リイナ達は今談話室に集まっていた。談話室には、任務でいない骸以外の、武、隼人、綱吉、ランボ、了平がいた。個性が強いせいか、ほとんどを自室ですごすものも、今日は談話室に集まっていた。その理由は、言わずともリイナがいるからだろう。 暖炉の前のソファーに座り、今までの思い出を話して聞かせてくれている。 「そんでさあ、あんとき、確かツナが…」 「た、武!その話しはいいだろ!?」 「ハハハ、いいじゃねえか!ツナ」 「笑ってんじゃねえ!山本!」 「ご、獄寺さん落ちついて…」 「ああ!?」 「ヒィっ!」 武の話し始めた内容に、綱吉が焦ってそれを止めようとするも、武は笑い飛ばしてしまう。隼人が、武に怒鳴れば、それをランボがなだめようとするが、逆に煽ってしまったようだ。 そこにさらに了平の言葉も入り、内容はグダグダだったが、面白いことに変わりはなく、リイナは始終笑い声をあげていた。 「アハハっ!武君、それ、本当?お兄ちゃんそんなことあったんだ!」 「リイナ!」 情けない声をあげる綱吉を見て、リイナは口角をあげて、少しだけ『いつものように』からかう。そんなことをしていれば、ビデオで見たような風景がそのまま現実に起こっているものだから、わずかに違和感を感じるのだが、そこは奥に封じ込めた。 「あ、そういえば、言い忘れてたんだけど」 いきなり話しの腰を折った綱吉が、リイナの方に改まって向き直る。突然のそれに首を傾げ、居住まいを正す。 「今日、リボーンと恭弥が帰ってくるんだ」 「リボーン君と、恭弥君が…」 「きついこと言われるかもしれないけど…、大丈夫?」 実は、この二人との『記憶』はあまりなかった。ビデオを見ても話している記録はないのだ。まあ当り前なのだが、あの二人はむやみにビデオに映ったりしないみたいだった。 しかし、日記で書いてある感じだったら、結構気にいられていたようでよく二人でお話をしたと書いてあった。 「あたし、リボーン君と恭弥君との記憶、まだあまり覚えてないんだよね…」 視線を下に落として、落ちつきなく髪の毛を触る。自分の手で髪をとかしたり耳にかけたり前髪をかきあげたりしてみながら、どうしよう、と呟く。 「大丈夫だって!な!」 「そうだよ、リイナ。それは仕方ないんだから」 綱吉の言葉に、まだ不安げにうんと呟く。もう一度おちてきた髪を耳にかける。 「嫌われたり、しないかなあ?」 「大丈夫っすよ!リイナさん」 「そうだぜ?あいつらだって、ちゃんと言ったらわかってくれるって!な?」 「…うん!ありがとう!」 二パッと笑って見せる。そうすれば、安心したようにほっと息をついていた。 それからもしばらく談笑していたら、いきなり綱吉が顔をドアに向けた。それに合わせてドアへと視線を向ければ、少ししてからガチャッという音がして扉が開いた。 入ってきたのは、黒いボルサリーノをかぶり特徴的な揉み上げの男の人と、切れ長の目に少し不機嫌そうな顔をした人だった。それが誰かなど一目見て分かった。 リボーンは赤ん坊ではなかったが、特徴的な揉み上げと、帽子に乗っているカメレオンから見ても間違いようがなかった。 「おかえり。ふたりとも」 綱吉の言葉に答えることなく、二人の視線はリイナに釘づけになる。 「…そいつは…」 「…ワオ、これはなんの冗談だい?」 二人は、リイナの方をみてゆっくり言葉を発する。それは誰に聞いているというより、思わず出てしまった言葉のようだった。 しかし、その問いに誰かが答える前にリイナの目にとまったものに気をとられていた。 「恭弥君!怪我してる!」 「え?リイナ?」 綱吉は、きょとんと首をかしげていたけれど、リイナはすぐに立ち上がると恭弥のもとに駆け寄った。腕には確かに傷があった。しかし、すでに血も泊まっていたので、恭弥自身たいしてきにしていなかった。というより、そのあとの任務によってすっかり忘れていた傷だった。 リイナがかけより、その傷の状態をよく見ようと腕をつかむと、反対の手で逆に掴まれてしまった。なんだろうと思って顔を上げればすぐ近くに恭弥の顔があって、リイナは少しあとずさる。 「ねえ、君…リイナなのかい?」 「う、うん。リイナだよ?」 「沢田」 「なに?恭弥」 恭弥はリイナの腕をつかんだまま綱吉に鋭い視線を向ける。そうなることがわかっていたのか、睨まれても動揺することなく綱吉も笑みを浮かべた。 「なんでリイナがいるの」 「俺の妹だからじゃない?」 「君、ふざけてるの?リイナはつかまって行方不明になったはずだろう?」 「帰ってきたんだよ」 嬉しそうに答える綱吉をみて、恭弥はわずかに眉根を寄せた。 「ねえ、リイナ」 「はい?なんですか?恭弥君」 小首をかしげて、少し上にある恭弥の顔を見上げる。彼は、じっとリイナの瞳を覗き込んできて、なんだか気まずい雰囲気が流れた。でも、逸らせない雰囲気に、頑張って彼の瞳を見続けていた。 「どうやって、帰ってきたの?」 「…覚えて、ないんです」 「覚えてない?」 「あ、あたし…、記憶が、なくなってて…。あ、でも、お兄ちゃんとか、少しずつ思い出してはいるんですよ!」 無理に笑うリイナの表情を見て、恭弥はすっと目をそらした。恭弥は彼女の無理をしている姿が好きではなかった。頼ってくれればいいのにといつも思っていたのだ。群れることを嫌う彼だが、リイナだけは特別だった。 それは、10年たった今でも変わっていない。 「そう…」 「雲雀、今はその話しはいいだろ?」 「そうだぜ。雲雀!今こっちでも調べてんだし、後から何かでてくるだろ。な!」 「それより、怪我っ!恭弥君、そこで待っててくださいね!あたし、救急箱とってきますから!」 了平と武の言葉により、さらに質問をくりだしそうだった恭弥からなんとか逃れたリイナは、救急箱をとってくると言って、部屋を出ていた。今までの様子をじっと傍観している人がいることに気付きながら。 |