ザンザスに連れられ、談話室らしき場所にやってきた結。扉を開け放した彼は、ずかずかと中に入っていく。心の準備すらさせてくれるきはないらしい。 ぎゃあぎゃあ騒いでいた中。 その中には、相変わらず奇抜な格好をしてサングラスをかけ、優雅にお茶を楽しんでいるルッスーリアと思われる人物と、ティアラをつけ、ストレートだったはずの髪をくせ毛なのかなんなのか、跳ねさせているおそらくベルフェゴールと思われる人物、そして、ザンザスが入った瞬間にはっっと顔をあげ、ボスっ!と近づいてきたのはおそらく、というか間違いなくレヴィだ。 そして、もう一人。黒いかぶりものをかぶった男の子がいる。 全員が、一斉にこちらを向いた。その視線は、ザンザスから結へとうつる。思わず彼の後ろに隠れようとしたけど、その前に、ザンザスは再び歩き出した。そして、上座へと足を運ぶ。 「ししし、ボスが女連れてるなんてめっずらしー」 「しかも、普通っぽいですねー…」 「ボスっ!その女はいったいっ!?」 「んまあっ!ボスのこ・い・び・と!?」 全員違う反応だ。こうも個性豊かだと逆に感心してしまった。 ザンザスが一つのイスを引いた。え、と思っていると、座れ。と言ってきたので恐る恐る腰掛ける。全員が凝視するなか、椅子に座るとザンザスは上座の豪華な椅子にドカッと腰掛けた。 「う゛お゛おぉおい!ザンザス!何処に行ったかと思ったらここにいやがったかあ!」 「来たか。カス鮫」 小さく呟いた声は、隣に座る結にしか聞こえなかっただろう。きっとスクアーロ自身の声によってかき消されていたはずだ。 これで、幹部全員がそろったということなのだろう。 「座れ」 その一言に、全員がどこか厳かな雰囲気を保ちつつ座っていく。そのとき、レヴィの方からものすごい視線を感じたけど、頑張って合わせないようにした。だって、あの視線は痛い。 「ボスッ!恐れながら、その女は…」 「こいつは俺の女だ」 スクアーロさん以外驚愕の声があがる。といっても、レヴィとルッスーリアの声だけが響いたのだが。ベルフェゴールは相変わらず前髪で目が見えないし、口元の笑みを深めただけでとくに変わりはなかった。もう一人のカエルの人は本当に表情すら変わらずに、わー、おどろきましたー。と棒読みで言っていた。 本当に驚いているのか疑問だ。 「こいつに傷一つでもつけてみろ。カッ消してやる」 さらっと、怖いことをいったザンザスに、結はぎょっとする。しかし、それに対してはあまり反応を示さない面々をみて、日常茶飯事なのだろうかと首をひねった。すると、ベルフェゴールが徐に口をひらいた。 「ししっ、ボスがそんなこというなんてめっずらしー。それってさ、たとえば敵とかでも傷つけねえように守んなきゃいけねえってこと?」 「当り前だ」 「ふーん、ま、ボスの命令なら別にいいよ。俺は」 「んまあっ!愛ね!愛!」 興奮したように立ち上がり、手を合わせて腰をくねくねさせるルッスーリア。それを視界に納めないように体ごとこちらを向けるベルフェゴールは、目は見えないがまじまじと結を見て呟いた。 「でも、俺そいつどっかで見たことある気が済んだよなあ…」 「ああ?んなわけねえだろお!昔殺した奴に顔でも似てんじゃねえかあ?」 「それだったら、王子覚えてないし」 「うわー。覚えてないなんて記憶障害でもあるんじゃないですかー?」 「は?んなのあるわけねえじゃん。そうじゃなくて、殺した奴じゃねえってことだよ」 うーん、と考え始めるベルフェゴール。あったことがあるとしたら、リイナのことだろう。でもあいにく、リング争奪戦のときのリイナの行動は誰も教えてもらっていないから知らないのだ。だから、誰とどのように接触しているのかよく知らない。 何かがあったのは確かなようだけど。そればっかりは、日記には書いてなかった。 「ボスっ!そんな何処の女かもわからない女を!」 レヴィが何やら必死な様子でザンザスに詰め寄った。しかし、それをうざったそうに聞き流している。