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午後の夢境と素直/土方
本日 久々の非番である

大した予定は無いが少しオシャレして出かけてみた女心

小さな幸せ

こんなゆとりを大事にしていたい



町の雑貨屋さんで新しいアクセサリーを買ってみた

それだけで足取りは軽く
少し人の多い電車内だが吊革に体重を預けるのも苦ではなかった

彼の声が響くまでは



「おいコラ オッサン てめぇ何 撮ってんだよ」

「ひぃぃ、や、やめてくれ 私は何も…」



振り返ると 見慣れた鬼の副長が盗撮犯をふん縛っている見慣れた風景



あれ…なんでいんの
見慣れた黒い制服……



取り上げたケータイの画像を操作して


土方「おい、確認してくれ あんたが盗撮されてたんだ」


『えー…せっかくの非番なのにー』


土方「うお!?聚楽じゃねぇか!」


『気付いてて助けてくれたんじゃないんすか、副長』


土方「…オッサンも趣味が悪いな、とにかく現行犯だ……もちろん聚楽も来い」


『ええええ何でですかー つか趣味悪いって何だよー』


土方「被害届出すだろ、つか出せ。あとは説教だ」


『はぁ?説教とは??何で何でー 私被害者ですよー』


土方「そんな緊張感の無い格好でうろついてるから 餌食になっちまうんだよ」


『緊張感あるし!さっきの画像の私の下着を見直してみてくださいよ、ちゃんと対策してあるし!』


土方「対策だぁ?」



少し気まずそうに副長が確認した画像を指差して 私は憤りを言葉にする



『盗撮犯が萎えるくらいキモい下着を着用してたら防護策にはなるでしょ!ホラ、アメフラシ柄のボクサーパンツ!』


土方「ンなモン防護策になるか!」


『触手も付いてるんですよー?』うねうね


オッサン「ゲェェェェ 撮るんじゃなかったぁ!キモいー!」


土方「」


━━━
━━



屯所にて、
書類を書いて一段落
しかしせっかくの休日気分もゆとりも吹き飛んだ


『あーあ つまんないピンクハプニングだよ』


土方「ったく そんな狙われそうな格好しやがって
真選組としての意識が足りねぇんじゃねぇか?」


『何言ってくれてんの?普通の町娘らしい格好じゃん!それに非番の日のお出かけに 好きな格好して何が悪いの??
真選組としての意識が足りないなら 私みたいに定期的に戦果を挙げられるかなぁぁぁぁ?
今回の盗撮犯だって 囮捜査だと思えば上出来だもんね』


堰を切った不満が止まらない
日頃の鬱憤のせいかここぞとばかりに止まらない
ああ、とまらない



土方「チッ…ギャーギャーと減らず口が」



『大体、この着物選んでくれたのは局長なんだけど??この格好に文句があるなら局長命令に文句があるって事じゃないの?
局中法度に抵触しーてーまーせーんー?』



土方「あーもーわーったわーった うるせぇな
そもそも近藤さんは甘ぇんだよ」


私の階級や世話を焼いてくれてる事に対してだろうな
そーゆーの言われるの 面倒だから 仕事も頑張ってたのに

ガミガミ
クドクド始まった


この人のこんな顔を見ていたい訳じゃないし 8割が身嗜みや、女性である事を意識しろ、みたいな指導だし

疲れてしまった



『もーいー 興が醒めた!夢から醒めた!』


土方「あっ 話はまだ終わってねぇぞ!」


聞こえないフリでスタスタと自室に向かってしまう口元から、ぶつぶつと
『せっかくの休日が残念』とか零れていく

そんな不機嫌レディに声を掛けられる無頓着さには感心すら覚える、我らが局長の大きめの声


近藤「おっ!聚楽 帰ったのか」


それは廊下にて明るい笑顔と共に響いた


『聞いてよー局長!この服せっかく局長に貰ったのに副長がケチつけてくんだよー!』


近藤「おおおお落ち着いて聚楽、どしたの」

メーターMAXのイラつきをこの人の良い男にぶちまけてしまおう

じゃないと あのマヨネーズ太郎へのイライラで死んじゃう



先刻の出来事を説明したら
局長はワハハと笑って言う



「トシらしいなぁ」

『おかげで今日というホリデーがマヨ色に塗り替えられちゃったよ』

「けど 気付いてるんだろ?
アイツがそのまま電車に聚楽を置いてかないで連れて帰ったのも、おまえがこれ以上変な事に出会さない為の気遣いだし…
今日、攘夷志士がそこいらで検挙されてるから 特に、さ?」


『……まぁ、確かに…』


唇、尖らせつつ 本当は気付いてるトコロ
キマリが悪いので 小さく溜息をついて 頬をちょいちょいっと掻いてしまう


『もう…分かったよー…』


この辺は暗くなっちゃったら余計に治安が悪いし
色々気遣ってくれてるのは…
分かってる…


「まぁまぁ、そうカリカリするな
俺が選んだ着物がお前さんの女っぷりを上げてるんだ。嬉しいけど 俺にも責任がある」


『えっ いや 局長は悪くないよ』


副長ならここで

[真選組の一員なら 上がった女っぷりに、警戒心も比例させて 隙を作るな]

