船内を案内してもらうが、なかなか覚えられる気がしない。そんな私に気付いたのか、ゆっくり覚えていけばいいと言ってくれた。 そして、今は医務室に来ている。イゾウさんいわく、船長さん専用のナースがいるんだとか。同性だから、いろいろと面倒見てもらえ。とくに着替え。ということらしい。 イゾウさんが扉をノックすると、中から確かに女の人の声が聞こえた。 正直ほっとした。食堂には男ばっかりだったから。女性がいない中で生活するなんて、肩身が狭くて仕方なかっただろう。 「あら?イゾウ隊長、めずらしいですね」 「ああ、今日は顔合わせだ」 そういって、後ろにひっこんでいた私を引っ張り出し、自分の前に立たせた。 目の前には、もうなんだかまぶしいぐらいナイスバディなお姉さん方がいた。やばい、これは鼻血を噴いてもいい感じですか。 というか、なんでこんな美人さんばかりなんだ。そして、ナース服めっちゃ似合ってる。つーか、なんかエロさを感じる。 「あら、そのかわいい子は?」 「もしかしてイゾウ隊長の彼女ですか!?」 一人の声を皮切りに、全員が作業を中断させて興味津々で詰め寄ってきた。 それにたじたじになっていると、イゾウさんが前に出てかばってくれる。 「いいから落ち着いてくれ。こいつは、今日から親父の娘になった。美頼だ。着の身着のままで来てるから、使わねえ服とか下着とか用意してほしいんだが」 「私は、ナース長のアリアよ。よろしくね美頼」 「は、はい!よろしくお願いします!」 素敵美人なお姉さんが一歩前に出てきて、私ににっこりとほほ笑んだ。私が男なら確実に今のでハートを射抜かれている。いや、冗談抜きで。 鼻の下を伸ばしている私に気付いたのか、イゾウさんから呆れたような目を向けられた。 「ふふっ、下着とかは予備があるから、洋服を一緒に後で渡すわ。何か困ったことがあったら、いつでも頼って頂戴。船長の検診の時以外なら、大抵ここにいるから」 「はい!」 そのあと、アリアさんたちに別れを告げて、次に向かった場所は、私の部屋となる場所だった。 そこへ向かう途中、ふと前に通ったことがあるかのような既視感にとらわれて思わず立ち止まりあたりを見回す。 「どうした?」 「いや…、この辺って、もしかして船長さんの寝室があったりしますか?」 「ああ。親父の部屋はあそこだ」 そういって指を刺された場所は数歩先にある大きな扉だった。だとしたら、この辺の物置部屋に私はいたはずだ。 「ああ、この辺なのか。お前さんの現れた部屋ってのは」 「はい。たぶん…」 暗くてよくわからなかったけれど、船長さんの部屋があるということはそういうことだ。 「この辺で物置ってことは、こっちか」 そういってあるきだしたイゾウさんについていく。 そして、彼があけたひとつの物置。そこを開いてみれば、今更ながらほこりがすごかった。でも、確かにここだった。 そっと入っていくイゾウさんのあとをついていく。ここの窓から外をみて、海を見たのだ。床はわずかに埃がつもっていた。歩くたびに白い足跡がつく。しかし、入っていく足跡は今できたものしかなかった。 他には、私が今朝窓まで行き、そのあとドアへとむかった足跡しかない。 「特になにもねえな」 「そうですね」 「行くぞ」 「はい」 何か手がかりが、と思ったけれど、何もなかった。まあ当たり前か。 「お前さんの部屋は俺の部屋の向かいだ。何かあったら訪ねに来な。夜だろうとかまわねえから」 「何から何まで…、すいません」 「構わねえさ。持ちつ持たれつっていうだろ?」 もたれかかってばかりな気がするが、要は気にするなってことなのだから、それ以上私は何もいわなかった。 そのあと、用意された部屋にはいつの間にかベッドや棚などが置かれていた。 「あの、これって…」 「ああ。マルコあたりが用意してくれたんだろ。あいつはそういうところによく気がきくんでね」 あんなに、私の言ったことを信じないといったマルコさんが…。と思わず部屋を眺めていると、それを感じ取ったのかイゾウさんは苦笑を浮かべた。 「疑わねえとこっちが命を取られるんだ。あいつを憎んでやるなよ」 「憎むなんて…。信じられなくて当たり前です。私だって、まだ…。信じられない」 「そうだろうな。なら、疲れただろ。俺は隊の仕事があるからもう行くぞ。この部屋は好きに使っていい」 「はい。ありがとうございました」 深々と頭をさげて、出て行ったイゾウさんを見送る。 再び殺風景な部屋を見回した。 簡易ベッドにはすでに布団が敷かれている。そこに倒れ込むと、一気に体の力が抜けた。思った以上に緊張していたらしい。あとでマルコさんにお礼を言いに行かなくてはいけない。それに、改めて船長さんにもお礼を言わないと。 そっと、首に下がっているペンダントを手に取る。金属の冷たさが掌に伝わった。 その小さなロケットペンダントをひらくと、そこには顔を寄せ合って笑っている母と私がいる。 母が誕生日のプレゼントにとくれたロケットペンダント。恥ずかしいと笑いながらも、張られた写真を外そうとは思わなかった。 「…お母さん」 つーっ、と目じりから冷たいものがこめかみのほうへと流れて行った。腕で両目を覆う。視界の光を遮り、真っ暗な中で息をついた。 何がどうなって今の状況になっているのか、これからなにをしなくてはいけないのか。何も、何もわからないけど、しょうがない。 とりあえず、流されるままに、やっていくしかないのだ。 ずいぶんと緊張していたのか、とたんに眠気が襲ってきて、どうせやることもないのだからと、その眠気に身をゆだねた。 |