27:You're here with me with me

厳かな雰囲気が屋敷内に流れる。張り詰めた緊張が肌から伝わってくるようだった。


今日は、ヴァリアーの屋敷に余所者が来る。ボンゴレのための商談をしに来るのだ。本来ヴァリアーの屋敷に招くことなど、まずないのだが、本部の事情と来客の方の都合などにより場所がヴァリアー邸に決まったのだ。


渋っていたザンザスだが、止む負えないということになった。


黒塗りの車が屋敷の前にとまる。それを出迎えるのは数名の黒いメイド服に身を包んだメイドと、何かあったときのための幹部であるレヴィ。


運転手が、扉を開けると、中から出てきたのは今回商談相手であるアギーラファミリーのボス、ジョバンニ。そしてその右腕と呼ばれるパオロ。それで終わりかと思えば、最後に商談には似つかわしくない、今からどこかの夜会にでも行くのではないかと思われる派手な格好で降りてきたのはジョバンニの一人娘であるアーシアだ。


「娘もか」


「ああ、すまないね。場馴れをさせるためさ」


なんてことないと言ってのけるジョバンニに、レヴィは表情に出さずに心の中で悪態をつく。場馴れのためでないことはその格好を見るより明らかだった。


「ついてこい」


結局そのまま案内することにしたレヴィは彼らを従えて会議室へと進む。


扉を開ければ、重苦しい雰囲気。
部屋の灯りはつけられておらず、窓から差し込む日差しだけが唯一の灯りだった。その光を背に受け、一番奥にいる人物を見て、ジョバンニたちは噂どうりの男だと息を飲む。


しかし、そこはマフィアのドン。臆することなく中へと入った。しかし2歩と進まないうちに何かが来るのがわかり、足を止める。ヒュッと風を切る音が耳元でしたかと思えば、横にある壁になにかが突き刺さる音がした。


「お前らっ!」


右腕であるパオロが事態に気付き、守るようにジョバンニの前に出る。


しかし、明るい場所から入ったせいか中はよく見えない。気配も感じられない。それとも、あの男の圧倒的な気にかき消されているとでも言うのだろうか。嫌な汗が伝う二人。そこに、不気味な笑い声が響いた。


「ししし…、どんなやつかと思えば…」


「ベル。勝手な行動してんじゃねえ」


闇がゆらりと動いた。かと思えばプリンス・ザ・リッパーと恐れられるベルフェゴールが顔をだす。かろうじて認識できる程度ではあるが。


「……ザンザス。これはどういうことだね?商談は始まる前から拒否されたと取っても?」


ジョバンニは背中に冷や汗が伝うのを感じながら表面上とりつくろってもう一歩部屋へと入る。そうやって進めるのは、アギーラファミリーとしてまだ殺されるわけがないとわかっているからだ。こういう場合、あぶなくなるのは商談終了間際。
マフィアなど裏切って裏切られてが常。その中で信頼できるものを探し、相手を逆手に取り操作してこちらの有利にことを運ばなければいけない。


「…焦るな。部下の遊びだ」


「遊びだとっ!?」


いきり立つパオロを片手で制す。それとほぼ同時に室内の灯りはともされた。ザンザスの周りには、幹部が勢ぞろいしていた。そして、いつの間にか彼らを案内してきたはずのレヴィもそちら側に立っている。


「座れ。さっさと始める」


ザンザスの低い声によって商談は始められた。


内容はザンザスにとってはとてもくだらないこと。ファミリーのさらなる発展のための商談。どちらも妥協できるギリギリの線を測る。


向かいに座ったジョバンニ。その横に娘が優雅なしぐさで腰を下ろした。そして見せつけるようにスリットの入ったドレスで足を組んで見せる。
そのしぐさをしたときに、フランとベルは苦い顔をして吐き出す真似をしてみせた。


もちろん彼らはそんなことに気づかない。数メートル先に座るザンザスに圧倒されているからだ。


「こちらは、私の娘でね。名はアーシアだ」


「お久しぶりですわね。ザンザス様。以前パーティーで会ったのを覚えて?」


「どうやら、すっかり君のことが気にいったみたいでね。連れてけとせがまれたのだ。何、じきに娘にもこういった商談を任せることになるのでね、そのための場馴れにもなるだろうと思ってね」


にこにこと自慢するジョバンニは、娘を愛しげに見つめ、その背中を撫でた。


しかし、ザンザスはふんぞり返ったまま、チラッとアーシアを見ただけでそのあと再び目を閉じてしまった。その様子を不満そうに見つめるアーシア。


今日、突然はいったコレのために、ザンザスは結と過ごす時間を切り上げなければいけなかった。それで不機嫌だと言うのに、いらない娘自慢まで聞かされさらに苛立ちはつのる。部屋に充満する女の香水の匂いも不快でしかなかった。


