それぞれが好き勝手に話していたはずなのに、いつのまにかその矛先は結に向けられていた。それはルッスーリアの一言からだった。 「そういえば、結ちゃんはボスとどこで出会ったの?」 「あ、それ王子も気になる」 「それはミーも気になりますねー」 突然、その場にいる全員の視線が結に向き、どこからその話しの流れになったのかわからなかった結は驚いてきょとんとしてしまった。今まで、彼らは任務の話しをしていたはずだ。どちらかといえば殺伐としたことをコミカルに話していた。 それが、なぜ突然恋バナに発展したのだろうか? 「教えてちょうだい!」 サングラスをかけていて見えないが、きっとルッスーリアの瞳はキラキラと輝いていたのだろう。 「え、えっと…」 ちら、っとザンザスの方を見れば、グラスに注がれたワインを飲んでいた。その姿も様になっている。というより、彼が何もいわないということは、我関せずというのか好きにしろというのか…。 再び彼らの方を見れば、皆興味津々といった表情をしている。若干分かりにくい人もいるけど。 「初めて、会ったのはボンゴレの、庭…です」 「あり?結ってボンゴレなのかよ」 「えっと…まあ、うん。半分くらいは?」 「う゛お゛ぉい!半分ってなんだあ!」 「るせえ。カスが」 ザンザスからスクアーロへグラスが飛ぶ。パリンと音を立ててガラスが砕け散った。それにたいして、スクアーロが声を荒げるも、他の者たちはそれを無視して結に話しかけてくる。 結はザンザスが話しの腰を折ったことに安堵していた。まだ知られたくなかった。言ってしまって、どうこうなるとは思っていないがそれでも言いにくかった。 「どんな出会いだったの?」 「えっと、外の庭にヒマワリの迷路があって、そこにいたらザンザスが来たの」 「ボスとヒマワリとかミスマッチですねー」 「ふふっ、それ私も思った」 「結」 フランの言葉に、そのときの自分を思い出し、笑みをこぼす。そうしたら、ザンザスから名前を呼ばれとがめられた。 「だって、本当のことよ。ヒマワリの中にいたときは本当に驚いたんだから。そういえば、なんであんな場所にいたの?」 「…テメエがいたからだ」 「私?」 「ボスさんは、廊下歩いてたらいきなり方向転換したんだぞお!窓の外見てると思ってたら、んなもん見てたのかあ」 スクアーロが補足するかのように言う。つまり、窓から結が見えたから庭に出たのだそうだ。だからといって、やはりヒマワリの迷路の中に入っていくザンザスは想像できなかった。 「それ、本当?」 しかしザンザスはそっぽを向いてしまった。なんだかその行動は幼い子供のようにかわいい、と思ってしまった。 「まあ、ボスったら一目惚れだったの!?」 「じゃあ、結はどこを好きになったんだよ」 「確かに、ボスのこと見たら普通逃げますよねー。とくに強いってわけでもないみたいですしー」 「つーか、結が戦えたとしたら王子おっどろきなんだけど」 「でも、毒サソリだって戦えるじゃない!見た目じゃ分からないわよー?」 ねえ、といってザンザスの方に目をやるルッスーリア。しかし、ザンザスは目をつむっていて、それに答えることはしない。 「私は戦えないよ」 「しし、だよな」 「じゃあ、よっぽど度胸があるんですねー」 「しかも、これで会うのは2度目だろお!?」 「まあ!そうなの!?」 ルッスーリアが嬉々とした声をあげた。それに結は苦笑する。確かに2度目なのだが、結は彼の、彼らの10年前を知っているわけだからもともと人となりは知っていた。まあ、紙面上のことであるから知っているというには少し語弊があるかもしれないのだが。 数字や文字で知れることほど確かなことはないかもしれないが、結は人を知るということは直接会って話して人となりを、性格や癖や言葉遣いを知ることだと思っている。 「じゃあ、結も一目ぼれってわけ?」 「……まあ、そう、なるね…」 確かに一目ぼれなのだろう。なんだか意識すると恥ずかしいことこの上ないけど。ヒマワリの迷路の中でみたとき、赤い瞳に目を奪われたのだ。その雰囲気に、赤く鋭い瞳に、彼の声に、全ての感覚を奪われた気がする。 「どこに惚れる要素があったんですかー?」 「どこって…」 ちらっとザンザスの方を見ると、退屈になったのか目を閉じている。寝ているのか目を瞑っているだけなのかはわからないけど。 私が、彼を好きだと思ったところ…。 考えただけで顔が熱くなってきた。それを隠したくて俯くと、ベルからからかいの声が飛ぶ。 「ししし、耳真っ赤!」 「初心(うぶ)ですねー」 「どこ!どこなの!」 せかすように机をバシバシ叩くルッスーリア。結は机がミシという音を聞いた気がした。 「え、えっと…その、秘密ってことじゃ、だめ?」 「ダメよ!教えてくれなきゃ!」 バンっ!と机をたたいてなんとか言い逃れをしようとする結を叱咤するルッスーリア。他の人たちも興味津々と言った感じでこちらを見てくる。 「…私を、見つけてくれたから」 呟くほど小さな声だったと思うけど、皆にも届いてはいたらしく。全員が全員首をかしげた。当り前だ。今の言葉だけじゃ意味がわからないだろう。でも、それが一番の理由だったんじゃないかな。