30:With you

任務に赴いていたザンザスたちは交戦中だった。今回ザンザスとともに任務をしているのはフランとベル。その二人は、ボスであるザンザスの攻撃の動向をうかがいながら確実に獲物をしとめて行っていた。


「にしても、ボス怖いですねー」


「ま、仕方ないんじゃね?だって初めてだろ。結が来てから屋敷を二日もあけるなんて」


襲ってくる敵の雄たけびを聞きながら、二人はそれに突っ込んでいく。


「出る時も大変でしたからねー」


「結、苦労してたしな。ししし、今頃寂しがってるんじゃね?」


「先輩みたいに子供じゃないんで、それくらいわり切ってると思いますけど―」


「はっ?誰が子供だよ!」


「先輩に決まって―――」


話しながら、敵を葬っていると、突如背筋が凍るような殺気が二人を襲った。ばっ、と勢いよく二人はその場から飛び上がる。突然の二人の行動に敵方は唖然とするばかりだが、次には断末魔に代わっていた。


「うぜえ」


その場を閃光が駆け抜けていく。その閃光が駆け抜けたあとは、灰ものこらなかった死体の跡と焼けた地面だけがあった。


「……今のって絶対ミーたちも殺す気でしたよねー」


「ししし、ボス怖っ。ただの八つ当たりじゃね?」


「八つ当たりならアホのロン毛隊長だけにしてくれって感じですよねー」


「じゃあ、お前それボスに言えよ」


「言ったらそれこそ消されるじゃないですかー」


再び敵に囲まれながら、相手を伸していっていると再び殺気と同時に閃光がきらめいた。
それを寸でのところで交わした二人は、心に決めるのだった。さっさとこの任務を終わらせて帰ろう、と。でないと先に自分たちの命がボスの手によって消されそうだった。


そんなとき、ザンザスのポケットに入れてある携帯が震えた。緊急用の連絡手段であるそれ。見てみれば屋敷からの連絡だった。それを見た瞬間、ザンザスの脳裏に浮かぶのは彼女の姿。


「ベスター」


ザンザスは一言、己の傍に控えているライガーを呼ぶと、それに一声ないて答え、ザンザスの周りにいた連中を追い払い始める。その間にザンザスは電話に出た。


「どうした」


『に、任務中失礼いたします!じ、実は…、と、止められたのですか、報告した方がいいかと、思いまして』


焦ったような女の言葉。メイドだろうとあたりをつける。ザンザスが携帯をとったのをみて、ベルとフランはその周りに降り立ち、ベスターと同じように周りの連中をザンザスに近づけないようにさせながらザンザスの声に耳をそばたてた。


「さっさと言え」


『は、はいっ!結様が熱を出して倒れました』


「結が…」


『は、はい。ただの風邪とのことですが、現在熱が38度ありまして…。一度起きられた際に、ボスの仕事に支障がでるから連絡はするなと言われたのですが…』


「…チッ。何かあったらまた知らせろ。結がなんと言ってもだ」


『は。、はい!』


切れた電話。溜息をつきながら周りに視線を走らせる。


「何があったんですかー?」


「敵襲?」


「ちげえ。結が熱出した」


ザンザスから出た言葉にベスターまでもが振り返った。ベスターは、一度会って以来とてもなついていた。結に頭を撫でてもらうのが好きらしく、匣から出てきたと思えば、まず結にかけよるぐらいだ。その姿はまさしく主人に似ているといえるだろう。


「じゃあ、ボス早く帰った方がいいですよー」


「結、さみしがってんじゃね?」


「ここはミー達だけでも大丈夫なんでー、行ってください」


「アイツ意地っ張りだから、絶対寂しいとか言わねえし」


ベスターまでもがさっさと帰ろうとでも言うように体を押しつけてくる。あたりを見渡せば、既にほとんどの敵は葬り去っていた。ここのボスを倒し、他手を組んでいた2つのファミリーをつぶさなければならないのだが。


「……カス鮫をよこす」


ザンザスは、逡巡したあとすぐに踵を返した。その姿に、素直じゃないよなーと二人は感じるのだった。内心心配で心配でたまらないのに。と二人は顔を見合わせる。ザンザスの後ろを不安げに尻尾をゆらゆら揺らしながらついていくベスターも心なしかそわそわしていた。






「結」


扉をあけると、キングサイズのベッドにある小さな一つの膨らみ。かすかに上下しているのをみて寝ているのだろうと推測する。音を立てずベッド脇まで行き、布団から出ている顔を覗き込んだ。若干頬が赤くなっているが、苦しそうな様子はない。
そのことに安堵の息をもらしながら、ゆっくりベッドサイドに腰掛けた。


ギシ、ときしむ音が室内に響いた。


今は既に夜中となっている。海外での任務だったため自家用ジェットでも半日かかってしまったのだ。
赤い頬に指を滑らせる。


「……ん」


漏れた声に指を引っ込ませた。しかし、既に遅かったらしく、ゆるりと結の瞼が押し開く。


「…だ、れ?」


「俺だ」


ザンザスは、起きてしまったなら仕方ない、と一度ひっこめた指を再び結の頬に滑らせる。ようやく目の前にいる人物が誰か分かったのか、結はわずかに目を見開いた。


「…ザンザ、ス?」


「ああ。今帰った」


「ゆめ?」


「ちげえ。現実だ」


「2日も、寝てた?」


「んなわけあるか。帰ってきたんだ」


「なんで…」


呆然とザンザスを見つめる結。その瞳にひとつキスを送ってやる。


「熱は」


「…報告しちゃったのか」


ふう、と息を吐き出す結。額に張り付いている髪を指でどかしてやる。


「任務は、よかったの?」


「問題ねえ。カス鮫が行った」


「……今度お礼しなきゃね」


ゆるく笑った結。その笑みはどこかまだ辛そうだった。


「必要ねえよ。もう寝ろ」


「ん」


「着替えてくる」


ゆっくりと目を閉じた結を見て、ザンザスはあまり振動を起こさないようにベッドから立ち上がった。そして着替えるためにクローゼットのところまで行こうとしたのだが、何かに引っ張られる感覚がして足を止め、振り返る。




31/42ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!