「そういえば、ザンザス。君に恋人ができたと噂が立っているんだけどね。本当かい?」


「う゛お゛おぉい!噂なんてあるのかあ!」


ザンザスは目を開けジョバンニを見るも、何も答えない。それを見かねてスクアーロが声をあげた。


「おや、知らないのかい?ザンザスの持つ雰囲気が変わったから恋人でもできたんじゃないかと噂があるんだ。実はそれも気になっていてね」


この男は何をしに来たのだろうかと、ザンザスはほとほとあきれていた。商談のために来たと思えばくだらない雑談ばかり。噂があるのはザンザス自身知っていたが、それを肯定も否定もしてこなかった。
もちろん、その噂を聞きつけた沢田綱吉から先日リイナじゃないのかと詰め寄られ、カスの妹なんざに興味ねえと一躍した。


それを聞き安心した沢田綱吉だったが、ザンザスの恋人と沢田綱吉の言うリイナは同一人物なため、それを知っている者たちからすればとんだ茶番だ。


「だが、確かに雰囲気が変わったようだ。とげがなくなったと言うか…。君をそうまでさせた彼女はここにはいないのかな?」


探るような視線を受け、苛々はつのる一方のザンザス。そんなザンザスを見て、冷や汗を浮かべるのは他でもないスクアーロだ。あとからの八つ当たりが目に見えて恐ろしい。


「さっさと商談を始めろ。俺達はお前と違って暇じゃねえ」


その忙しいの中に結とイチャイチャするということが含まれることを幹部たちはしっていた。


しかし、そんなこと知りもしないジョバンニたちは、少し溜息を吐きだし商談の話しに入った。


話しの内容は、それぞれが納めている領域の接する場所がある。そこがどうも曖昧になっていて取り締まりきれていない。そこを狙ってはびこっている奴らがいる。その場所をどうするか、とそのはびこっている奴の暗殺を頼みたいというものだった。


静かな空間で話しが進められていく中、いい加減飽きてきたのか娘のアーシアが体を揺らした。そして、隣の父にシナを作り軽く寄りかかる。


「お父様、私少し出てきてもよろしいでしょうか。飽きたわ」


「おお、そうか。お前には退屈な話だったね。ああ、いいとも。まだしばらくかかるから、外に出てると言い。こんな薄暗い所にいては息が詰まるだろう?」


どこの親バカだ。と幹部全員は呆れかえっていた。というより、そもそも場馴れのために来たのなら、そこに置いておくべきなのではないか。それ以前に連れてくること自体が間違っている。


ザンザス達に了承をとるでもなく、女は立ち上がるとザンザスの方を見て軽く頭を下げ速い足取りでヒールをカツカツならし出ていった。


「ししし…、アイツ俺嫌い」


「ミーも同感ですねー」


「……カス鮫」


「ああ」


ザンザスの一言でその場を立ち去ろうとするスクアーロを見て、ソファーの後ろに控えるように立っていたパウロが何処へ行く気だ!と声を荒げた。
いちいちうるせえと思いながら、スクアーロはこれから任務だと軽くかわして部屋を出る。


部屋をでたスクアーロは、先ほど出ていったアーシアの存在を探すが、どれだけ早歩きで出ていったのか、その姿はもう既に見えなくなっていた。


「チッ、面倒なことになったぜえ」


スクアーロが与えられた任務は結だった。あの娘があるきまわった末に結を見つけて何かされてはたまらない。ボディ検査などヴァリアーにとって不要であるが、ただでさえ不機嫌な今、結を傷つけられたりしたらそのファミリーをつぶすに飽き足らず、幹部の命も危うくなるだろう。


とりあえずアーシアを探すより結を見つける方が先かと思い、ひとまずザンザスの部屋へ向かった。結がいる場所と言えばザンザスの部屋か、談話室、それかテラスだろう。


ザンザスの部屋を勢いよくあけるがそこはもぬけの殻。ここじゃないのか、と思ったところでそこからテラスが見えることを思い出し、外を覗いた。すると、いた。


テラスに設置されている白い椅子に座り、風に髪を攫われながら読書をしている結。そのテーブルの上にはメイドが用意しただろう紅茶と、水差しが置かれている。


とりあえずまだ見つかってはいない様子にほっと一安心し、踵を返した。さっさと言って、この部屋に連れ戻した方が賢明だろう。中から鍵をかけさせれば、あの女が侵入してくることはまずないだろう。


そう考えながら大股でスクアーロは歩いていった。




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あきゅろす。
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