04:He knows that

『アハハハ!もう、本当に天然だよねー、武君って!』


『ハハ、そうか?そんなつもりはねえんだけどな!』


『つもりがあったら、天然って言わねえんだよ!野球バカ!』


『じゃあ獄寺も天然なのなー』


『ああ!?俺のどこが天然だっつんだよ!』


『まあ、まあ二人とも』


『リイナもそう思うだろ?』


『えー?あたしー?』


アハハハハという笑い声が部屋にこだまする。さっきからずっと流れている映像は、壁際の天井から現れたスクリーンに映し出されている。どこにもスイッチのようなものはなく、消すこともチャンネルを変えることもできない。と言っても、チャンネルがあるのかすら疑問だが。


それには、私の知っているようで知らない彼らの生活が色濃く残されていた。


おそらくリボーンが撮ったであろうビデオには、中学生となっている沢田綱吉と、その6歳離れている妹リイナ。そして、山本武と獄寺隼人が映し出されている。
このビデオを見ていただけで、どれだけこの人たちにとってリイナという子が大事だったかが分かる。


沢田綱吉は、この映像を見て思い出せといった。


彼は、どんどん刺激を与えていけば思い出すと思っているらしい。確かに、本当に記憶喪失なら思い出すこともあるだろう。何が引き金となって思い出すのかがわからないのが記憶喪失だと、記憶している。


でも、あいにく記憶喪失ではない。
しっかりとここに来る前の記憶も持っていれば、親の名前も物ごころついてからの記憶もそれなりに覚えている。


といっても、彼にそんな言い分は通らないのだ。部屋を出ようと思っても、外からカギがかけられているのか開けられなかった。窓から降りて逃げようにも、ここは3階くらいの高さなので飛び降りられない。


『あ、恭弥君!』


『なーっ!?リイナ!雲雀さんになんて呼び方してんだよ!』


『えー?だって、恭弥君がそれでいいって言ったんだよー?ね!恭弥君!』


ニパッ、と笑う。リイナは、他の人にとって眩しいほどきれいな笑顔を浮かべていた。さっきからそうだ。人を安心させるような、まるで空気から包み込んでいるような、そんな存在のようだった。
私にはなれないな。
素直にそう思った。同じ顔なのにこうも性格が違うとは。まず趣味も違うし、話し方も違う。一人称だって違う。


『君たち、何群れてるの』


『ヒイッ!ひひひ雲雀さん!すすす、すいません!!』


『ハハ、まあいいじゃねえか!な!雲雀』


『ケッ、てめえは呼んでねえんだよ!』


『まあまあ、雲雀だってリイナに呼ばれてきたんだろ?』


『そう!あたしが恭弥君も呼んだのー!』


来てくれた!といって喜ぶリイナは、とても幼い気がした。まあ、彼らが中学生だと考えれば、リイナはまだ小学生の中学年くらいなのだから当り前だ。その幼さは、妹と見れば可愛いのかもしれないが、自分と同じ顔が、普段しないような笑みを浮かべているというのがどうにも違和感があってなれなかった。


ハア、いい加減この声も聞きたくない。


結が知っている人の昔の映像を見るというのは、面白いことかもしれないけど、彼女にとってまったく知らないと言っていい人たちの映像を見させられても正直つまらない。しかも、もう見せられ始めてから5時間も立っている。


逃げるにも逃げられない。部屋に備え付けてある浴室やトイレにいっても、そこにある小型テレビから同じものが流れていた。軽く拷問だ。


頭がおかしくなりそうだった。今だって、耳の奥にはもうリイナの声がこだましている。


『ハッピーバースデー!!リイナ!』


映像が切り替わって彼女の誕生日会になったようだ。例のごとく、ボンゴレ式の誕生日パーティーが開かれている。


膝を立てて顔を埋める。耳から聞こえてくる声を遮断したくて、耳をふさぐ。それでも、漏れてくる音をたちきることはできない。


私がテレビの中で動いているのだ。私と姿も形も同じ別人。でも、周りにとってはたしかに同じなのかもしれない。
ああ、なんて気持ち悪いんだ。


気がくるってしまいそう。


誰か、名前を呼んで。


私は、結。海凪結。


ねえ、助けて。助けてよ…。


気が、くるってしまいそうだよ。




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あきゅろす。
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