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星に歩き出す/坂本(長編話とは無関係短編)
社長の付き人として、
ようは酔っ払いってふらふら行方不明になってしまう社長のお守り役として、

このスナックスマイルに同席したのが先刻


早々に注文した品々でテーブルを埋め、数人の女性に囲まれ ご満悦


そしてお決まりの口説き文句で お決まりの指名の女性に飛び付いて
お決まりの鉄拳を食らう



彼の顔を拳で撫でる様に穿つ彼女はとても綺麗で…
着ている服も女らしい憧れの和装


嗚呼 このオトコはこういう女性に惹かれるのだなぁ…と、
なんだか冷やかに分析している自分が居た


彼はあんなに優しくて一企業の社長さんでイイオトコクンだ
恋人の一人や二人がいて おかしくない
当然


そう…
私には関係ない…


関係ない――――

鈍く、冷える様にドキドキ…
そして胸の奥が少し痛い



でも
気のせい
気のせい気のせい
大丈夫



「大丈夫」と重ねた数だけ
息が息が

何故だかもう、苦しくなって



後から言い訳が出来るように 彼に発信器を取り付けておこう…………

そんな考えには思い至るのだが

感情が邪魔をするので、やはり…結局
苦しい



『先に戻りますね』

クールを装い
私は彼らに背を向けて歩き出す



「聚楽!」



彼に私は呼ばれる

その声に呼ばれる

嬉しいはずなのに



彼女を呼ぶ名前と、私を呼ぶときの名前の距離感に気が付いて
殊更 苦しく――――


私はそのまま 走り出す

結局
逃げてしまった

たどり着いた雑踏


歩いてく人々の声、車の音
機械音、宣伝、流行りの歌


さっきまでの彼の後ろ姿が
まるで白昼夢だったかのように
意識の底の静けさの向こうに溶ける


切れた息を整えて、
乱れた髪を手櫛で宥める


逃げ出してしまった自分の幼稚さが眉間の皺になって溜め息になって

虚空を見つめた時

雑踏の向こうに彼が居たのだ

そして目が合った

息を飲む


どうして 貴方は駆けて来るの?

「おーい聚楽!」


『…どうしてここに…おりょうちゃんは?』


「聚楽が突然走り去ってしもうたからのう、別れを言うてきたぜよ」


『あまり会える時間が無いじゃん…
久しぶりにおりょうちゃんとせっかく会えたのに…なんで…』


私なんか 追いかけて来たの?


「おりょうちゃんにはもうしっかり元気を貰ろうたからのう」


『そんな短い時間じゃなくて…もっと一緒に居たかったんじゃ』


「聚楽」


遮るように坂本さんの声が響く


「わしはおんしと居る時間のほうが…もっと欲しいんじゃが…」


なんで…私…?

『おりょうちゃんが好きなんじゃないの?』


「ええっ?」


『ええっじゃないよ
いつも 地球に着たら真っ先に会いに行くし、結婚してとかすごい言ってるし…』


「おお…そ、それはアレじゃ
アイドル熱みたいなもんじゃ
あがなオナゴと酒ば飲めるんじゃ、テンションも上がろうて」


がっはっは
そんな豪快な笑顔でそんな事言われて…
胸はまたチクリと痛む


「キャバクラでは『結婚して』は挨拶なんじゃ」


『坂本流でしょっ…軽っ』
少し軽蔑気味に坂本さんを見つめる



「…聚楽…気にしとったがか?」


『気にしない方がどうかしてる…ただ、おりょうちゃんの事を愛してるんだなぁ、と思ってたよ』


「…」


坂本さんは気マズそうな、困ったような顔をして
「参ったのう…」


「実は、わしが好いとーるのは」


「聚楽なんじゃがのう…」


『えっと?なにそれワケわかんなくなってきた
友達として?恋愛感情?』


「この話の流れだからわかるじゃろ、恋愛感情に決まっとろうが」


頭をガシガシと掻いて顔をしかめる


『なんでおりょうちゃんの…』


「だーもー!繰返さんといてくれ!!混ぜっ返したんは謝るっちゅうに」


「わしは…いつもこうやって 聚楽と近くに座って、酒を飲み、話ができるだけで充分だったんじゃ…
そも、もし 心の声を伝えて、この関係が壊れてしまうのが怖かったのかも知れん…」


「案外女々しいのう」

ハハハと罰が悪そうに笑う


『なんで…今まで怖かったのに、教えてくれる気になったの?』



まさか 遠くにまた行ってしまうんじゃないかと
胸を寒気が覆う


「わしは…たまに 出張や長期に艦を留守にすることがあるし
また大きなプロジェクトが控えちょる
次に帰ってくるのは相当先の事だと思う」




目の前が暗くなった


「遠い遠い所に行かねばならん…」


涙が溢れる

「聚楽?」

『私も連れてって…』


坂本さんのコートを握り締めて 人目も憚らず涙声をぶちまける


『ずっとずっと前から好きだった…
けど おりょうちゃんの事を坂本さんは好きだと思ってたから、
ずっと我慢してた
ずっと…ずっと』


「…聚楽」


『私だって 坂本さんとの距離感が壊れてしまうこと、凄く怖かったよ』


「聚楽」


『これ以上、離れて行かないで』


「おまんを連れて行かんと、誰が言うた」


『坂本さん…?』


「今日は…おまんを拐いに来たんじゃがのう…
先に言われてしもうたな
付いてきてくれるか?聚楽」


いつもの笑顔と少し違ったのは照れ臭そうに頬を弛める


私 やっと、素直になれたんだ
途端に恥ずかしくなる



『私が…イヤって言っても、乗っけてく積りはあったんでしょ』


「よく分かっとるのう、おまんが振り向かずにいられないほどのアプローチは考えてあったんじゃ」エッヘン


『おりょうさんが振り向かなかったのに私が振り向かない訳無いでしょ』


「ん?なんかそれおかしゅうないか?」


『おかしいね…』


人波に紛れて
笑い声が 幸せそうに雑踏に溶けて往く


『何時の間にこんなに好きになってしまったのかな』


「およっ」



抱き合う二人は
今日 星に歩き出す


end



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