とか言うんだろうな



「ねぇ、来週有給あげるからさ……今日トシは比較的簡単な書類作業を残ってやってるはずなんだ、
コレ、後で差し入れがてら手伝ってやってくれないか?」


ガサっと音をさせるビニール袋にマヨネーズと甘味が入ってた


「有能な女の子には休息をあげなきゃだもんな、いつもありがとう。聚楽」



局長…なんてイケメンなんだろう

私の考えてる事 見透かされてるんだろうな…

こうして仲直りするキッカケを作ってくれたり…



お妙さんへの腐った態度さえなければクラッとしてたと思うよ、いやホント
ときめきポイント高い


━━━
━━



隊服に着替えた私は、静かに事務室の戸を開けた


『副長、居ます?』


土方「聚楽?なんだ、隊服着て。せっかくの休みがどうとか言ってたんじゃねーのか」


『…近藤さんからの差し入れです、食べて下さい。あと事務処理の人手も』


土方「人手って…まさかおまえか?」


『難しくない作業って聞いて』


土方「…できるのかぁ?」


『失礼だなぁ、つべこべ言ってないで手伝わせて下さいね
私がわからん書類は副長がやりなさいね、わかったて?』


土方「何で上から目線なの?ホントに手伝いに来たの?」


『今日、あ…ありがとうございました
あと 感情的になっちゃってごめんなさい』


副長はキョトンと間を開けた



土方「え びっくりした
おまえが…随分殊勝な態度じゃねぇか」



『…だって 副長のしてることも言ってることも、間違ってないし』


照れくさそうに目を合わせられない私を見て
副長は息を少し長く吐いて身体を伸ばした


「コーヒー、淹れてくれ」


『…はい』


[一息入れるぞ]って合図
副長の鋭い目が少し微笑んでいるように見えた

また彼は煙草を吸うので
苦い煙をくぐって甘味の箱を開けた


━━━
━━



ー深夜ー

━━━
彼目線
━━━


『土方さぁん…』



また聞こえる寝言

いい加減にしてくれ


『土方さぁん…大好き…』



またまた


ここのところ この時間の事務仕事で うたた寝する聚楽が
結構寝言を口にしているのだ
今に始まった事じゃない



ただのサボりやダラけなら、局中法度で怒鳴り散らし 叩き起こしてやる所だが
夜遅くまで、俺のサポートの為に付き合わせてしまったりすることに 負い目もあるわけで
中々強くは出られずにいた


本来 オンナの身で引っ張り回すのは本意ではないのだが この人手不足だ


性差とクチの悪さによる使い難さはあるが
使い勝手の悪くない人材だからな
ブツブツ そうさ 他意は無いとも


しっかし、はっきりと聞こえる
吐息を含んだ
湿り気のある 耳に残る 寝言…



『土方さんの手、あったかい…』


どんな夢を見ているのやら…

ニヤけた口元がだらしねぇぞ、聚楽


てか いつも副長って呼ぶくせに 今は名字で呼んでンぞ…ったく



『土方さん、鎖骨キレイだね…むにゃむにゃ』



むにゃむにゃって…
むにゃむにゃじゃねーよ
てゆーか どんな夢を見てるんだよ


鎖骨だぁ?



こっちの気も知らねーで

変な夢見てんじゃねーよ



…おまえは何時も起きてる時なら、
態度はおろか、そんな素振りは見せなかった



屈託の無い笑顔で いつの間にか俺の胸の隅に住み着きやがったじゃねぇか



気のある様な
視線すら
言葉すら
何も見せずにいたじゃねぇか



二人しか居ない空間でこんな時に
何でそんな表情 魅せやがる


おちょくってんのか?


『土方さん…好きだよ…いい匂いだねぇ』

「…!」




あーもー……いつもならヤニ臭ぇだの煙っぽいだの文句しか垂れねぇくせに…


そんな笑顔で
俺の名前を呼んで
寝てるんじゃねーよ…


また頭から離れなくなるだろーが



そうやってそうやって

ホントに、
そんな顔で
俺の名前を呼ぶのはなんだよ



平静を装ってたんなら台無しだぞ?

お前の内にある思惑が…聞こえちまったんだぞ


なぁ…逆に計算なのか?
狙ってやがんのか?


実は起きてやがるとか…
卑怯者め…



『土方さぁぁぁぁん…』
プクー

「!?」


い 今の鼻提灯はねぇだろ…
いくらこいつでも、起きてたら 頬のひとつも染めるよな…


ってことはやっぱ寝てる?


………



クソッッ
どっちにしろ これじゃあ今日も眠れねぇ

仕事は一段落したのに



また明日、どんなカオで面ぁ
突き合わせりゃいーんだよ…
平常心の装いに…自信がねぇ



恋の炎なんて
この煙草の先の温度くらいで俺には調度良い

暑苦しい恋なんて もうしないと思ってたのに…


クソッ
作業を続けようにも手につかなくなってきた


静かに目を伏せて聚楽の肩にブランケットを掛けてやる

だが少し物足りなくなって 髪を一束つまみ上げ口付けて

鼻孔に微かに残った女らしい香りと 指先の感触を掻き消すように
もう一度煙草を燻らせた



end



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あきゅろす。
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