦めたように溜息を一つついた。 「とにかく私達が遅刻したらマズイから、武は先にご飯食べちゃって」 「風は食わねーのか?」 「食べるわよ?ちょっと二人に忠告してから」 「?じゃ、先食ってるな」 「うん」 武がいくら頑張っても起きなかったなら、私が起こしたって結果は変わらないだろうし、ここはもう遅刻するなら勝手にそうしてもらうしかない。 まあ可哀相だから、一応忠告はしておくけどね。 「今、6時半回ったわよ。私達朝練あるから先に出るけど、早く起きないと遅刻よ。分かった?ちゃんと伝えたからね?」 「…分かったから…さっさと行け」 私の親切心を寝ぼけながら受け流した獄寺を心の中で、悪態ついたあと、先に朝食をとっていた武の向かいに座り、さっさと用意したそれをたいらげる。 ここまで言っても起きないなら後は自己責任よね?私しーらない。 (武早く!遅刻するわよ!) (あの二人まだ寝かしといていいのか;?) (…7時回ったからね!いい加減に起きないと本当に遅刻してもしらないからね!) シーン── (ここまで言っても起きないんだから、仕方ないでしょ) (…え) (私達が遅刻したら匠が煩いんだから、早く!) (お、おう) |