12:that you found by the side of the road

あれから、数日が過ぎ去った。


あのあとから、リイナに向ける骸の視線は柔らかくなった。彼がリイナに対する態度は、妹のそれのようで、どこか優しさを含んでいた。もともと柔らかい物腰だったからか、とても親しみやすい。


恭弥は、群れるのを嫌う人だからあまり一緒にいないけど、たまに彼の部屋に招かれてはお茶をするようになった。彼とする、ポツン、ポツンとした会話は結構楽しかったりする。


リボーンは、最初のあの時意外とくにあたしに対して何か想っていることがあるような風ではなかった。もともとポーカーフェイスの人だから、何を思っているのかはよくわからないけど、それでも、あたしをリイナとしてちゃんと接してくれているのは分かる。


他の人たちともどんどん仲良くなり、日記にあったような、ビデオにあったような楽しい毎日が送れていた。


「リイナ。ちょっといい?」


いつもの如く、今日、任務がなかった武と談話室でおしゃべりをしていたリイナ。そこに、少し気まずそうにしながら綱吉が入ってきた。
入ってきてそうそう、気まづい理由はなんなのか、思いめぐらせても分かるわけもなく首をかしげる。


「どうしたの?お仕事が終わったの?」


「いや、そうじゃなくて…」


歯切れが悪く、頬を描く綱吉を見て、武とリイナは顔を見合わせた。どうやら武も心当たりはないようだ。


「何?」


「今日、お客が来るんだ」


「お客さん?」


ボンゴレの本部にお客がくるというのは珍しかった。本来、本拠地をばらしてしまうのはあぶないことなので大概外のホテルや、ホールを貸し切って会談をすることが多い。
しかし、それも特別親しい間柄。つまり、キャバッローネのディーノなどだったら、直接本部に来ることもありえた。


「ディーノさん?」


「いや、ディーノさんじゃないよ」


「なーんだ…。会いたかったのに」


拗ねたようにわざとらしく口をとがらせれば、綱吉から苦笑が返ってきた。


「そういやあ、リイナは昔からディーノさんになついてたよなあ」


「そう?だって、カッコいいじゃん!あのヘナチョコを抜きにしたら」


「なっ!お兄ちゃんの方がかっこいいだろ?」


焦ったように食いついてくる綱吉をみて、さっきまでの決まりの悪い顔はなんだったのか。とちょっとあっけにとられる。


「うーん…。お兄ちゃんも、昔がアレだからなあ…。部下がいるときのディーノさんはカッコいいと思う!まさに王子様!」


「昔のことは引き合いにだすなよ…」


肩を落とし、うなだれる綱吉を見て、リイナは少し遊びすぎたかなと思う。元気を出してもらうために、お兄ちゃんもかっこいいよと言ったら、照れてはにかんでいた。
その表情をみるかぎり、カッコいいというより、可愛いっていう表現の方が近い気がするのは気のせいじゃないだろう。


「で、お客さんが来るんだっけ?」


「そうなんだ」


「誰…」


「それは…」


いつもなら明言するくせに、珍しく言葉を濁す綱吉。つまりそれは聞いてほしくない、または知られたくない相手だということ。


「ってのは別にいいとして、あたしはどうすればいいの?給仕でもするー?」


冗談めかしてちょっと上目づかいになるように首をかしげて見せれば、苦笑が返ってきた。


「それはメイドがしてくれるから。じゃなくて、リイナはしばらく部屋か、庭にいてほしいんだ」


「部屋か庭?何そのチョイス」


部屋にいてほしい、というのは会わせたくないということから考えてもわかるが、そこに庭という選択肢も入るのがリイナにはわからなかった。


「他の場所は、あいつらが動きまわっちゃうかもしれないし…かといって部屋ばかりは退屈だろ?」


「まあ…。庭にいてもいいの?」


「うん」


「いつ来るの?」


「午後からだよ」


「じゃあ、お昼食べてから引っ込めばいいのー?」


「うん。ごめんな」


「いいよ。お仕事だもん」


申し訳なさそうに眉を下げる綱吉。綱吉は彼女の目から見て、あまりボスらしくなかった。それはリイナにたいして兄として接しているからなのかもしれないが、それ以上に、綱吉は命令をあまりしようとしない。上に立つ者としての威厳を示せと毎回のようにリボーンが銃を片手に言っているのだが、下手に出るところはなかなか変わらないようだ。


「ありがとう」


安心したように肩の力を抜く綱吉。それほどまでに会わせたくない人物ってことは、そこまで親しくないのだろうか?と考えたけど、そのあと話をすりかえるように、武が話し始めたので、思考はそこで打ち切ることとなった。


そのあと、綱吉はまだ仕事があるとかで談話室から出ていった。


「にしても、お客さんって誰なんだろーねー」


「さあ?」


「あたしに合わせたくない人って…、もしかしてっ!」


「お、わかったのか?」


さも愉快だと笑いながら聞いてくる武に向かって神妙な面持ちを向ける。


「もしかして…、お兄ちゃんの愛人、とか?」


「は?」


さっきまでの笑みはどこへやら。ぽかんと口を開けて固まる武。まじまじとリイナを見る目は、なかなか正気に戻らない。


「きっと、そうだ。あたしに後ろめたいから隠そうとするんだね!いまさら恋人の一人や二人、お兄ちゃんにいたところでどうともしないのに」


「…いや、ツナに、愛人の類はいねえよ…」


「えー、じゃあ、前から疑問だったんだけど。リボーン君は、愛人がいるじゃん?現にビアンキさんだってそうだし。でも他の人は?」


「他っつーと、獄寺とか先輩とかか?」


「了平君は、婚約者いるらしいでしょー。で、他の皆は顔がいいでしょー?だったら恋人とかいないのかなーって。愛人だって、より取り見取りでしょ」


「より取り見取りって…」


苦笑する武。
しかしより取り見取りなのは本当のことだった。実際、そこに立っているだけで女は寄ってくるのだ。かといって、そんなことをリイナに言えるわけもなく、武はなんて答えようか迷ってしまう。


実際、愛人の類は、つくらなければいけない状況に追い込まれた。それを仕組んだのは他でもないリボーンなのだが、愛人をつくるのもマフィアのたしなみだとかで。それ以外に、情報収集にも役に立つということらしいが、武としてはそういうのは好かなかったから、なるべく断っていた。


その辺の事情を、リイナの口からすらすらとのべられていくことに、内心どぎまぎしてたのだが、最後にリボーン君が言ってたという言葉に、思わず脱力してしまった。


「…小僧もどんなこと教えてんだよ…」


苦笑する武。確かに普通は女子供に聞かせるような話じゃ無い。しかし、リイナとしては知っていて損はないと思っていた。もちろん、そういう行為はあまりよくないと考えているが。


「で、どうなの?」


「…俺はいないなー…。メンドくせえしな!」


「えー、じゃあ好きな人とかいないの?」


なおも食い下がって聞いてくるリイナに、武は苦笑する。


「マフィアやってると、人を好きになんのが怖くなるんだ。十中八九、そいつが的になるだろ?」


「んー…、でも、そんなの寂しくない?だって、どうやったって、人を好きになったりはするもんだよ」


「リイナは、好きな奴いるのかディーノさんとか?」


「ううん。いなーい!だって、過保護なお兄ちゃん達がいるもん!」


ケラケラと声を立てて笑えば武も確かにそうだな、と言って笑った。


その後、お昼までずっとおしゃべりして、そこに綱吉がやってきて3人で昼ごはんを食べることになった。




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