10:that you have won

庭を散歩していた。大きな庭には、綺麗な噴水があったり、たくさんの木々がおいしげっている。しかしどれも整えられていてとても精巧な西洋のつくりをしていた。


あるいていると、一つの大きな木があった。周りにある木とはあきらかに違う地肌をもつ木は、そこに堂々と立っている。周囲に溶け込んでいるようでどこか違和感を感じられるその木に、気づいたら近づいて行っていた。


「…さくら?」


木肌に触れてみれば、それは覚えのある感触。日本ではよく目にする木だ。
日記に書いてあった通りだ。これは、日本人である彼らのために9代目からのプレゼントだったらしい。毎年春にはこの木に咲く花を肴に花見をしていた。


「リイナ、さん?」


「!ランボ君」


後ろを振り返れば、驚いた顔をしているランボがいた。どうしたの?と聞けば、ここ、という単語が返ってくるだけだった。
どうやら、彼にとってもここは特等席だったらしい。


「ねえ、ランボ君。知ってる?」


ランボから視線をずらし、木に手を当てる。ごつごつとした感触が手のひらから伝わってくる。上を見上げれば、葉の間から光が漏れていた。その光に彼女は目を細める。


「この桜の木の名前」


「…桜、じゃないんですか?」


「桜の中にもいろいろと種類があるの」


種類、と呟くランボの表情は見えなかったが、もしかしたら困惑した表情だったのかもしれない。


「ソメイヨシノ」


「ソメイ?」


「ソメイヨシノ。日本でもっとも多い桜の木。歩道横とかに生えている桜はたいてがこの木」


繰り返そうとして途中で詰まり、首をかしげたランボのために、もう一度ゆっくりとその名の口にする。


「そうなんですか?じゃあ、すごい生命力なんだ」


「うーん。そうでもないんだよ」


「え?」


驚いた様子のランボを振り返る。そこには若干眉をよせ、どう言葉を返せばいいか考えあぐねている彼がいた。10年前よりも大人になり、10年前によく見せていた姿になっている。牛柄のシャツは相変わらずだ。変わったことと言えば、頭になんでもかんでも詰め込む癖が治ったといったところだろう。


「この桜はね、自分では種をつくれないから、他の植物のように自分で仲間を増やすことはできないの」


実をつけない花。実をつけなければ、種も何もできない。だからこそ、簡単に増えないのだ。それは利点でもあり欠点でもあったのだろう。


「人工的につくられた木でね。つまり品種改良っていうやつなんだけど、自分で増えることはできないから、人が増やしていくしかないんだって」


苗木とかでね。と言えばへえ、という感心したような声が返ってきた。


「つまりね、この桜の木は、必要とされてここに植えられたってことだよ」


自分で数を増やせない分、人がこの桜を求めて、この桜を見たいがために増やしていく。必要とされてその場所に立っている。


「同じ桜だけど、クローンであるこの桜は、前までは同じだった桜とは違う。切り離されて、違う地に植えられて、違う桜になった」


「…リイナ、さん?」


「必要とされて、ここにいるこの桜は幸せ者だよねー」


ぺしぺし、と木肌を叩きながら冗談めかして言うと、ようやく普段のような雰囲気に戻ったからかランボはほっと息を吐き出した。


「リイナさんも、必要とされてますよ。オレ達に」


「本当?ありがと!」


振り返り、満面の笑みを浮かべる。


「よしっ!ランボ君!登るよ!」


「え!?」


「ほら早く!」


少し離れた場所にたっていたランボの手をとって桜の木に近づく。それで、のぼれそうな場所からランボに押し上げられながらもなんとか上った。あぶないあぶない、と始終言っていたけど、結局ランボも一緒に登った。


そして、一本の太い枝に腰掛ける。


「ねえ、ランボ君」


「なんですか?」


「できれば、昔見たいにリイナって呼んでほしいなーって」


隣に座ったランボの顔を覗き込みながらお願いしてみれば、少し顔を赤らめるランボ。


「…わか…、た。…リイナ」


「へへー、やっぱりそっちの方がしっくりくる!」


そのあと、そこでいろいろと話していた。ランボからいろいろと思い出話を聞いたりして、散々笑った。そんなことをしていたら、何があったのか、ランボがすべり落ちてしまい、頭から地面に激突。


「が・ま・ん…」


頭を抱えるように押さえ、必死に耐えている姿はとても痛々しかった。なんといっても、どうやって堕ちたのか頭からまっさかさまに落ちたのだ。なのに、痛みに耐えるだけで済むのだから、やはりマフィアだと言えるのだろうか。といっても、ここまでドジだったら、今後が心配だとリイナは溜息をつく。


そのあと、ランボが心配だから降りようと奮闘していれば、途中で綱吉に見つかり、こっぴどく怒られてしまった。


だって、登りたかったんだもん。と拗ねたように言い訳をすれば、子供じゃないんだから、と苦笑されてしまった。なので、ちょっとむかついて、あたしはいつまでも子供でいいもーん!といって、未だに頭を抱えて痛がっていたランボの手を引いて屋敷までいっきに走った。




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