いや、その前に雰囲気とかに惹かれてはいたけど。 「結」 「ん、大丈夫」 寝ていたと思っていたザンザスはいつの間にか目を開けていて、名前を呼ばれて振り返れば、心配されているようだった。 「…意味分かんねー。じゃあたとえば最初に会ってたのがスクアーロ先輩だったらそっちに惚れてたってこと?」 「ざけんな」 ベルの言葉に、ザンザスが不機嫌そうになるけれど、きっとスクアーロに最初に出会ったとしててもザンザスに惚れていたのだろう。それはなんとなく結の中で確信できた。 「ふふ、見つけたの意味が違うと言うか…。まあ、でも、最初っから雰囲気とかに惹かれてたのはあったかな。最初、ザンザスにぶつかっちゃって、その時に目があって、吸い込まれそうだっておもったの」 「……王子、もうお腹いっぱいなんだけど」 「惚気以外の何物でもないですねー」 「惚気になるのかな?」 「しかも自覚無しですかー」 呆れたようにフランは首をすくめて見せた。 「でも、そうなると結構な歳の差よねえ」 話を変えるように頬に手を当てたルッスーリアがほう、と溜息をついた。そのしぐさは誰がどうみても女性のものでしかないのだけど、なんにしろルッスーリアの体格はがっちりとしているために違和感がありまくりだった。 その証拠に、スクアーロはうげえと顔をしかめている。 「あれ?ザンザスって何歳なの?」 「チッ、んなもんどうでもいいだろ」 「えー、なんで?」 「つか、結って見た感じ17とかその辺だろ?15くらい離れてんじゃね?」 なんとか聞き出そうとザンザスの方へ体を向けた時、独特な笑い声を洩らしながらベルの言った言葉に結はえ?と思った。 「私、もう成人してるけど」 ベルの言葉に吃驚して、今さっきまでザンザスを問い詰めようとしていたことも忘れベルたちの方を向いた。17と言えば高校生。私は、高校なんて結構前に卒業してる。 しかし、皆には見えなかったらしく、ザンザス以外の全員が絶叫した。 「成人してるんですかー?」 「ししし、ってことは俺と近いってこと?」 「んまあ!そうだったのお!」 「う゛お゛おぉい!ジャッポネーゼは童顔だと思ってたが幼すぎだろお!」 全員が好き勝手に言う中ザンザスを見れば、ザンザスも私の方を見ていた。これはザンザスもビックリしているんだ。結自身、自分が童顔なのは重々承知しているが、これでも高卒で就職して、その会社で3年間しっかり働いていた。今は化粧も何もしていないのに加え、ワンピースを着ているから余計に幼く見えるのだろう。 「失礼な。私、22歳だよ?これでも立派に社会人3年目なんだから」 「ありえねー」 若干体を引かれながら、ぽかんと口を開けている面々。 「ミーよりも年上ですかー。チッ、また一番下」 「まあ、確かに大人びてるとは思ったけどなあ!」 「外見と中身のギャップがあるとはよく言われる」 「ありすぎだろ!!」 スクアーロの鋭い突っ込みにふふ、と笑みを漏らす。 「あらん?じゃあ22ってことはそれなりに恋愛も経験してるってことよね?」 ピクっ、とザンザスの眉が動くのを見てしまった。ルッスーリアの言葉にスクアーロがお前死にたいのかあ!?と声を荒げている。いつでも逃げられるようになのか、ベルとフランが少しだけ椅子を引いた。 「で?どうなの?」 なおも食いついてくるルッスーリアに苦笑する。 「初恋はとっくに終わってたけど、私モテなかったから。彼氏はできたことないよ」 「まあ!そうなの?ってことはボスが初カレ!?」 「そうなるね。だから、どこがよかったのか今でも不思議」 チラッとザンザスを見るも、さっきの一瞬の不機嫌オーラはどこへやら。今は結構上機嫌らしくワインを口に運んでいた。 「う゛お゛おぉい!ってことはお前処女かあ!」 「なっ!それ、セクハ」 ヒュン、と何かが目の前を通り過ぎていった。それはまっすぐにスクアーロの方へと飛んでいく。 「ラ…です」 どんな命中率をしているんだろうと思う。ザンザスが投げるグラスは百発百中スクアーロの頭に吸い込まれるようにして当たる。 「今のは馬鹿なロン毛隊長の自業自得ですねー」 「ししし、ばっかじゃねえの?あんなん聞いてボスが怒んねえわけないし」 「んもう。スクちゃんったら。お下品なんだから」 「あれ?そういえば、レヴィは?」 今回ばかりは同情もできそうにない。と思っていてふと気がついたこと。そういえばさっきからレヴィが何処にもいない。 「変態なら任務にいったぜ?」 「皆はないの?」 「オレは夜までねーし」 「ミーは今日はもう済ませてきましたし―」 「アタシはもうそろそろよお!」 「今日はルッスーリアとだったなあ…」 「ザンザスは?」 「…戻る」 「へ?」 手元にグラスがなくなったから、戻ると一言呟いた後立ちあがった。突然のことについて行けずきょとんとしていると、彼は徐に私を抱き上げた。ひざ裏と背中にまわされた腕。抱えあげられているのに、ちゃんと安定感があって、彼の肉体の強さに気づかされる。 「ちょ、ざ、ザンザス!?」 「来い。お前の部屋に連れてってやる」 お姫様だっこのような形のまま、結は為すすべもなく談話室を出たのだった。後ろをちらりと覗いた時、全員が楽しそうにこの光景を見ているのが見えた。 |