まあ、そりゃあ、いきなりぽっと出た女を守れとか言われて、納得できるわけないよね。 そう思って立ち上がる。そうすれば、レヴィは女!何をするつもりだ!と声を荒げた。ザンザスの方を見ると、目を開けて私の方をじっと見つめている。何も言わないと言うことは好きにしていいってことだと解釈してもいいんだろうか。 まあ、いっか。怒られたら、怒られたでそのときだ。 「結です。いきなり出て来た女を守れと言われても、納得いかないのは重々承知しています。私も、みなさんに迷惑をかけないようにしますので、しばらくここに置かせてください」 お願いします。と深々と頭を下げた。勝手な理由であることは確かだろう。レヴィ辺りは怒りだすんじゃないだろうか。 「うしし、王子こいつ気にいった」 「ベル」 「ボスの物に手を出すほど命知らずじゃないから安心して。俺、ベルフェゴールね。特別にベルって呼ばせてやるよ。あと俺王子だから」 「王子って言ってもどうせ堕王子ですしー。しかもいい年して…痛い」 「は?何言ってんだよ。堕王子じゃねえし」 そういって、彼はどこからともなくナイフをすらりと取り出すとそれをためらいもせずカエル頭の彼に投げつけた。ビックリして目をつむるも、耳に聞こえる、ちょっとー。痛いんですけどー。というなんとも痛そうにない声が聞こえておそるおそる目を開ける。カエルにグサリと突き刺さっているナイフ。しかし、頭まで到達していなかったのか、全然平気そうだ。 「あ、ミーは、フランっていいますー。高飛車な女だったら、関わりたくないなーっておもったんですけど―、全然違うみたいなんで―。まあ、よろしく」 片手をあげ、軽く挨拶をしてくるフラン。 本当に抑揚のない声をだす。表情だってほとんど崩さずにしゃべるから、不快に思っていてもきっとわからないだろう。 「アタシはルッスーリアよお!女どうし仲良くしましょうねえ!」 「う゛お゛おぉぉい!お前は女じゃねえだろ!」 「まあっ!心はお・と・めよ!」 「気色悪いこといってんじゃねえ!」 「んもう。ほら、スクちゃんも自己紹介したら?」 それで呼ぶんじゃねえ!と怒鳴り声をあげるスクアーロ。すごい声量だ。毎日あんな感じで叫んでいたら喉が枯れてしまいそうだ。しかも、あのう゛お゛おぉい!ってどうやって出してるんだろう。 「…スクアーロだあ」 落ちついたらしい彼は、さっきのような怒鳴り声ではなく、普通に名前を言った。それに思わず、普通にしゃべることもできたんだったと思ってしまったのはしかたないだろう。 「お、俺は…」 スクアーロの言葉が終わると同時に口を開いたのは、ザンザスの近くにいたレヴィで、若干どもりながら、少し目を泳がせながら言葉を紡ごうとしたところで、ベルがそれを遮った。 「あ、そいつは変態だから」 「貴様っ!何を!」 「ししし。きめえ顔、こっちにむけんなよ」 「ぬうっ!貴様っ!ここで殺してやる!」 「お、やってやろうじゃん。そのきもい顔、二度と向けられないようにぐちゃぐちゃにしてやるよ」 「う゛お゛おぉぉい!ふざけんじゃねえ!やるんなら屋敷の外でやれえ!」 ベルは、レヴィを変態だと結に向かって言い、それにしたいして怒ったレヴィは背中のパラボラを抜き取った。それを見て、至極楽しそうに笑みを浮かべ、何処からともなくナイフを取り出すベル。 それを止めようとしているのか、そうでないのか、外でやれ!とスクアーロが叫んだ。 「レヴィ」 まさに、鶴の一声だった。ザンザスが名前を呼ぶと、はっ!と足を揃えて立ち、戦闘態勢を解く。 「ベルも勝手なことしようとしてんじゃねえ」 獰猛な獣の睨みっていうのが当てはまっていたと思う。そのときのザンザスの目はとても鋭かった。でも、正直助かってたりする。だって、ここで戦いなんて起こされたら、無傷でいられる自信はない。 そのあとも、いろいろと彼らの言い合いが続く中で、途中からどういう方向転換をしたのか、結に対しての質問タイムへとその場は化してしまった。 |