屋敷に戻ったザンザスは、ずっと黙ったままだった。そして結の手を引き、部屋に行くと、そのまま結を抱きしめた。ずっと何もいわなかったザンザスの突然の行動に戸惑いながらも、彼の背にうでを 回す。 「ザンザス?」 「抱き付かれてんじゃねえよ。テメエは俺のだ」 「ふふっ、嫉妬したの?」 「うるせえ」 さらにぎゅっと抱きしめてくるザンザス。嫉妬心は次第に薄れ、腕の中にすっぽり収まっている女を見て愛しく思った。その体は細く、力加減を間違ってしまえば簡単に壊してしまうだろう。ザンザスにとって、その考えは初めての恐怖だった。 「お前は、俺のものだ」 「うん」 ザンザスにとって、結を失うことほど怖いことはなかった。結から誰?と言われた時、心臓が打ち抜かれたかと思うほどの痛みが走った。その場で、壊してしまいたくなるほどの激情にかられたが、それを理性だけでつなぎとめたのだった。 もう、あんな思いをしたくはなかった。誰にも、それこそボンゴレになど盗られてたまるかと、さらにきつく、けれど壊さない程度に力加減をして抱きしめた。 「私は、ずっと傍にいる。ザンザスが、私を捨てる日まで」 「んな日こねえよ」 「ふふ、じゃあ、一生一緒だね」 「当り前だ」 ようやく体を離したザンザス。結は埋めていた胸板から顔をあげ、ザンザスの顔を覗き込んだ。紅蓮の瞳が愛しいと、告げてくる。それを見て、嬉しく思う反面恥ずかしくもある。 ザンザスの手が結の頬に添えられた。逸らすことを許さない紅い瞳が徐々に近寄ってくる。そして互いの吐息がかかるほどの距離になったとき、ザンザスは動きを止めた。そして、唇を動かした。漏れてくる声は、低くかすれ気味だ。 「Io non ti libero in tutta la vita」 耳をくすぐる低い音。目の前でわずかに細まる紅い瞳に結は息を飲んだ。意味は分からないが、その雰囲気でなんとなく言われたことを察していた。 「Ti amo.」 その言葉を最後に、ザンザスはゆっくりと唇を重ねた。重なり合う熱は、さらなる欲望を産んでいく。ゆっくりと差し込んだ舌は、結の口内で暴れ回り、結は徐々に力が抜けていった。足に力が入らなくなったところで、ザンザスがキスをしたまま結を抱き上げる。 そして、そのままの状態でベッドまで運ぶと、ゆっくりとおろした。唇が離れ、どちらのものともつかぬ唾液が二人を繋ぐ。 「ざ、ンザス…。大好き」 「ちげえだろ?」 降ってくるキスに、くすっぐったそうに顔をそらしながら、結は微笑んだ。 「Ti amo XANXUS」 力の入らない手で、ザンザスの頬をたどる。頬にできた凍傷を指でなぞりながら、愛しいこの思いが伝わればいいと思って精いっぱい紡がれたイタリア語。それにザンザスの理性は一気に崩れ、再び結におおいかぶさったのだった。 「結、手を出せ」 「え?」 ザンザスに求められ続けようやく解放された結は、ザンザスに視線を向けた。倦怠感が体にまとわりつく中、ザンザスの顔を見上げる。 隣に寝転がる大きな体には、傷跡があるも、たくましい。ザンザスの言った意味をうまく理解できずに固まっていると、ザンザスがしびれを切らしたのか結の手をとって布団から引っ張りだした。 とられた左手にザンザスの熱が伝わってくる。結よりも高い体温が、結をより安心させていた。 何をするのだろうと思って見ていると、ザンザスはもう片方の手を結の手に重ねた。そして、指先にさわる冷たい感触にビクッと体を震わせる。 「施しだ」 横暴な言い方ではあるが、それがまた彼らしかった。そっと重ねられていた手が離れ、結は自分の手を見てみると、そこの薬指に銀に光る指輪が。 驚いて彼を見上げると、してやったりと口角をあげる。 「これ…」 指輪は、普通の輪ではなく途中でひねられている。 そのひねられているところを中心に、小さな石がちりばめられている。ザンザスを見てみると、彼の左手にも同じものがはまっていた。よくみてみると、少し違い、ひねられているところを頂点に、そこに一つだけ宝石がついている。 永遠を意味するその形。 結はその指輪の意味を理解した。それと同時に、嬉しさに胸が震えそれが涙となって目からこぼれおちる。 「…気にいらなかったか?」 「ちがっ、うれし、くて…っ」 結は大事そうにその指輪がついている手を胸元にもっていった。 「一生、離さねえから覚悟しとけ」
私はいつの間にか迷い込み 貴方と恋に落ちた それは奇跡のように二人を繋ぎ 永遠に外すことのできない―――… end. |